人間分子結合=科学博物館のきろく

小さいものはやっぱりかわいい。
そして今もしたたかに生きていることを含め、とてもかわいい。
おおきな恐竜は絶滅したけれど、目に見えない細菌は今でも生きている。
宇宙はでかくて広くて、やっぱりでかいから、きっと私たち人間はとてもとても小さくて、かわいい。

矮小な存在への偏愛。弱い存在への、愛。


ここにいる人間が、宇宙なんて馬鹿でかい規模から見れば、小さく、か弱い存在であることを思うと愛おしい。

科学博物館の中にいてすら、顔を寄せて、手を繋いで、唇が今にもくっつきそうな距離で話しているふたり組がいて、人間というのは必死に生きていて、いじらしいなと思った。

どこかつまらなそうに展示物を眺めて、ちょっとだけ苦しそうに「すごいね」「大きいね」と話題を絞り出す。宇宙から見れば小さな身体に見合う小さな脳味噌で、ぎゅうっと圧縮されたことばが、ぬるい空気に融けて消えるから、世界は今日もなんとなく安泰で。なんとなく博識で、それとなく優雅で、本日のお日柄も良し。

科学博物館の中はゆったりとした時間が流れていて、普段はせこせこと進む時の軸からも外れ、心はミルクティ。ミルクが紅茶に混ざるみたいにとろっと流れて、やさしい空気があたりに充満したら、はいどうぞ。
飲み頃の優しい時間の出来上がり。

飾られている菌類と原子は何も語らず、ただそこに悠々と存在していて、それを眺める人間は、がんばってがんばって、必死に、楽しく、やさしく、生きている。
目の前に立つ人間を愛するために、普段とは違う時間の流れを掴もうとしながら、「すごいね」なんて、ちいさな愛を囁いている。


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