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点と点で線になる


 点と点をつなぐと、線になる。
物体はすべて小さな原子が繋がってできているのと同じように、わたしの人生も小さな点がたくさん集まって、22年の長さをつくってる。わたしだけじゃない、すべての人もきっとそう。

 今日はね実はとても不思議な日でね。
わたしの学生引退デイでもあり、父の退職の日でもあった。わー明日から社会人かよと丁寧にまる1日かけて辟易するわたしを横目に、手に花束をいっぱい抱えて、プレゼントをいっぱい抱えて、仕事を終えた父が絶妙というか微妙な面持ちで帰ってきた。

そうかあ、おとうさん、今日で終わりだわ。
わたしは始まって、おとうさんは終わる。
なんとまあ。
…あ、花、かわいい。ちょっともらお。

 そんな夕方。
花束があるだけで、あんまりいつもと変わらない気がしてた。
でも、そんなことなかった。全然そんなことなかった。ありがたいことに、夜我が家に宅急便がたくさんきて、どれも父への贈り物だった。
何なんだ今日。あ、そうか、お父さん、退職か。

 父の仕事人生は、タバコ片手に図面とひたすらに向き合った約40年。だったらしい。わたしはその半分くらいしか知らないけど。フロアには女性が数人、残り数十人は全部男。むさ苦しい程男社会の中で道やらトンネルやらを設計し続けるなんて、わたしにはちょっと知らない世界すぎる。
わたしが小さい頃は家に父がいた記憶があまりない、そのくらい仕事のひとだった。
技術のひとだった。努力のひとだった。
そして、使命感のひとだった。

 そんな父の背中、いつまでも勇ましくて大きくて、怖いものなんてないように思えていたけど、
いつの間にか少しずつ角が取れて小さく丸くなり。それでもまだ大きいけど、でもなんとなく張りが無くなってきて、無敵だと思ってた父がどうしたって時の流れに逆らえていない姿を見ると…

うーーーん…。
うーん……。


うん。あっぱれだね。
うん、今日は晴れの日ね。
シワシワもヘトヘトも、全部かっこいい。
お父さん、退職おめでとう。おつかれさま。


父の2023年3月31日は、
さようなら、ありがとう、また会う日までと
みんなの涙がぽろぽろ落ちて、
その涙が地面に落ちて、
点になり、点になり、点になり、
それが繋がり、線になって、できたのね。
ありがたいね。こんなに美しい点はないね。
父の今日という日が、
おつかれさまと微笑みながら泣く母にとっても、
どうか色の濃い線により作られていますように。



 父は最後の仕事として、街にひとつ、大きな橋を架けた。一から設計して、橋を架けた。
それが父にとって最後の仕事。街の人のために捧げた最後の仕事。橋の名前のプレートは、実は母が書いた。父の最後の仕事がどうか少しでも美しいものになるようにと、母は夜じゅう橋の名前を練習した。たった四文字のひらがなを、何度も何度も練習していた。その姿は健気で彩りがあって、夢があって、わたしもお父さんの仕事の責任を一緒に背負うからね、と優しく父に語っているみたいだった。


 わたしは今日、父が退職をしなければ、
「橋を架ける」ことの価値を知らずに教員になっていたかもしれない。

「橋を架ける」。
ただ川の上に道ができるだけじゃない。
迂回せずに済むとか、便利になるとか、安全になるとか、そういうことだけじゃない。


「 川があってね、
しかもここは被災しているから危なくて、
遠回りをしなくちゃ、会えなかった人がいたの。
でもわたしはもう歳だから、あまり動けなくて、
ずっとずっと、大切な人に会えていなかったの。
でもね、今日こうして橋が架かってね。
この橋を渡って、やっと会いに行けたの。
会えたの。会いたかった人に。

そしたら涙がねぽろぽろ出て来ちゃって。
手を取り合って、泣いちゃったの。
嬉しいことだね。とても不便だったからね。
ありがたいね。ありがたい。 」

 テレビ局にインタビューを受けてこう話すおばあちゃんを見て、わたし、橋を架けることと、人生って、似てるなと思った。

 点と点で線になる。いろんないろんなエピソードが連なって、線になる。人生になる。
その点と点の間にはきっとね、橋が架かってるんだ。わたし、今日知った。
橋が架かったことによって、繋がらなかった人同士の手と手が繋がる。その手の温かさは、その繋がりからしか生まれない。人の原動力は温かみだとわたしは信じてるから、なによ、お父さん、しれっとすごいことしたじゃない。街の人にとってもだけど、なにより末娘にとって、大切なことしたじゃない。


うん。やっぱり、あっぱれだね。
うん、今日は晴れの日ね。
橋を架けてよかったね。
橋が架かってよかったね。
いろんな人の手と手が繋がってよかったね。
おとうさんの2023年3月31日が、たくさんの人の涙で作られて、今までが報われたね。
娘はこんなに感動しています。



改めて、お父さん。
退職おめでとう。
おつかれさま。

いろんな人の思いが架け橋となり、
4月1日、新年度が始まる。
どうか、どうか。
祈りある、深い色した一年となりますように。
あなたにもわたしにも、たくさんたくさん、
心に橋が架かりますように。

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