大差のインパクトに隠れた、やりたかったこと@マンチェスターシティvsチェルシー

ご存知の通り大差がついた試合。
「この試合で何が起きたか」については、一番下にリンクを貼っている「精度がもはや神がかってきた試合分析記事達」をどうぞ。
もうね、「あ、なるほどね〜たしかに〜」のオンパレード。
最強。

で、筆者は何に取り組むか。
「この試合において双方のチームが何をやりたかったのか」を探っていこうと思う。

※前置きは長いのでお時間があるときにどうぞ♪

■前置き1:戦術には意図がある

戦術とは、言うまでもなく手段。
戦術を実行することが目的になることはない。
ということは、戦術にはそれによって達成したい目的があるということ。

戦術は簡単に分けると
自分たちの良さを出して勝率を上げる大枠として「ゲームモデル」

相手によって微調整する「ゲームプラン」
に分かれる。
(ゲームモデルは戦略になるのでは?とかはお許しを)

例えば

自分たちが対戦するであろう(所属リーグなどの)相手戦力に対して
「自分たちは小さい選手ばかりだからクロスをあげさせたくない(目的)」→「守備では中央に誘導する(手段)」
「FWにとても足が速く決定力が高い選手がいるから活かしたい(目的)」→「なるべく自陣寄りでプレーする(手段)」

はゲームモデル

次に戦う相手に対して
「相手は小さいしクロスも下手(目的)」→「サイドに誘導する(手段)」
「相手は引いて来るから速いFWが活きないかも(目的)」→「そのFWをスペースのありそうなサイドに配置する(手段)」

はゲームプラン

と言えるかと。

この「意図(目的)」があるからこそ、それを達成するために「戦術(手段)」を使うことを忘れてはならない。

戦術先行で「よくわからないけどビルドアップで後方に数的優位を作りたい」では、その戦術が効果的に機能する可能性は低い。
空中戦に強いFWがいて活かすなら、後方よりもそのFW付近に数的優位を作った方が良いかもしれない。
マンマークでくる相手なら、味方に寄って数的優位を作るより思い切って広がった方が有効なスペースを得られるかもしれない。
意図がなければ戦術は活きない。
意図があってこそ戦術が存在する。
ちなみに、意図は「なぜその戦術なのか」を説明できるものでなければならない。
「勝ちたい」から「攻守において局所に数的優位を作る」では飛びすぎだ。
その戦術を使うことでなぜ勝てるのかが説明できない。

そして同じ戦術に見えても意図が違う場合がある。
例えば、よくある「高い位置からプレスに行く」という戦術。
ゲームモデル的な意図としては、「自陣での守備が苦手だから」「足の速いDFラインだから」「低い位置からの攻撃は苦手だから」
ゲームプラン的な意図としては、「相手は後方でのパス回しが下手だから」「相手には足の速いFWがいないから」「相手はカウンターより高い位置での攻撃を得意としているから」
など、たった一つの戦術でもいろんな意図が存在し得るし、複数の意図を持ってその戦術を選択している可能性もある。

また、サッカーでは同時の解決は難しい。
「サッカーは寸足らずの毛布だ。足下にかければ上半身が寒い、頭からかぶると足が出る」という言葉がある通り、何かを得ることで何かが崩れることもある。
足の速いFWの力を存分に使って高い位置からプレスに行く方法をとることで、高い位置で奪った時に相手ゴール前のスペースがなくなったり、攻撃時には体力を消耗したりしていて、その足の速いFWを攻撃で活かせなくなるかも知れない。
攻撃力が高い相手に対して守備時に数的優位を作って守ることで、奪った後の攻撃でパスをするべき味方が前線にいなくなり、相手にすぐに奪い返されて、より相手の攻撃を浴びることになるかも知れない。
このことからも、ただ戦術を実行するのではなく、何を得たいのか、意図を持つことが重要だ。


■前置き2:現象で監督と選手の評価は出来ない?

その試合の中で、意図した戦術が上手くいっているように見えて、実は上手くいっていない場合もある。
というより、それはやっている本人達に聞いてみないとわからない。
たった一つの戦術でもいろんな意図が存在し得るのだから、「どっちチームの戦術による現象だったのか」については第三者にはわかりようがない。
「勝ったチームは、実は作ろうとしていたスペースを相手に消されることで逆に有効なスペースが生まれて、相手がその改善対応をする前にたまたま得点を取れた」
だけかも知れない。
でも試合を見る限りでは「勝ったチームは狙った場所に相手を集めることで有効なスペースを作り得点を上げ、その間相手はなんの対応もできなかった」に見えるのだ。
実際は「双方の戦術が全く機能していなかったことにより偶然の得点が生まれた」だけなのに、その結果のせいで意図や戦術が違って見えてしまう。
なので分析記事を書く場合、「こうなっていたからこうなった」という実際に起きた現象の仕組みや「私にはこう見えた」という自分なりの解釈を書くしかないことが多く、「本当にやりたかったことなのかどうか」「それによって何を得たかったのか」という意図までを断定して書くことは難しい。

もちろんその試合で起きた現象の分析自体はとても大事だと思っている。
意図を持って戦術を実行した際に、それがどんな効果をもたらしたのか、を正確に把握するためにはその分析能力は必須。
その事実が読み取れなければ、次につながる改善案も出てこない。
戦術は仮説みたいなものなので、実際に試合をしてみない限り検証できない。
その検証結果を正しく捉える術として分析能力はとても大事だと思っている。
ただ、どんなに正確な分析能力を持っていても、意図の理解がなければ「どっちチームの戦術による現象だったのか」がわからない。
有利に進めているように見えているチームが実は相手の意図通りに動かされているだけだったかも知れないのだ。

そして、サッカーの得点や勝敗は偶発的な要素も大きい。
意図通りに完璧に試合を進めていたのに、ほんの少しの偶発的エラーで相手に得点を許し、そのままプラン通りに進まなくなってしまうことも珍しくない。
お互いのチームの監督とスタッフが意図を持って練り上げるその戦術は、互いに複雑に絡み合い、お互いにとって想定外の事態を招くことも珍しくないだろう。
選手達だって想定外のプレーをすることもある人間だ。スーパープレーであり得ない得点を生み出すこともあれば、普段絶対にしないようなミスで失点を生むこともある。
試合自体は意図通りに進めていたにも関わらず、その想定外の影響から「開始早々のオウンゴールによって敗戦した」というようなことだって十分にある。

つまり、現象だけで監督や選手を評価することは難しいということ。
現象はあくまで起こってしまった結果にすぎない。
どのように試合を攻略しようとしていたのか、その意図がわからないと間違った評価をしてしまうこともありえる。
(監督であれば修正力、選手であれば走力やボール扱い、など、現象だけで評価できる部分ももちろんあるが)

では、「意図を知るべきだ」とはいえ、現象の分析から意図を見抜くことは可能なのだろうか?
意図を見抜くのは他人の考えを知ることになるので、不可能と言えば不可能かも知れない。
ただ、ある程度予想することは出来なくはないと思っている。
特に、何試合か見たことのあるチームや、監督や選手のことを知っているチームであれば、少し意図がわかりそうと思えるような時があるはず。

そして何より、正確な意図がわからなくても、その現象から「こんな意図があったのではないか?」と考えることは楽しい。
意図の確認はチーム関係者じゃない限り、まず無理だ。
だが、だからといって、推測してはいけない、なんてことも無いはずだ。
筆者はその「意図を考える」をサッカーの楽しみの一つとしてオススメする。
意図を考えることで推しのチームや選手の見え方が変わってくるかも知れない。


■本題:両チームの意図

6-0でマンチェスターシティが勝ったこの対戦カード。

監督として、ペップはバルサ時代から何試合も見てるし、サッリはナポリ時代も含めて数試合見他ことがある。
チームとしても、ペップシティはたくさん試合を見ているし、サッリチェルシーはまだそんなに数は見ていないが、チェルシーの選手達は何度も見たことのある選手ばかり。

全く知らない選手達がいるようなチームと違い、意図を考えてみるにはもってこいのカード。
楽しんで考えてみたい。
(もちろん全部推測)


マンチェスターシティ=MCI
チェルシー=CHE


【MCIの対CHEの意図と戦術】

①CHEは後方からの組み立てにおいて、プレスを打開するパスを出せる選手がCBのDルイスとDHのジョルジーニョしかいない。身体能力の高いDルイスに同じく身体能力の高いデブルイネを当てることで強引なドリブルでの打開も牽制し、ジョルジーニョをギュンドアンを中心に監視させれば、GKから前線へのロングボールかSBに逃げる以外の道がなくなる。

②CHEの両SBアスピリクエタとアロンソは、後方でボールを受けた時に利き足での近くへのショートパス以外の選択肢が乏しい。ここをボールの奪い所にしたい。
①と合わせてWG/MCIの守備時のポジをわざとSB/CHEから離すことでボールを受けさせれば、そこからは読みやすいパスコースからボールを奪いやすい。

③CHEは押し込んだ後の攻撃が得意ではなく、中陣(相手陣地と自分陣地の間ぐらいのところ)ぐらいからの速攻が得意。これはやらせたくない。
前線のプレスを越えらそうな時は素直に全員で引くことで、CHEの得意な形を妨害することができる。また中陣付近においてもDルイスとジョルジーニョをなるべく自由にさせないことと、ラインの調整をこまめに行うことで、再現性のある危険な裏への一発を防ぐ。

④CHEのゴール前での攻撃はライン間(DF-MF間)にいる前線の選手にボールを当ててから発動する攻撃を中心とした中央突破がメイン。
サイドレーンからのクロスには特に驚異はないので、押し込まれた状態においてはライン間を極力狭くして縦パスを中心に封鎖することで、得意な形を作らせない。

⑤CHEは得点力の高い形の一つとして「高い位置で前を向いてボールを持ったアザール」を作るために、アザールがかなり自由に動いてくる。
新加入のイグアインが出てくる可能性が高いとしたら、アザールは左WGを主戦場とするはずなので、スピードで振り切られづらいウォーカーをその位置に置いて、アザールが中央に動くようなら、アザールではなくパスの出所を抑える形で対応したい。


【CHEの対MCIの意図と戦術】

⑥MCIがどの試合でも望んでいる「高い位置でのプレーの維持」を妨害したい。
MCIは各所にフリーを作り出しながらパスを中心に前進してくるので、マンマーク気味にMCI後方からのフリーを消していくことで前線への良いパスを妨害し、CHEの得意な攻撃を繰り出すために中陣辺りで奪いに行く。

⑦MCIに押し込まれた際、MCIはポケット(ペルティーエリア内のサイド)に対して、チャンネル(CB-SB間)ラン、WGのドリ突破、ポケットへのクロスなど様々な方法で侵入しようとしてくる。
ハーフスペースでボールを持たれた状態から侵入を阻止するのは難しいので、どちらかのサイドレーンにボールを誘導したら、逆サイドを捨てて横にコンパクトにし、ジョルジーニョとCB2人の3人を中心にポケットに入るMCI選手に対応する。

⑧不本意ながらもMCIを押し込んでしまった場合、MCIのスピードのある前線によるロングカウンターも驚異。
相手陣でボールを持っている際は、MCIの中盤5人よりも後方に5人または6人の予防選手を置くことで奪われた後の展開に対応する。


可能な限り推測してみた。
おそらくこんな意図と戦術を持っていたっぽい現象はあったと思う。
本当はもっと深い意図と戦術があるんだろうけど。
(これらは前半30分ぐらいまでで考えた意図。その後は見ていない。)

意図が半端になってしまったが、「何が起きたか」だけでなく「何をしようとしていたか」が少しでも現れていればご容赦いただきたい。

ちなみに、CHEの意図戦術の内、⑥については、イグアイン、カンテ、バークリーの連携が上手くいっておらず、これを阻止することは難しかったが、それ以外はもしかして上手く行っていた?
だとしたらたったそれだけで勝敗が決まったとも言えるのかも。


■まとめと最強リンク

前置きを含めて何が言いたかったというと、
「サッリは意図の実行は概ね上手くいっていたが、最初の変な失点のせいで試合結果自体は狂ってしまっただけなのでは?」
ということ。
あれだけのインパクトのある点差だと、そこにばかり目が行ってしまうが、もしかしたら戦術自体は良く出来たものだったのかもしれないから、改めて考えてみたかったというだけ。

3失点目までが、1油断→2スーパーゴール→3相手にパス、だったので、それによって選手のメンタル面的にもプランの実行が難しくなったりもあったのではないかと。
CHEは動き的に身体のコンディションも悪かったのもあるかもだけど。

ということで「本当にそんな意図があったのかどうか」については、改めて試合を見るか、下記の最強試合分析記事達から読み取ってみるか、でご自身で考えてみると面白いと思います。
正解なんてわからないですし、思い切って予想してみましょう!

最強記事達
(みんなすごいから選択が難しい笑 なのでとりあえず知っている記事全部載せ)


終わり


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