【読書感想】元彼の遺言状/新川帆立
就職してすぐの頃、祖父が亡くなった。
地元の母親からメッセージで伝えられた時、ちょうど上京していた兄とおちあい、ご飯食べようかとしていた時だった。
その時はまるで実感は湧かなかったが、いざ祖父が棺に横たわっているのを見ると、涙が止まらなかった。病院で老衰だった。
一人地元を離れていたので、準備は全て実家にいた家族が行ってくれていて、わたしは参列しただけだった。皆大変でいろいろな思いがあったはずなのに、わたしだけ泣いて申し訳なかった。
祖父からの遺言状はなかった。というか、わたしは特にそういうのを見ていない。新卒すぐで、現場に迷惑をかけるわけにも行かないような気がして、二日しか休みを取らなかった。
実際一般的なところ、遺言状はどれくらい残されるものなのだろう。ドラマだとか映画だとかではよくあるけれど。
新川帆立「元彼の遺言状」は、ものすごく変わった遺言状が残されている。
あらすじ
弁護士の剣持麗子は、金にものすごく拘りを持っている。指輪の金額で彼氏からのプロポーズを蹴り、ボーナスの減額で「辞める」とまで宣言したりと、仕事ができるがアクも強い女性である。暇を出された麗子は、大学時代の元彼に連絡を取る。が、その返信は「亡くなった」という知らせだった。
元彼の遺言状はかなり妙で、「全財産を自分を殺した犯人に譲る」というものだった。
麗子はクライアントから依頼を受け、「犯人に仕立て上げる」よう奔走することになる。
「このミステリーがすごい」大賞を受賞した作品。
作者は弁護士であり、法を武器に戦う描写が詳細で、かつ、難しくても解説が入るため読みやすい。それに、キャラクターが強い。特に女性が強い。軽快な一人称で綴られるため、読んでいるとなんだか自分が頭が良くなった気になる。
これは有隣堂のチャンネルで紹介されているので知った。ブックローかわいい。
ただ申し訳ないのが、閉店間際のブックオフで買ってしまったことである。すまねえ。
わたしはこれを「お仕事ミステリ」であり「遺言状ミステリ」であると思った。
遺言状をめぐって起きる遺産争いには違いないといえばそうなのだが、「得をする人を殺していく犯人を探す」のではなく、「指名されている受取人である犯人が誰なのか」というところを推理していき、かつ「どうやってクライアントを犯人に仕立て上げるか」という見どころがある。
難しいところは正直わからない。でもかなり興味深い話がたくさん出てきて、やっぱりちょっと賢くなった気がした。
あとやっぱりキャラクターの強さを感じた。「強い」けれど、しつこくないと思った。
不思議なことに妙な「しつこさ」を感じない。かなりみんなさっぱりしているのである。多分主人公の麗子の一人称のお陰である。彼女自身がさっぱりしているというところが大きいだろうと思う。
わたしは女性が主人公のものは、実は結構苦手だったりする。少女は平気だけど、女性は気分に左右されるのだ。その日の気分によっては読み進められないまである。
選んで来た本がしっとりした文体のものが多かったせいかもしれない。
なので、かなり新鮮だった。さっぱりしている上に無理がない。「強い女像」というより、「こういう人なんだ」というのがすんなり受け入れられた。最後には麗子を好きになる。
「元彼」「遺産相続」「殺人」という、ねっとり三銃士みたいな題材でこんなにもサクサク読める。ドロドロはドロドロしているっちゃいるが……。
あと装丁がめっちゃいい。発色のいいリップの色みたいでかわいい。
あと改めて思ったのは、わたしはミステリの上客になれる。本当に推理が当てられねえ……見事に騙されてしまう…………。
もしも自分が遺言状を残すのなら、「BL本は友人に分配 PCとスマホと長野まゆみの「白昼堂々」と木原音瀬の「美しいこと」は一緒に棺に収めてくれ」かもしれない。
……いやもうちょっと考えようかな。
以上。読書感想文。
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