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冷蔵庫のプリン【第3話】

 剛堂大学は学生数五千人規模の小さな大学だ。学部も三つ。文学部・経済学部・理学部。
 学生もちらほら、寂しい大学だ。
「小田切さん、どこに行くんですか?」
「学生課」
 小田切はいつも以上に早足で吉澤を撒くぐらいの勢いだった。時間がなかった。冴島奈央子が護送中に逃走した。冴島奈央子に襲われた前田徹が入院先の病院から連れ去られ死亡した。坂木優斗は冴島奈央子に夜だけ部屋を貸していた。優斗への取り調べを任意で行う前に、調べておきたかった。
「前田と坂木は理学部ですよね。あ、そうか」
「そうだ、冴島奈央子は、何学部なんだ?そもそも彼女のデータがどこにもないって知ってたか?戸籍もなにもだ」
 小田切たちは学生課の窓口に着いた。
「東西署の小田切です。こちらに冴島奈央子さんが通われていると思うのですが、彼女の在籍証明を確認できますか?」
 小田切はある確信をもって聞いた。そして、その確信は、証明されたとたんに、ある疑念と仮設を生み出す。
「冴島奈央子という学生は在籍しておりません」
 そっけない返事が返ってきた。
「小田切さん、これって」
「そうだ、冴島奈央子はここの学生じゃない」
「じゃぁどうやって、前田と接触したんでしょう」
小田切の仮説はこうだ。
【疑問一・どうして坂木優斗はいつも見慣れない方のプリンを食べたのか?】→プリンは坂木自身が買ったものだから

仮説済み・【疑問二・坂木優斗はタイミングよく襲われている前田徹を救助できたのか?】
→通帳と印鑑を取りに帰ったから。

【疑問三・そもそも冴島奈央子はなぜ前田徹を襲ったのか?】→襲っていない

【疑問四・冴島奈央子は坂木優斗が買った覚えのない生クリームの焼きプリンを置いたのか?】→坂木が買ったものだから

小田切はすでに仮説済みの疑問二に加えて、一・三・四についての疑問に仮説を付けていった。

「冴島奈央子が前田徹を襲っていないってどういうことですか?」
 吉澤は早歩きの小田切に必死でついていきながら聞いた。小田切の顔は自身にあふれていた。

「うっかりしてた。よく考えてみろ、護送中に逃走できるか?それに、警察の無線履歴を見たか?」
「はい、あの日護送される冴島が逃走したと警察無線で飛んでました」
「これな、ジャックされてる」
「ジャック?」
「割り込まれてるんだよ、無線が」
 小田切は仮説をやめない。
「坂木はハッカーだ。それも、信じられないぐらいの凄腕の」
「そんな」
 小田切はカルテを吉澤に見せた。
「この病院にいた前田徹はニセモノだ。こいつが坂木だ」
「いや、坂木は前田の病室で任意で聞き込みしましたよね」

「だから、そいつが冴島奈央子だ」
「え」
「冴島奈央子は男だよ」
 小田切は駐車場で車のキーを探しながら、吉澤に仮説を説明し始めた。

第4話


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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