8月20日

拝啓、13歳の私へ

お元気ですか、と聞くのは野暮ですね。きっと貴方は今、真っ暗闇の中にいるのでしょう。理由も意味もわからず、いきなり無視が始まりました。何もされてないのに、何もされないのが息苦しく怖かったのを覚えています。自分が、世界から消えたような感覚でした。それから暫くして、学校に行けなくなりました。俗に言う不登校ですね。何もしないで家にこもる日々は、とてもとても辛かったです。当たり前ができない自分を、愛することも出来ませんでした。

一度、自分の首を絞めてしまいましたね。比喩でもなんでもなく、呼吸を強制的に止めようとしました。どんどん呼吸が浅くなり、目の前に靄がかかって怖くなりました。あんなに心臓が早く動いたことは、後にも先にもあの日しかありません。あの日はどん底でした。でも、あの日から貴方は少しずつ変わりましたね。

半年ぶりに学校に向かう道で、貴方はあの曲を聴きましたね。10時過ぎ、誰も歩いていない道で、禁止されてるウォークマンを使いながら。

「笑われる事なく 恨まれる事なく 輝く命など無い 眩しいのは最初だけ 目隠し外せ ほら 夜が明けた」

あの日聞いた曲順は、今だに覚えています。あの日の天気も、海の様子も。晴れて青空が高く広がり、海に光が反射してキラキラしていました。一歩一歩、進むのをためらいながらも歩き続けましたね。この曲が自分の勇気を肯定してくれると、信じ縋って歩き続けました。

私は、22歳になります。なんとまだ元気に生きています。驚きましたか?英語の点数を40点あげて、貴方は無事志望校に合格しました。そこで貴方は素敵な友達に出会います。そして大学に進学し、貴方の学びたかった学問を学んでいます。就職先は、貴方には少し意外かもしれませんね。でも、貴方のやりたいことは体現できそうです。どうです?すごいでしょう?

そして、2019年8月20日。貴方が憧れ、助けられたバンドのライブに行きます。そこで貴方は、あの日縋った曲を聴くことができます。目の前に広がる景色は、いつまでもいつまでも目に焼き付いて離れません。DVDでしか見たことのなかった相手の顔を、肉眼で見ることができたのです。貴方に向かって真っ直ぐ歌声が飛んできます。あの曲は、どんなに時が経っても貴方の勇気を肯定してくれます。この感動は、言葉にするには複雑で大きすぎます。伝わっていなかったら、ごめんなさい。

貴方の勇気や頑張りは、本来は必要なかったのかもしれません。理不尽に強いられたものなのかもしれません。ですが、この壁を乗り越えた貴方は沢山の大きなものを得ます。貴方の勇気が、私の自信でアイデンティティなのです。どうか貴方の受けた心の傷を、誰かを傷つけるために使わないで下さい。傷ついたからこそ、誰かの傷に寄り添ってください。貴方にはその強さがあるのです。貴方を支えた曲たちが、きっと教えてくれたでしょう。

貴方の目の前は、真っ暗で先が見えないと思います。ですが、その暗闇もあと少しで終わります。世界は本当に広いです。貴方のいるその場所は、本当に本当に小さな世界です。こんな小さい世界に、貴方の運命を決めさせないで下さい。広い世界に、一緒に出ましょう。死ぬ勇気があれば、生きる勇気もまだあるのです。どうか死なないで下さい。貴方の好きな曲たちは、貴方の存在をいつまでも肯定してくれています。大丈夫です。だから、どうか生きてください。

敬具


先日、好きなバンドのライブに行きました。毎日泣いていた私を、ようやく抱きしめられる日がきました。インターネットの海の中にも、同じような方がいるかもしれません。あなたを救おうだとか、助けたいだとかは言えません。頑張れとも言うことは出来ません。ただ、一緒に生きて欲しいです。本当綺麗ごとみたいで嫌になるけど、これしかないです。暗闇を進むのって、言葉にできないほどキツイし辛いし死んだ方が楽だなと思っちゃうんですよ。でも、暗闇を抜けた先ってすごいんですよ。これも、言葉にできないんですけど。

頑張らなくていいです。あなたは頑張りすぎているくらい頑張っています。辛いことは全部投げ出していいです。逃げていいし、いらないものは全部捨てましょう。暗闇を抜けて、なんとか一緒に生きましょう。私もどうにかこうにかやってます。生きてさえいれば、こうやって夢のような現実を体感できます。綺麗事です。けれども、本心です。一緒に生きましょう。

http://j-lyric.net/artist/a000673/l002796.html







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