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塩野秋
2019年12月6日 18:31
筐の女 Aの部屋は五畳一間の年季が入ったものだ。上京して五年、住み慣れた狭さを彼も気に入っていた。 気に入っていたが、いつも妙な違和感が片隅にあった。なるべく気づかないふりをしていたのは、家賃が安いからだ。「襖は開けんでな」 Aは泊めた友人に対し言った。彼の布団は、客用も含めて部屋の隅に置いてあった。雄大な川が広がるような水墨画が描かれている、立派な襖の奥は布団を置くためのものであろ