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書評:井伏鱒二『黒い雨』

日本文学史に遺る原爆文学の記念碑的作品

今回ご紹介するのは、日本文学より井伏鱒二『黒い雨』。

原爆文学の記念碑的作品であり、お読みになったことがある方も多いのではないかと思う。私の場合、読書を海外文学から始めたので、本作を手に取ったのは比較的後になってからであった。

本作は、広島で被爆した主人公およびその家族の日記・手記という形で物語が構成されている。8/6から8/15までの、わずか10日間の物語だ。

凄惨な現場のレポートが、その恐怖を生々しく伝えてくれる。唯一の被爆国である日本が、認識し、語り継いでいかねばならない物語だと、強く強く感じる。

戦争が終わっても被爆の恐怖は去らないという現実も伝えられます。主人公の姪は、被爆時に降ったとされる「黒い雨」に打たれたことが原因となり、原爆症を発病してしまうのだ。

井伏は、単なる記録文章を記すに留まらず、そこに「生きた」、生身を以って「体験」した人間を、見事に描きあげた。

戦争と向き合う、原爆と向き合うには、二度とあってはならないことだと強く思う反面、やはり肌感覚のような生臭い体験が必要なのかもしれない、というジレンマに身を引き裂かれそうになる。

その背反するギリギリの淵を、文学は歩むことができるのではないか。本作を読む時、現実と創作のわずかな触れ合いが実体を伴う瞬間に読者も誘われるかのようだ。

思うに、こうした文学においては、政治とは次元を画した、庶民の風俗が描かれる必要があった。井伏はその筆において使命をなし、そしてその作品は果てることのない使命を果たし続けているように思う。

如何なる凄惨な恐怖も、時代とともに風化していく危険に晒されている。文学の持つ使命は大きいと感じた一冊である。

読了難易度:★★☆☆☆
リアリティ生々しさ度:★★★★☆
日本人として読んでおきたい度:★★★★★
トータルオススメ度:★★★★☆

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