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これはもう、西成の冴羽遼といってもいいのではないか!

映画を観る理由なんて、本当はないけれど。映画を観る理由を敢えていうのなら、非日常の延長線を感じたいからだ。非日常ってやつは「原稿を書いたり、洗濯物を取り入れたり、子どものプリントを確認したり」とは対極にある。だけども非日常ってのは、旅行程度のベクトル上にいない。それはただのちょっと角度のついた日常だ。

非日常には、悪い奴が必要だ。悪い奴は憎まれているし、殺される。映画としての悪人の存在は、物語を前に進めるためのニンジンのような感じだ。なければ、映画というロバは前に走らない(たとえ過ぎ?)

まぁ、映画には「悪人」が必要。でも、「ヒトとちょっと違う」程度でも映画としては成り立つ。こうなってくると、味が濃い・薄いの話じゃなくて、醤油かポン酢かって感じの違いだ。わかりにくい?醤油かソースの方がいい?

で、『西成ゴローの四億円』。僕はアマプラでとにかくブックマークをしてあとで観まくるんだけど、最初に『ひとくず』って映画をブックマークしたら、この『西成ゴローの四億円』がレコメンドで表示されたのだ。

『ひとくず』も『西成ゴローの四億円』も、どちらも上西雄大氏の作品だ(監督・脚本・プロデューサー・主演)。『ひとくず』は重たそうな話だったので、先に『西成ゴローの四億円』を観ることにした。

簡単なあらすじ

本作『西成ゴローの四億円』、主人公ゴローは記憶がない。断片的な記憶として残っているのは、地面に血を流して倒れる自分と、惨殺されたある家族。服役し西成で日雇いでギリギリの生活でしのぐゴロー。実はゴローは腕っぷしが立つ諜報員だった。難病に侵されている娘のために、風俗嬢としてお金を稼ぐ妻。そんな苦境の原因は、殺人者としての自分にあったと知るゴロー。治療に必要なお金は四億円。ゴローは父として夫として、娘と妻のために裏の仕事へと身を落とすのだった。 的な話です。(ネタバレもなにもなく公開されているあらすじです)


この人は本当に悪そうだ

映画を観ていると、「この人は本当に悪そうだ」という没入感に陥る。そもそも、映画の撮影現場に来て台本覚えて、セリフぶんまわしているんだから、ものすごくまともな社会人だ。だが、この映画には癖の強い・アクの強い悪人がたくさん出てくる。
一番笑ったのは、闇金の八神松子・梅子シスターズだ。キャラクター立ちが強い分、悪人からいい人なん?ぐらいの伏線を感じたくらいだ(基本的に悪い人です・悪知恵が働く人の方が正しいかも)

観たことある人もいれば、この映画で初めての人も。余計な情報が無い分、素直に観られる。俳優がメディア出演過多で擦り切れていると「この人本当はいい人だもんなー」となる。が、その要素は少ない。。。?

いやいや、超有名どころもでてるじゃねぇか(敬称略)

津田寛治・波岡一喜・奥田瑛二、お?仁科貴だ(川谷拓三のご子息)、長原成樹も。これは…テレビの露出もある人ばかりだけど、没入感が削がれない。それは「演技力」なのだと改めて理解。

津田寛治は口がほとんど動かないんだよね。腹話術みたいにしてボソボソシャベルから、聞きづらいけどそこがいい。だってさ、殺しの依頼するような人間が滑舌良かったら、興ざめだぜ。

波岡一喜は設定上、山崎真美と絡む。山崎真美は映画の中では唯一のまともな人間のよう。お金が必要だから、大学教授からハードな風俗嬢となる。合理的な判断。でも、そこに飛び込むのは勇気と覚悟も必要。そういう意味では難しい役どころだなぁと。

知っている俳優も多いが、不勉強で知らない俳優もたくさん。その交ぜ具合が韓国映画チックで、これ日本の設定だっけ?となるのだ。

滑舌問題についての私の意見

ロバート・デ・ニーロと今はなきフィリップ・シーモア・ホフマンのW主演映画「フローレス」では、ロバート・デ・ニーロが脳梗塞になって、上手に話せない設定だ。英語はよくわからないけれど、聞き取れないということにストレスは感じなかった。字幕はあるけれど、フィリップ・シーモア・ホフマンとの掛け合いのなかで会話の温度がよくわかった。

本作は字幕はない。滑舌がわるく感じられるシーンは多々ある。だが、そこでキビキビと!ビシッと!話されててもなんだか覚める(さっき書いたね)。

主人公のゴロー(上西雄大)とコウモリ(津田寛治)・飯島(波岡一喜)は再生を何回か繰り返して聞き取ろうとしたが、ボソボソ滑舌の箇所はわからずじまい。だが、前後関係でなんとなくわかる。まぁ、ミステリー要素はほぼないので、会話の意味よりも、会話の雰囲気の方が大事なんだろう。つまり会話やアクションの温度が高いから、わかるのよね。イマジナリーラインが刺激される。(イマジナリーライン:映画と映画のシーンの間を補う想像力のようなもの)

「自分が知らないものはマイナーである」という傲慢

これはいつも自分に問う言葉だ。知らない俳優、知らない脚本家、知らない映画、知っているものは単にテレビや雑誌で宣伝されているだけだ。自分が知らないものを自分の人生から排除していたら、そこにはほぼ自分の残骸しか残らない。

だから、

  • よくわからない本をジャケ買いしたり

  • サムネとあらすじと予告だけで、映画に2時間近くベットしたり

  • 聞いたことのないメーカーのゲームを買ったり

する。つまり、僕たちはレビュー至上主義って時代と戦っている。そりゃぁね、通販で似たようなモノ買うときはレビュー見るとも。がっつり。損したくないもの。間違いたくないもの。

で、映画や舞台、音楽や本なんていうある方が人生は潤うようなものは、どんどん失敗したなぁーでもいいと思う。失敗したなーってモノも、どこか愛おしく思えるときも来る。

もちろん、この『西成ゴローの四億円』は失敗なんかじゃぁない。劇的な面白さ。脚本がよくできている。『ジョン・ウィック』を煮詰めたこってこてにしたような感じだ。ガンアクションはスタイリッシュなシーンも多い。殺陣たてがしっかりしている。ナイフを持ち出したら、返り討ちにされるという方程式は万国共通だな。もう、ナイフ出すなって、「志村うしろ」的に言ってた。

西成というディープで、ホントのところまだよく知られていない場所をホームにする。映画ではたびたび登場することのあった西成だが、こういう無敵系のヒーロが活躍するのは盲点だった。ちなみに、女は殺さないんだよなぁ。

そういう点でいうと、これは西成の冴羽遼とでもいえる。ガンアクションも冴えているし。(アマプラでも観られるようにして欲しい)

●●みたいと言ったけど、唯一無二!西成のごっつ強い男が観られる一作『西成ゴローの四億円』、ぜひご鑑賞くださいませ。


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