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東京逍遥 その3


珈琲と牛とパンと建築

 去年見たかったけど間に合わなっかた『ファースト・カウ』をシネ・リーブルで見ねば、あぁこの映画館も随分久し振りだなと思ったんで、久し振りついでに池袋北口の伯爵に行った。初めて行った深夜、その怪しげで謎めいた雰囲気と客層に気圧され、東京では珍しいストロングスタイルのコーヒーを飲みながら、聞き耳を立てるひとときだったんだ。

 でも朝は流石に普通で、それどころか喫茶巡りっぽい若者や外国人観光客が盛んに写真を撮っていて、あの頃だったらひと悶着起きるよなと思いつつ、エンドレスで流れるオルゴールのBGMを聞きつつ、相変わらずゴージャス極まりない店内を見つつ、おしぼりで顔を拭きつつ、がっつりハードコーヒーを飲む。


 毛皮目当ての荒くれハンター横行するアメリカのとある森林地帯、どうにも上手く生きていけない元料理人の心優しき男と、流れ流れて身過ぎ世過ぎの中国人が出会う砦は、ハンターたちが収穫を換金する荒んだ村。村一番の金持ちにして権力者の貿易商が連れてきた、村初めての雌牛が繰り出すミルクを巡る物語だ。

 人生リスタートを目論む2人が選んだのがスイーツ作りってのが微笑ましく、伯爵の濃厚コーヒーの後に相応しいと見てたけど、笑顔が徐々に消えていき、生死をかけた世界に突入するんだ。結論、良き一本でした。ラストシーンをどう感じるかは、きっと見た人によって違うだろうな。


 美味そうなスコーンやドーナツ作りを見せられなくとも、お昼になれば腹が減る。池袋ムードを切り替えるべく有楽町線に乗り込む。日比谷国際ビルに引っ越した『ストーン』に行かなくちゃ、全日本トーストサンド協会の名折れだし。

 有楽町ビル時代はモノトーンモダンな内装だったけど、今度はやたらカラフル。オープンキッチンだし、窓越しにエントランスは見えるし、随分若返っちゃった。味もスタッフさんも変わらない。余り縁のない内幸町に、見知った店が出来るってちょっと嬉しいよね。


 内幸町から汐留なんか一本道みたいなものなんだけど、『パナソニック美術館』に行く前に『帝国ホテル』に立ち寄るのが、フランク・ロイド・ライト讃の礼儀かなと思って若干の回り道、せめて外観とエントランスを眺めておこうと。エントランスの裏手にライト設計の家具が少々。美しい角度と円の融合がひとつのポイントかなと汐留へ。


 ライトは僕が好きなフィンランドの国民的建築家アアルトとも長い交友があった。その土地を愛し、その風景を鑑みて設計してきたふたり。じゃぁ帝国ホテルはどういうコンセプトだったんだろうと勝手に妄想しつつ、図面や写真や模型や家具を眺めての数時間。この美術館は突如凄い企画展をする。去年か一昨年の分離派の展覧会は素晴らしかった。北欧系の展覧会も多いんだ。


 ビル風吹き荒れる汐留を後にして、結局銀座に向かうノープラン。まぁいいじゃないですか、好きなんだから。たまにはポンパドウルで銀座産のパンを買ってさ。そういや今日の「ファースト買う」は、帰りがけのパンだったよ。

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