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おうち観劇②過去公演映像「(株)F・Bジャーニー」希望の星

リアルタイムで演じているのを見たのはいまのところ①の1公演だけだったので、ここからは過去公演の映像を公開していたところをいくつか。

希望の星 第三回公演「理想のオムニバス」より「(株)F・Bジャーニー」(2019年)

【作・演出】丹羽隆博
【出演】草野智弘 / 冨沢菜穂子 / ふじおかいさお / 鈴木美穂 / 
染川太一 / 千歳未来 / 瀧澤千恵 / 
長野諒子 / 小野宏 / 斉藤優紀 / 中込博樹 / 渡辺咲季 /
清水りさ子 / 古崎彩夏 /丹羽降博 / 金子裕子 / 相馬美玖(演奏)
【公演日】2019年5月31日~6月9日
【映像公開】2020年4月9日~5月6日

視聴に至るまで

2018年の舞台『IBUKI』(Y's ExP.)で拝見した長野諒子さんがご出演ということで、別件で東京に行く予定があったこともあって2019年6月に現地で本作含む三つの短編を観劇。そのなかでトップバッターだった、しかも一番気に入っていた作品がこのたび期間限定で無料公開されるとの報せを長野さんのツイートで知り、うきうきで鑑賞。
外出自粛でどこにも行けないGWにせめて無茶苦茶な日程の世界を飛び回る今作で旅行気分を、というチョイスもよかった。ちなみにわたしは旅行自体はそんなに好きではない。遠征ついでの観光はする。

たのしい二回目

劇場での観劇当時は、初めてみる団体の一作目ということで序盤は探り探り物語というか舞台そのものを見ていたけれど、今回はおぼろげながら記憶があるので最初からリラックスして鑑賞できた。BGMは舞台奥のエレクトーンによる生演奏なのだけれど、繰り返し流れるテーマソングがあってそれを聞いた瞬間に「あ!これ知ってる!」と一気に懐かしいきもちに。音の記憶ってすごい。

一応短編にもかかわらず世界各国を飛び回り満喫するパワフルというか力業なシーンの移り変わりに、二つの(本当は三つの)家族の交流が挟み込まれて60分とは思えない中身の濃さ。そう、一本50分くらいで観終われるのも、自宅での視聴の集中力を考えるといい長さでした。

物語は、旅行会社の新企画ツアーの体験ということで、2家族が世界一周をするところから始まる。元気な嫁と母親に挟まれる黒一点の姿が愉快なヤマシタ家と、上品な両親と気遣いの細かい息子夫婦の姿が対照的なウミノ家。観劇当時はウミノ家のやりとりにところどころ「……あれ。これは旦那と嫁どっちのご両親なんだ?」と引っ掛かりを覚えながら進んでいったけど、今回は二度目なのでウミノ家とその息子に見えていた夫婦が全くの他人であることを知っている。知っていると、いろんなシーンの違和感の理由が最初からするするとわかってこれはこれでたのしい。

そして何回観ても、添乗員マキノと運転手ポールのコンビがパワフルでうっとおしいほどにやかましい(褒めている)。各国をよく回るお口で説明しながら旅行者である他キャストを常に先導し舞台を端から端まで駆け巡るマキノさんは、物語的にも舞台の進行としても立派なツアコンだったなぁ。と感心する一方で、マキノ役の長野さんは前回の舞台でみた役が宇宙からのメッセージ的なものを受信していそうなやや寡黙な不思議っ子ちゃんだったので、その振り幅というかギャップに驚かされもしたり。役者さんがいろいろな面をみせてくれるのはほんとうにうれしいことですね。

暗転はほとんどなしで照明の切り替えや舞台装置(ひとひとり座れるくらいの箱)(演劇部のときめちゃくちゃお世話になった記憶がよみがえった万能箱)の配置換えで場所どころか国までガンガン移り変わっていくのもすき。エキゾチックなBGMと、ころころと衣装を変えて現れる現地住民の方の雰囲気に流されているところもある。ちからわざ大好き。

旅が進むと、どうして他人である2組の夫婦が「親子」として旅行をしているのかが、この企画の始まりまで遡るかたちで明かされる。家族を失った者同士が、果たせなかった約束を果たしたようなきもちになれるとおもったらなれない。そりゃあそうだよな……と思うし現実には無理のある企画だとおもうけれど、そのぶん旅行会社のメンバーがこの2組の家族に最大限の配慮をしつつ進行している姿がすごく染みる。社長愛しい。

彼らはお互いに息子の代わりにも、両親の代わりにもなれない。空いた席を埋められるひとはいない。けれど、いくつになってもじぶんのなかに新しく席をつくることができて、そういう意味ではウミノ夫婦の柔軟性はすごいな。

比較対象として同行しているヤマシタ家は本物の家族。嫁と姑が喧嘩もするし結託もする。ここは他人でも仲がよい……そう家族って血縁だけじゃないんだよな、と思うとあの二家族も最初から家族になれないとは言い切れない……のかぁ……(今更)(いやあんな急に距離は詰められないけど)
ウミノさんちのお父さんの「死んだらどうする!」(台詞は違ったかも)がすごくすきでね……ずっと相手に遠慮してる姿ばかりみてたから、あ、踏み込めたんだなってそこでわかるのが(時系列的にはその前に日本でまた会おうって約束してるんだけどそのシーン見せないでうしろにもってきたのも上手い)。おめでたに気付いていたお母さんも。ヤマシタ家のなんでもわかってるし、わからなくてもなんとかなってる家族の空気とはまた違うんだけど、この二家族もきちんとお互いのことを見れて、気づけてるんだなぁって思えて。

あとこの話の好きなところ、すごくシンプルなんだけどみんないいひとなんですよね。いやスリもいるしぼったくりもいるけど。名前のあるキャラクターみんな自分以外の人間のことを慮れる。だからこそギリギリまで踏み込めるし、逆に強固な線も引ける。ヤマシタ家の旦那が社長に電話しながらウミノさんちのことめちゃくちゃ心配してるのもほんと……わりと無茶な状況でツアー参加させられたのにお前いいひとだな……ってちょっとぐっときてしまった……ここ社員いいひとばっかりだからぜひお世話になりたい……。

展開はジェットコースターだけど、心の動きは実は丁寧に積み重なってるんだよなぁという作品でした。

そしてウミノさんちのお父さんこと草野さん。優しくてちょっと頼りないけど心の底から心配してくれるすごく良いひと、のお芝居上手だなぁ……ってじんわりした直後、現地で観劇してるときは次の短編では妙なカツラ被って無茶振りの限りを尽くす横暴な演出家の役だったのでちょっと心のもっていきどころがわからなかったです、って言う余談。

でも、ちょうどいろいろな舞台が対策をして開催か中止か、ではなく
もう問答無用でほぼすべて中止のお知らせラッシュになりはじめたタイミングだったので
観劇の記憶と結び付いたこともあってああ、やっぱりお芝居がみられるって嬉しいな、またちゃんと現地で観られるようになるといいな。なろう。
ってひとつ心の支えになった配信でもありました。ありがとうございました。