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世界の細部

 最近ずっと荒川洋治の詩集『真珠』を読んでいた。
帯文に、詩集世界へのヒントとなる文字が羅列しているのだけれど
ひとまず先入観を持たないように最初から最後まで通読。それから
調べたい事柄について調べ、読み直す。
 単純にその作業が愉しかった。というのも、時折は有名な人物や出来事が
登場するとはいえ、そのほとんどが歴史の細部、サイドストーリーのように
扱われている事柄であり、私は知らないことが多かったから新鮮だった。
 調べ物をした後と、前では多少読みが変わる。但し大きくは変化しなかった。16編の詩作品がとても魅力的であることに変わりがない。
 第1刷が270部、とわざわざ明記してある。こんなに有名な詩人の最新詩集にしては少ないように思うが、これもあえて記載しているのだろう。
 装幀のデザインをチェックする。なにかがおかしい気になってしまう。
色遣いに最も奇妙さを感じるが(白・赤・緑・黄)描かれているイラストが玩具であることも妙に引っ掛かる点だ。玩具の飛行機、トラック、船舶、ロボットの兵士。たぶん、兵士。のようなもの。銃は持っていないようだ。
悪い意味ではなく遊んでいる、或いは真剣にふざけているとしか思えない。
 作者の意図は、この装幀に現れているのかもしれない。詩集はどのように読んでも構わないものだけど、仕掛けが多ければそれだけ読者は愉しむ時間が増えるのだから。実際私はこの数日間、この詩集に救われたひとときがあった。(ここ数年世界で起きていること、日本で起きていること、お正月の大災害、どう頑張っても気が塞ぐことを止められない。)この詩集に導かれて世界の細部、歴史の細部にほんの少しだけ触れる。ただそれだけのことが慰めになった。
 特に興味深く感じたのは霧社事件、野塩西原の遺跡、渥美勝が聴いた桃太郎の唱歌、聖人フランチェスコの兄弟団について。
 また一冊、読み終わることができない本に出会ったささやかな幸せ。

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