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明晰夢:夢を夢だと認識し、その内容を操れること【ショートショート】

何もかも上手くいかない
そう思い私は六畳一間、自分の部屋に火をつけた

叶えたい、夢があった
熱と煙で頭がクラクラする
私はベッドでうずくまり、心の中で念じた
「「 覚めろ!!」」


ハッと目が覚めた。急いで辺りを見回す。
ここはアリーナの控え室だ。時間は午後一時。
どうやら昼寝をしてしまっていたらしい。

「だから昼寝は睡眠の質が悪くなるからやめなって」
メンバーの由香が私の肩を叩いた。

私は由香と二人でアイドルユニット「One More Dream」として芸能活動をしている。最近になってテレビにも出れるようになってきた。
今は全国でライブツアーを行っていて、ライブの直前に疲れて寝てしまったらしい。

「また悪い夢?」
「え?あぁ、うん。」
「やっぱり一度お医者さんに診てもらった方が…」
「大丈夫だって。私、夢をみてるときは『あっこれ夢だ!』って分かるし、怖い夢だったら覚めろ!って念じたら目を覚ませるんだよ」
「そうかもだけど…」
本当は頭がくらくらしてしんどい。

心配そうにする由香をよそ目にマネージャーがひょろっと出てきて、本番だよ、と言った。
私の顔色を見たマネージャーは私と由香に缶コーヒーを手渡した。
「これ、最近発売されたコーヒー、目覚めにいいんだって」
こんなので治るなら苦労しないな、と言うわけにもいかない。
私は缶コーヒーを一気に飲み干した。

ライブが始まった。頭はびっくりするぐらいスッキリしている。目は冴えて、歌声はいつもよりぐんぐんと伸びて、体の動きもキレが増している。

数曲歌い終えると、観客はいつも以上に沸き立っていた。
「今日なんだか調子いいね!」
由香もテンションが上がりきってる様子だった。
「あれのおかげじゃない?さっきの缶コーヒー」
「新発売だっけ?目覚めに効くんだってね!」
「もう今なら空も飛べちゃいそう」
「あっこれこれ」
私は手に持った缶コーヒーを掲げた。

あれ、なんで今持ってたんだろう。なんかおかしいな。
観客が、増えている。会場は3千人規模だったはずが今は明らかに1万人を超えている。
おかしい、おかしい、おかしいな。
試しにその場でジャンプてみる、ふわふわと2mほど浮き上がったところで慌てて念じた。
「「 覚めろ!!」」


目が覚めると私はベッドに拘束され、何本ものチューブとコードで機器に繋がれていた。
「お疲れさん」
白衣を着た男がコンピューターの画面を見ながら言う。

「明晰夢。夢を夢と認識し、夢の内容を思い通り操れる。個人じゃなんの使い道もない能力だ。」
男は缶コーヒーを一口飲んだ。
「しかし他人の夢に侵入できる我々の技術と組み合わせれば、明晰夢アイドルは広告として、低コストながら絶大な効果を発揮する」

私はわんわんと泣いた。

「もう何が現実か分からない」
「気にすることなんてないさ、君はここで"アイドル"として働いていれば…」
私は拘束具をバリバリと引きはがし、コードを引きちぎった。

「これも違う」

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