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ショートシナリオ『月子』後編

※note投稿にあたって読みやすい形式で掲載しています。


◯   サロン『Luna』・ドレッサールーム内 (夜)

シュウゴ、鏡の前の椅子に座っている。
女店員、シュウゴの後ろに立っている。

女店員「どんな風になさいますか?」

シュウゴ「えーと……」

シュウゴ、思い出したように自分のパンツのポケットから携帯電話を取り出して、ある写真を表示して女店員に見せる。

シュウゴ「この人みたいにしてください」

女店員「この女性みたいにですか?なるほど…わかりました。ではメイクから始めますね」

女店員、手際良くシュウゴの顔にメイクを施していく。
シュウゴ、女店員のメイクによって、みるみる顔が変わっていく。
シュウゴ、鏡に映る自分が変身していく様子を目を見開きながら凝視している。

◯    同・ドレッサールーム内  (夜)

女店員「メイク出来上がりましたよ。いかがですか?」

シュウゴ「あっ…これでいいです…あと、髪型を」

女店員「はい、もちろんです。写真の女性と同じ感じになさいますか?」

シュウゴ「はい」

女店員「少々お待ちくださいね」

女店員、その場を一旦離れる。
シュウゴ、鏡から視線を逸らさず、自分の顔をじっと見つめ続ける。
女店員、ウィッグを手に戻って来る。

女店員「こちらを着けてみますね」

女店員、シュウゴの頭にストレートロングのウィッグを装着する。
シュウゴ、鏡越しに自分の姿を見て驚いて目を見開く。

女店員「凄くお綺麗です。お客様、化粧映えしますね」

シュウゴ「(驚いたまま声が出ず)……」

女店員「洋服もチェンジしてみましょうか?」

シュウゴ「(我に返って)……あっ、はい」

◯    同・ドレッサールーム内の全身鏡の前 (夜)

シュウゴ、全身鏡の前に立っている。華やかな柄のワンピースに着ている。足元はハイヒールの靴。鏡に映る自分の姿に見惚れている。

女店員「素敵ですよ。パッと見、完全に女性に見えます。女性の格好もとてもお似合いになりますね」

シュウゴ「(照れ笑いしながら)ありがとうございます」

◯    人気のない通り (夜)

シュウゴの背後にはサロン『Luna』。シュウゴの片手にはシュウゴの私服が入った小ぶりの紙袋。何処へ行こうかと通りの左右を見やる。

シュウゴ「(小声で)そうだ」

シュウゴ、歩き始めるが履いているハイヒールに慣れず、一歩一歩が覚束ないままでふらふらしながらも歩く。
しばらくすると、歩き慣れてきて女性らしく歩けるようになっていく。

◯   人通リーダーの多い繁華街 (夜)

シュウゴ、自信に満ちた足取りで華麗に歩いている。通りを歩く数人の男性達、シュウゴの姿に見惚れてすれ違いざま足を止めて目で追いかける。
シュウゴ、その反応に優越感を感じて色っぽい笑顔を浮かべる。

◯   バー『スパイダー』の前 (夜)

シュウゴ、バーの扉の前に立ち止まって一度深呼吸する。意を決して扉を開けて店内に入る。

◯    同・バー『スパイダー』内 (夜)

バーテンダー、シュウゴを怪しむことなく、カウンターの空いている席を手で示す。
シュウゴ、バーテンダーに頷いて、店内を見回す。
店の奥のテーブル席にヨウコがいる。
ヨウコ、テーブルの向かいに座っている男性客と談笑している。
シュウゴ、ヨウコの姿を確認して自信に満ちた笑みを浮かべてカウンター席に腰かける。

シュウゴ「(心の声)さて何を飲もうか」

シュウゴ、地声が出ないように一度咳払いをして唾を飲み込んで声を発する。

シュウゴ「(小さな声で囁くように)ベリーニ」
バーテンダー「(不思議がることなく自然に)かしこまりました」

バーテンダー、カクテルを作り始める。
シュウゴ、ほっとして息をつき、ヨウコ達のテーブルの方をさりげなく振り返る。
ヨウコ、席を立ち、化粧室のある方向へ歩いて行く。シュウゴの存在には気づいていない。
バーテンダー、出来上がったカクテルを男の前に置く。
シュウゴ、バーテンダーに目だけで礼を言い、ベリーニに手を伸ばす。カクテルグラスを品良く持ち、一口飲む。
シュウゴ、ヨウコ達のテーブルの方に視線を感じて振り返る。
男性客、シュウゴを見ている。
シュウゴ、男性客に微笑みかける。
男性客、一瞬驚いてからにやける。
シュウゴ、カウンターに向き直り、再びベリーニに手を伸ばす。
男性客、カウンターへ歩いて来て、シュウゴの隣の空いた席に座る。

男性客「ひとりですか?」
シュウゴ「(男性客を見つめて)はい、そうですけど」
男性客「(シュウゴを見つめ返しながら)ここじゃ見たことないな」
シュウゴ「ここは初めてなんです」
男性客「名前聞いてもいい?」
シュウゴ「名前?」

シュウゴ、急な問いかけに戸惑う。名前がすぐに思い浮かばずに考える。
シュウゴの視界の隅に化粧室から戻るヨウコの姿が入る。

◯   (回想) サロン『Luna』の看板。

◯   同・バー『スパイダー』内  (夜)

シュウゴ「(心の声)Luna……月」

シュウゴ、男性客を見つめる。

シュウゴ「月子、です」

シュウゴ、男性客に首を傾けて艶っぽく微笑みかける。


          完



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