さなぎでいれない私たち −−− 六月④ −−−
オセロが五戦二勝三敗になったところで、新幹線は京都駅に着いた。私たちは荷物を持って電車を降り、クラスのみんなに指示を出して駅前に止まるホテル行きのバスに乗り込んだ。
この後はホテルで遅めの昼食を取り、部屋の整理や寝具の用意、避難訓練などを行って、鴨川沿いを散策する。
ホテルは、というより旅館は私たちの貸し切りで、お風呂や売店も時間内であれば自由に使ってもよいとのことだった。
男子と女子はもちろん別棟だが、食堂や大浴場、売店では会うことができた。話をしたりトランプを一緒にするのには、大広間である「桜」に行く必要があるけれど、特に心配していたほどの不便はなかった。卓球場も予約さえすれば使えたし、テレビだって見れた。
夕食後に卓球場へ行くと、早速賀屋くんと、無理やり誘われたのであろう尾張くんがいた。賀屋くんはスマッシュを連発し、しっかりインしているのだが、尾張くんには負けていた。
「運動神経いいっ人って、ほんとに何でもできんだね」と、杏莉ちゃんが感心したように言う。
「私たちも卓球する?せっかく予約したんだし」
「そうだね」
私たちは三〇分卓球をして、お風呂に入った。少なくともその三〇分の間、賀屋くんは尾張くんから一セットもとることができなかった。
そのたびに発せられる、賀屋くんの悔しそうな声を終始聴きながら私たちは卓球場を後にした。
「ねぇ、瑞穂は賀屋くんのことどう思ってる?」
お風呂で杏莉ちゃんは私にそう訊いた。それを聞いてみんなが寄って来て、「瑞穂って賀屋くんのこと好きなの?」と(それがどういう意味合いのものかは別として)興味ありげな、高い声で言った。
私が困り顔をして、「いや、どうって中学一緒なだけだし、そんな関わりないから」と言うと、みんな「なぁんだ」と、内心嬉しそうに言う。
悪かったですね、賀屋くんと付き合える器じゃなくて。面白くもなんともなくて、と私が思っていると、杏莉ちゃんは口ごもり、「まぁ、でも……」と言った。
「何?杏莉ちゃん」
すると杏莉ちゃんは、「別に」と笑って浴槽から出て行った。
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