さなぎでいれない私たち −−− 八月① −−−
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八月:夏季休業
海なし県の夏は寂しい。
それは経済的にも、夏の思い出においても言えることだ。プールや川なら無数にあるけれど、やはり海となると話は変わる。
音楽室の窓から見えるのは青々とした山ばかり。その向こうに、きっと尾張くんの家はあるんだろうと思う。
クーラーの効いた部屋からは、酷暑の中、十八キロの道のりを自転車で漕いでくることを想像すらできない。
そもそもなぜ、電車を使わないのだろうか。確かに駅は遠いし、本数は少ないけれども、そっちのほうが絶対に楽なはずだ。きっと尾張くんのように長距離を専門でやっていて普通に二〇キロくらい走れる人でなければ、その距離を電車か車以外の方法で移動しようなんて思わないだろう。
向日高校は市の予算と土地を贅沢に使い新設された高校であるため、部活動は全体的に強い。サッカー部、陸上部、吹奏楽部。野球部はないがその分陸上部は毎年(といっても歴史が浅いのでここ五年くらいのここだが)インターハイに出ている。おかげで倍率は高く、学生を県外に残したいという狙いは成功していると言える。ただ、大学進学を考えるのであればやはり県外に出る必要がある。
国公立が一つと、私大が一〇に満たない程度しかないため、どうしても東京へ出る人は後を絶たない。おまけに、県内の大学数を考慮しない自称進学校の大量出現によって大学の許容数を超える進学希望者たちが進学先を失っている。
そんな中で向日高校の進学率は高い。そのまま就職を選んだ人はこの三年いないと先生たちは誇らしげに言っている。
部活に行き、終われば塾に缶詰になって勉強する。それが高三の私の過ごし方だった。
一、二年の時はもう少し遊んだりもしたけれど今はそうもいかない。毎日気が狂いそうになりながら勉強し、朝が来れば吐くほど楽器を吹く。楽しそうに夏休みを過ごす小学生を見かけると、たまに、自分がなぜこんなにも苦しい思いをしているのかわからなくなる時がある。
それでも、私は音楽室で狂ったようにホルンを吹く。毎日同じ方向から日が当たるので、顔の片側だけ不自然にやけていないか心配になる。外の運動部の子たちはもう真っ黒に肌をやいていた。
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