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時代を越える「戦略の原則」。著書「良い戦略、悪い戦略」から学ぶ戦略論。

この記事では、D2Cブランドの立ち上げをしている筆者が、日々のインプットを独自のフィルターを通してアウトプットする「記文シリーズ」です。数ある学びの中から最重要事項のみお伝えします。

今回は、リチャード・P・ルメルト氏(以下、リチャード)の「良い戦略、悪い戦略」について。言わずと知れた名著である本作では、「戦略」の意味・本質をあらゆる事例を元に分かりやすく解説しています。

日々の事業活動の中で、ついつい口にしてしまう「戦略」という言葉。その意味を正しく理解し、本質を捉え、事業を前進させるために役立つ良書です。経営者、事業責任者には特に読んで頂きたい一冊。

1. 結論:戦略の見方が変わる

結論、本書を読んで、今まで「僕らの戦略は〜〜〜だ。」と言って偉そうに語っていたことが恥ずかしくなりました(笑)

それくらい、「戦略」という言葉の見方が変わる一冊です。

皆さんは、「戦略」という言葉をこんな風に使っていませんか?

  • 我々のSNS戦略は、ニッチなジャンルに絞り毎日3本発信することだ。

  • 毎月4個の商品をリリースし、売上1億円を目指すことが我々の戦略だ。

などなど。何となく巷で流行っているノウハウを鵜呑みにしたり、目標からのトップダウンでそれっぽい行動目標を定めてみたり、これらは本当に「戦略」と言えるでしょうか?

リチャード氏の答えは、”NO”です。

戦略とは、「組織が抱える最重要課題を見極め、リソースを集中投下し、組織が前に進むためにどう行動すべきかを示すもの」です。何となく正しいとされることを、そのまま自分達の組織に当てはめることではありません。

要するに、組織それぞれで最善の戦略は変わる、ということです。

2. 学び:診断、基本方針、行動

では、具体的にどのように戦略を定めていけばいいのでしょうか?リチャード氏によると、良い戦略には以下の3つの理論構造(カーネル=核)があるとしています。

  1. 診断

  2. 基本方針

  3. 行動

もう少し具体的にいうと、組織が抱える課題を「診断」し、組織が進む「基本方針」を定め、一貫した「行動」をすること。これが良い戦略が共通して持つ核となる構造です。それぞれ詳しくみていきましょう。

一. 診断

戦略の全ては、診断から始まります。ここで重要なのは、事実に基づき「診断」することであり、ただ「判断」することではないということです。

「有料会員が減ってきたから、もっと集客に力を入れるべきだ。」

これは「有料会員が減ってきた」というのが組織にとって大きな課題だと”判断”しているだけであり、事実に基づいた”診断”ではありません。

過去三年の入会率と退会率を見てみると、退会率は10%と三年間ほぼ横ばいだが、入会率が3年前と比較して直近一年間は20%も下がっている。要するに、新規顧客が減っているのである。そのため我が社では、入会率を上げるために新規顧客の集客に力を入れる必要がある。

少しそれっぽくなってきましたが、上記もまだまだ診断とはいえません。なぜなら、具体的な行動が見えないからです。リチャード氏によると、的確な診断とは状況説明で終わらずに必要な行動まで示すことができる、としています。

入会率が下がっている要因を紐解くと、今まで主要な集客チャネルであったYouTubeの月間UU数が3年前と比較すると30%下がっていることがわかった。しかし、ある市場調査結果によると、YouTube上には過去3年で新たなYouTubeチャンネルが10倍も誕生しており、月間UU数が減ったのは競合が増えた、という外的要因によるものだと考えられる。

また、ある市場調査結果によると、自社商品と同じカテゴリーの動画がTikTok上で人気になっていることがわかった。まだ競合他社は本格的にTikTok運用はしておらず、自社が培ってきた動画制作技術という強みを活用すれば、短尺動画プラットフォームのTikTokで大きな果実を得られる可能性が大きい。

ちょっと雑ですが(笑)、、、こんな感じで自社/競合/市場の状況を診断することで、必要な行動が見えてきます。

このように、次に紹介する基本方針や行動の原点となるのが「診断」です。この診断がなければ、本当に重要な課題を見つけることはできませんし、説得力のある戦略も生まれません。

診断は辛く、しんどい工程ではありますが、ここを冷静に行えるかどうかが、良い戦略と悪い戦略の分かれ目になるでしょう。

二. 基本方針

診断により重要な課題を見極めたら、その課題を乗り越えるための方針を決めていきます。

先ほどの集客の架空話に戻りますが、TikTok以外のチャネルも選択肢としてあったはずです。SEOや広告での集客もありえたでしょう。

でも、それらの選択肢を削り、「TikTokで集客する」という方針を決めました。これは、その他のチャネルを開拓するよりもTikTokにリソースを集中投下することが課題を乗り越えることに一番効いてくる、という診断を元にした意思決定です。

リチャード氏は、本書で何度も「もっとも重要なことに、リソースを集中させよ。」と話しています。本当に”何度も”です。これは言い換えると、選択肢を排除することが重要で、それこそが基本方針であるということを意味します。

日本では、よく三本柱という言葉を使います。

小学生の時、学校を綺麗にするための「清掃の三本柱」みたいな方針があったことを記憶しています。昔からの伝統を引き継ぎ、現状を診断せず、更に3つのことにリソースを割くという方針は、良い戦略を構築するための基本方針としては微妙ですね(笑)

むしろ、決定的なことにフォーカスし「一本柱」を示すのが基本方針だと言えます。

三. 行動

診断し、基本方針を定めて終わりではありません。戦略とは、行動まで紐づけて、組織が前に進むための行動を起こせるような状態にすることです。

WBSのように超具体的なことリスト化することではありません。良い戦略における「行動」とは、その戦略を聞いて組織のメンバーがどう行動すべきか理解できるもの、だと思います。

では、どのように行動を示せばいいのか?リチャード氏は「近い目標を定めよ」と語っています。

近い目標とは、手の届く距離にあって十分に実現可能な目標を意味する。高い目標であってよいが、達成不可能ではいけない。

この「近い目標を定める」という行為は、不確実性の高いことにチャレンジしている組織には特に重要だなと思いました。

筆者は現在、カメラアクセサリーブランド kyu で事業の立ち上げをしています。このブランドのビジョンは「人類の記憶を美しく」です。新規事業の立ち上げだけでも分からないことだらけなのに、抽象的なビジョンを掲げているので、いつも闇の中を走っているような気分です(笑)

本書では、近い目標を定めることの重要性を「無人の月面探査機 サーベイヤーの開発」を事例に元に解説していて、それがとても分かりやすく、新規事業立ち上げをしている自分には特に刺さりました。

人類がまだ月へ行ったことがなかった時代。月面がどんな状態なのかは誰にも分かりません。そのため用件定義ができず開発は難航しましたが、研究主任のフィリスが作成した月面模型を機に開発が一気に進むことになります。

フィリスは、入手可能な情報や理論を検討し、月面の条件を「決めきった」のです。これにより、このプロジェクトを取り巻いていた課題はシンプルになり、技術者は開発を進めることができました。そして、サーベイヤーは無事に月面着陸を果たしました。

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まとめると、不確実性の高い遠い目標だけを見ていても具体的な行動には結びつかないので、不確実性の低い近い目標を定めることでやるべき行動を見出そう、ということです。

3. 総括:一貫性と調整

良い戦略3つの理論構造「診断・基本方針・行動」を理解すると、事業活動に一貫性が出てきます。事実に基づく診断を行い、基本方針を定め、必要な行動を取る。一貫した事業活動を行うことで課題を解決し、事業・組織を前に進めます。これこそが、リチャード氏がいう「良い戦略」です。

そして、これは一度決めたら終わりではありません。自社の環境や市場は変わっていきます。その都度、適切に診断し、基本方針と取るべき行動を調整していきます。それを表したのが、上図です。

巷に蔓延るなんちゃって戦略とは違い、この理論構造は時代を越える「戦略の原則」と言えるでしょう。本書では、詳しい事例を元に解説してくれるため、上記のインパクトをリアルに感じることができます。

興味のある方は、リチャード氏と直接対話(読書)してみることをおすすめします。400ページくらいです。ではまた。

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