見出し画像

待つ

君からの手紙にすぐに返事をするのは躊躇われ、ペンを執り、つらつらと書いては消してを繰り返す。

そのうち、返事が遅くなりすぎたのではないかと手紙を出すのが怖くなる。

投函し、出したら出したであの文章で良かったのだろうかと、返事を待ち待ち煩悶する。


いつ届くやも知れぬ君の言葉を、君になったつもりで考える。

君は、僕からの手紙にすぐさま返事をするのを躊躇って、下書きなどと称してつらつら言葉を吟味する。

そのうち、返事を出すのが遅くなりすぎたのではないかと憂慮して、慌ててポストまで駆けて行く。

君は、その封書を投函しただろうか。

それとも再び持ち帰り、もう一度読み返したりなどしているのだろうか。

まったく、君の言葉ならどんなものでも構わないというのに、ちっとも分かっちゃあいない。

縁に腰掛け、門先に停まった赤いバイクに声をかけた。

「お疲れさん」

郵便屋から手渡された封書が君からのものでなければいいと、バイクが走り去るまでじっとそちらに目を向けていた。

ああ、また君への返事を書かねばならない。

「楽しそうですこと」と、笑いながら茶を差し出した妻にペンと便箋を持ってくるように言い、僕はゆるりと封を開けた。

〈了〉


writoneにて音声化していただきました↓


よろしければサポートお願いいたします。書き続ける力になります!🐧