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一文物語『水』

 井戸から釣瓶で汲んだ水は冷たく、嵐のあとの風呂水は濁り、洗濯したはずの体操着は洗うたびに茶けてしまっていたのが、いつの頃からか嵐のあとはカルキの匂いがきつくなり、その色は透明なまま、白い服はよれよれになってもあの頃ほど黄ばむことはなく、蛇口をひねってコップに汲めばそれを飲むことができるようになって「良くなったねえ」と口にしたのはもう何十年前なのか、無菌という言葉に慣れてしまった僕たちは失われる利便にどこまで耐えうるのだろう。

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