【取材】塩竈市杉の入 そば処 村崎庵さん
国道45号線を塩竈方面から松島に向かっていく途中、塩竈のマクドナルドを過ぎて少し行った先の右手にあるのが、そばのお店「村崎庵」さん。
最近、塩釜水産物仲卸市場や他のイベント会場にも精力的に顔を出されているので、読者の中にも知っている人もいるかもしれない。
塩竈市には老舗と言ってもいいそば屋さんもある中、新たにそば屋として開業され、頑張っている姿を見て話を聞きたくなったので、どんなお店なのか取材に行ってきた。
ー村崎庵さんってどんなお店なのですか?
はい。塩竈ではまだ知らない人も多いのですが、鴨(かも)のメニューが特徴のそば屋です。
私は元々川崎町と名取に店舗があるそば屋で11年くらい働いていまして、働いているうちに自分でもやってみたいなと思うようになりました。
そのお店の人気メニューで鴨せいろというのがあって、鴨っておいしいなあと思っていました。
塩竈や松島ではあまりかも料理がなかったので、そのおいしさをより多くの人に広めたいと思って、当店でも鴨のメニューを出しています。
ー鴨の魅力ってどんなものですか?
脂のうまみがおいしいのです。
マガモとか結構高級なものっていうと、肉が硬かったりとか、ちょっと野性味が残ったりして合わないので当店では合鴨(あいがも)を使っています。
合鴨は肉もやわらかくて脂も多いので、汁として使うのにもすごく適しています。
昔の人って『高価な物』や『本物』に重きを置く所が強くて、本来大事であるはずの料理や他の食材との『相性』という点にあまりこだわらない所が多いような気がします。まあ私自身も「鴨って臭いだろう」とか「鴨って硬いだろう」というイメージがあったのですが、それが勘違いだったということに気づきました。
今でも年配者ほど抵抗ある人が多かったりするのですが、食べてもらって、「あれ、鴨肉ってこんなに柔らかかったんだっけ? こんなにおいしかったんだっけ?」と言ってもらえる事が非常に多いです。
そういう風に気づいてもらって広めていきたいっていうのがあります。
ー鴨の仕入れ先にもこだわっているとか?
仕入れる時は一回味見しています。
合鴨でもやっぱり産地によって結構臭みがあったりとか、硬さが違ったりします。
今まで良いイメージだったところほど、なんか固かったり美味しくなったりということもあるんです。例えばフランスの鴨なんてちょっとよさそうな感じですけども、逆にタイとかマレーシアとかの方が汁にするには全然柔らかいし脂も多くて適しています。
その料理に合った物っていうのもあるんだなと思うんですけど、料理に合ったものを食べ比べして、それで選んでいます。
また鴨スモークというものがメニューであるんですけれども、私が直接スモークして作ってるわけではないんですけれども、やっぱり仕入先によって何種類もあるんですね。
その際は3つ4つ持って来てもらって、試食して選んでいます。選ぶ際の基準は柔らかさです。
ー鴨を使った弁当があるとお聞きしたのですが?
コロナ禍で生まれた弁当です。
『極・鴨重弁当』といいます。
きっかけとしては牛タンがいっぱい乗っている弁当がニュースで取り上げられていて、「あれいいなあ」と思いまして。
「うちでこういうの作るとしたらどうしたらいいかな?」って思った時にやっぱり鴨しかないなって思って。
牛タンでも芯タンばかりじゃないのと一緒で、鴨も一種類だけじゃくていろいろ乗っているものを作りました。鴨のスモークと焼いた鴨と自家製のつくねが入っています。
焼いた鴨もただ焼くと硬くなるので、麹に付け込んだりとかして工夫しています。そうしたら時間が経っても柔らかくなったのです。それで弁当にしてもいけるかなと。
最近はイベントで良い感じで売れています。
ー村崎庵さんに来るのが初めての人におススメのメニューは?
『鴨ざるの相盛り』ですね。
これは通常のそばつゆと熱い鴨汁、そしてそばとうどん。色々な組み合わせで食べて頂けます。
そばはもちろん国産の二八蕎麦を使っています。そしてうどんなのですが・・・日清製粉のうどん専用小麦粉「金斗雲」を使用しているこだわりがあるうどんです。
細打ちのうどんなので冷たいざるで食べるとおいしく食べられます。
また熱いつけ汁くらいがちょうどいいです。
だから鴨汁とは相性が良い。
一度にいろいろな組み合わせができるので、飽きることなく食べられます。
あとは『冷たい肉そば』。
これはもうひとつの看板メニューで山形の「肉そば」っていう冷たいそばがあるのですが、そちらはもともと親鳥(鶏肉)を使うのですが、やっぱり硬いんですよ。
うちでは若鳥を煮込んで、柔らかくして出しています。
硬い肉を薄く切ってのせるっていうのは本来の肉そばなんですけれども、まあ単純に食べて柔らかいほうが私は美味しいなあと思っているので、そのようにしています。
あと前のお店で年配者ほど肉が固いと嫌だという声が多かったりしたので、うちのお店では若鳥を使っています。山形からしたら邪道かもしれないですけど。
実は、この肉そばのそばをうどんに変えるのもおいしい。
当店のうどんは感覚的には秋田の稲庭うどんに近いうどんです。
秋田の稲庭うどんだったり、まあ庄内の麦きりだったり。
うちはそば屋となっているのでそんなに「うどん、うどん」と勧めていないんですけど、密かに美味しいです。
ー逆に何度も通っているよって人におすすめのメニューはありますか?
私は個人的に辛いもの好きなので、辛鶏そばっていうのと・・・パロディじゃないんですけども『煉獄牛つけそば』っていうのがあります。
あとは煉獄シリーズで『牛鍋そば』と『冷やし煉獄』というのもあります。
辛鶏そばと煉獄シリーズは常連さんの間で定着しています。
もちろん一番のおすすめは鴨ざるなのですが、常連さんのリピートオーダーの多さからすると辛鶏そばや煉獄シリーズは決して鴨ざるに引けを取らないリピート率を誇っています。
辛さはある程度調整できるので、食べたことがない人には食べてほしいメニューです。
辛鶏そばっていうのは揚げネギと自家製の鶏油を使っています。
鶏油とは鳥の皮を煮詰めてできる脂のこと。村崎庵の鶏油は、揚げネギを作った油で作っているので、より香ばしい油になります。
それを入れているので味が深くなっています。
煉獄は体を温める為に生姜が入っています。まさに煉獄、のようなイメージで。
辛さは小辛・中辛・激辛・鬼辛まであります。
常連さんはさらに上の『上弦の鬼辛』という名前を付けて頼む方もいます。
ーど・・・どれくらい辛いのですか?
中辛は割とバランスの良い感じです。
鬼辛というのは・・・辛いのが好きじゃないと・・・上弦の鬼辛はもっとすごいです。
辛さは唐辛子と生姜で取っています。
あとは青唐辛子を・・・これを入れるとだいぶ辛くなります。
上弦の鬼辛はそれを10振りくらい掛けます。
何なら数えないで振りかける事も・・・。
煮込むとさらに辛くなるので、煮込みプラスで仕上げに振りかけるスタイルでより辛くしています。
ーおそば屋さんになろうと思ったきっかけは何ですか?
もともと料理が好きだったっていうのもあったんです。小さい時から。
実家が商店みたいな商売やってまして、夜ごはんがすごい遅かったんですよ。
それのせいか小学生のころすごい肥満児で。保健の先生に「もっと早く(早い時間に)食べた方が良いよ」って言われていたんです。
じゃあ自分で作って食べようということで、そこから・・・3年生ぐらいから・・・結構自分で夜ご飯を作って食べるようになりました。
そして料理が好きになって・・・
中学校、高校になったら、ブームじゃないですけどラーメンが大好きになって。
高校卒業して働くようになってから、休みっていうとラーメン屋を一日三軒ぐらい回って食べていました。
一番多い日で一日六軒くらい食べた日も。
そうなってくると結構自分で再現できる味が多くて・・・それで黙って作って妹に食べさせてどこの味だって当てられるのが、自分の中で楽しみになってきて。
ラーメン屋って選択肢もあったんですけど、自分で再現できるものだと仕事に面白みが出てくるのかなと思うことがありました。
逆にそばっていうのが、その時「正直どこに行っても一緒じゃん」って思っていまして。でも仕事にしたら何か違いが見えてくるのかなっていう興味が強かったのです。
あと、私は最初食品工場で働いたのですが、ある時に「接客やりたいな」と思って、そばで働くようになりました。
ーなぜ塩竈にお店を持とうと思われたのですか?
自宅に近い所で探した、というのがあります。
そうすると利府・塩竈くらいで探して、利府は場所がなくて・・・
塩竈の面白いところは市場があって、魚介類が豊富なところ。
その辺が天ぷらとかに活かせると思いました。
今まで働いていた蕎麦屋とはまるきりそれ違う仕入先があって・・・それが魅力ですね。
ー塩竈に昔からある醤油屋さんの醤油を使っていると聞きました。
そうですね。『太田與八郎商店』さんの醤油を使っています。
オープン当初は私の地元の醤油、大河原に『玉松醤油』ってところがありまして。
そこのゆずポン酢がすごく安くておいしかったのですが、今は倒産してしまって・・・
そこで困っている時に商工会議所の人に相談したら、「もしかしたら太田與八郎商店でやってくれるかもしれない」と。
醤油と言うよりも、「かえし」というやつです。
醤油に水あめ状に煮詰めた砂糖を打ち込んで、それを寝かすんです。
その当店オリジナルのかえしを太田與八郎商店さんに作ってもらっています。
それを仕入れて、汁に使っています。
自分で作るには温度管理など保管が難しいんですよ。
天ぷらの塩も塩竈のものを使っています。
塩竈の藻塩です。
お客様の反応がとても良いんですよ。
ーお仕事をしている中で大切にしているところは?
お客様に喜んでもらうのがやっぱり一番なので、「お客様への接し方」です。
私だけじゃなくて従業員の人にもお客様を覚えてもらう、知ってもらう。逆に、お客様からしても、あの人だったらこう言えば分かるみたいな。メニューの頼み方、だったりとか。
そのようなお客様への心配り。
そういうことを大切にしています。
そば屋はそば湯を持っていく、ということをしないといけないので、お客様のことを見ないといけないというのが多いと思うのです。
食べおわる直前くらいにそば湯を持って行く。
熱い状態で持っていくっていうのが一番良い。
理想としてはざるそばだったら、もう最後の二口ぐらいの時に持ってったり。
逆に温かいそばの時は熱すぎるので、ちょっと早めに持っていったりとか。
従業員の人にはそういうところを見てくださいって言っています。
あとは常連さんほど、中で調理していても私が顔を出すようにしています。
ーお仕事をしていて楽しいと思う時は?
お客様が「美味しかった」って言ってくれる時。
あとはお客様が知り合いとか家族を連れてきてくれる時というのが、一番うれしい時ですね。
一人で来てた人が彼女を連れて来たとか、お母さんを連れて来たとか・・・
そういうのがやっぱりうれしいですね。
あとはメニュー開発の時に思ったよりおいしくできたりとかです。
今の鴨ざるをより進化させるチャンスでもあるし、また違った展開もできるかもしれない、みたいななこともあるので。
最近の新しいメニューだと『白エビそば』っていうのが結構人気がありまして。
富山の名物です。
キッチンカーを買った時に輸送代が高かったので、車屋さんのある富山まで高速バスで行ったのですが、その時に朝早くついて立ち食いソバしか開いていなくて・・・
そこで「人気のメニュー」ということで白エビそばがあったので頼んでみたら、「美味しい!」と。「この天ぷらいいな」って思いました。
それからたまたま海老の専門業者さんが営業に来て、「つかぬことを聞くけど、富山の白エビありますか?」って言ったら「あります!」となって。
宮城では需要があまりなくて、仙台のそば屋とうちくらいしか使っていないと言っていました。
でもこのそばは最近「美味しかった」って言われる確率がすごい高いのです。
うちに来たらこれをぜひ食べてもらいたいですね。
ー今後挑戦したいことはありますか?
キッチンカーですね。
今は設備的に調理の許可はもらえていないのですが、表示を付けたうえでお弁当の販売ができます。
今後は簡単な調理ができるような許可をもらって、ドリンク類と弁当などの組み合わせで販売したいです。現在、東京の茶工廠というドリンクブランドを扱えるので、そこの果肉入りのフルーツティーとか、タピオカドリンクを出していきたいです。
あとはイベント出店。
色々なところとのお付き合いを広げていきたいです。
イベントで話しする人とかもちょっと出てきて。
最近だとおが太郎さんっていう塩竈の燻製ナッツの方。
まだまだ現実味がないのですけど、最近汁の燻製が流行っているんです。
その装置を今開発していて、それがうまくできたら「村崎庵さんの汁もやってみませんか?」という話を今しています。それができたら面白いな〜と。
それができると汁にスモークの味とにおいがついて・・・
ー最後に読者さんへ一言
塩竈ではまだまだ新参者なので、宜しくお願いします。
塩竈は老舗も多い所で、新しいそば屋というのは珍しいと思います。
色々とアイデアもありますので、一度食べに来てもらいたいなと思います。
ありがとうございました。
本人もおっしゃっていたが、塩竈には老舗のそば屋さんも複数ある。
その中で新しくそば屋をはじめ、受け入れられていくのはやってみた人じゃないと分からない苦労がたくさんあるのではないか。
でもそういう中でも新しいものを取り入れ、アイデアを出して実践してく。
その姿がとても勉強になる取材だった。
『鴨ざるの相盛り』は既に何度か頂いたので、今度は『煉獄シリーズ』や『白エビそば』にも挑戦してみたいと思う。
店名:そば処 村崎庵
住所:〒985-0005 宮城県塩竈市杉の入4丁目3−20
電話:050-5462-0896
HP:https://murasaki-an.jimdofree.com/
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Presented by: 塩釜うまいもの通信 & 竈ジン.com
執筆:鈴木貴之 https://shiogama-website.work/
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