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書評:ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史』

近代以前の資本主義史を辿る

本日ご紹介するのは、ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史』という著作。

本著は資本主義の歴史を巡る著作であるが、主に近代資本主義以前に大半を割いているのが特徴的だ。

一般に近代資本主義とは、産業革命を契機に「生産」という活動を資本主義がその内部に大規模に取り込んだ時代以降を指す言葉と言うことができる。

その理解から言えば、近代以前の資本主義とは、「生産」活動が経済システムとは比較的独立した時代、即ち通商中心でモノの価値の地域的差異から収益を得る交換経済がメインであった時代の資本主義を指すこととなる。

通商資本主義は古代から存在し、地域的にもイスラムや中華圏でも確認される事象であった。

本著は、地域面・歴史面である程度普遍的に確認される通商資本主義が、何故ヨーロッパにおいて「生産」活動を取り込み近代資本主義へと発展したのか、他地域との歴史的条件の違いは何だったのかを指摘することを主目的とした著作であると言えよう。

本著ではその条件を巡り、中世ヨーロッパの内部的な社会システムと対外的な活動という、対内・対外を俯瞰していく。

①対内:カトリック教会と封建制度

一般に社会システムとしての中世ヨーロッパを特徴付ける要素は、カトリック教会と封建制度だとされる。

それぞれヨーロッパ内でも地域により相当な濃淡があるも、両者による広義の二重権力が、社会単位(村や街、都市)や社会内部の人の結び付きの質を、イスラムや中華圏に比してより多元的な形で規定した。

②対外:植民地主義

ヨーロッパが通商資本主義の段階から収益拡大のために行った特徴的な活動は、対外地域の植民地化である。

多くの植民地では、農産物等をプランテーション型、即ち「生産」を土地的・人的に集約する形が積極的に採用された。

近代資本主義に取り込まれた「生産」活動の特徴を先回りするならば、「工場制手工業」や「工場制機械工業」という言葉が象徴するように、工場制、即ち人(人的資本)の集中がそれに当たろう。
同時進行的に進んだ労働者の都市部への集中も背中合わせの事象だ。

本著は、工場化や都市化という人(人的資本)の集中(=近代資本主義の特徴)を産業革命に並行する形で可能にしたのが、中世ヨーロッパ特有のカトリック・封建社会と植民地主義の時代的先行である、と指摘する。

これはオーソドックスな理解ながら、本著の優れたところは、比較的コンパクトな書籍において、中世ヨーロッパ「内」の地域的差異を丁寧に取り上げた緻密な検証を行いつつも、なおのことヨーロッパを大きく巻き込んだ近代化へのダイナミズムを捉えた点にあるだろう。

中世ヨーロッパの対内・対外的特徴が近代資本主義へとつながる因果関係をここで端的に説明することは、私の力不足のため適わないが、資本主義の近代化における条件と特徴は、現代資本主義にも大きく引き継がれており、本著の終章は現代資本主義の特徴と展望に割かれている。

以下は、私の個人的な、試論にも至らない予感である。

本著が示すような、資本主義の大局的な流れを捉えることは、(良し悪しの議論は断じて別にしたとして)今後の経済成長、およびそれを支える「生産」活動の継続的なイノベーション産出を考える上で、重要な視点を提供してくれるように思われる。

近代・現代の資本主義が、人(人的資本)の集中を伴った「生産」活動をその内部に取り組んだものであるならば、成熟化が囁かれる現代の先進資本主義国家・社会で確認され始めた労働資本の分散化・解体・個人化傾向は、イノベーションの継続に慣れ親しんだ現代人を満足させられる成果を継続できるのだろうか、という疑問が私にはある。
繰り返しますが、良し悪しは別問題としてである。

我々が、乗り掛かったどころか、どっぷり身を委ねて200年以上歩んだ資本主義を、今後どのように舵取りすべきか。

本著においてコッカは、「資本主義はあくまで価値中立的であり、社会と政治という土壌がその内容を規定する」という趣旨の主張を最後に示す。

この主張に従うならば、我々が目指すべきより望ましい経済社会の設計と構築は、政治・社会活動として取り組まねばならない挑戦となるであろう。

経済活動の一時的な流行の赴くがままに身を委ねることは、決してより良き社会を保証するものではないはずだ。

私の現在の力ではこれ以上論を進めるに能わないが、個人的な最大の関心事項として学び続けたいと思っている。

読了難易度:★★☆☆☆
「近代資本主義」誕生条件の分析度:★★★★★
資本主義の「通史」としての充実度:★★☆☆☆(←近代資本主義時代の記述はほぼなし)
トータルオススメ度:★★★★★

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