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書評:鈴木道彦『マルセル・プルーストの誕生』


プルースト文学に見られる徹底した自己表現と自分史の普遍化

今回ご紹介するのは、鈴木道彦『マルセル・プルーストの誕生』という著作。

本著が発刊されたのは2013年のことで、その年はマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の刊行からちょうど100年というメモリアル・イヤーであった。

この佳節に、日本を代表するプルースト研究者であり、『失われた時を求めて』の全訳も完遂した経歴を持つ鈴木道彦先生の文芸評論が刊行されたことは、ファンとってはこの上ない喜びであった。

本著では、プルーストの持つ「普遍性」が強調される。

徹底的に自身と向き合い、自身を表現するという個別性が、普遍性に至るというある種の逆説が生じるのが『失われた時を求めて』の特徴であるとのこと。

喘息、ユダヤ人問題、エディプス・コンプレックス、同性愛、等々。

これらは全てプルースト個人の問題群として出発しながら、作品では確かに、より一般的な生のあり方を問うものに昇華されていると言うことができる。

であるが故に、主人公は普遍性を体現しておらねばならず、無名の一人称(「私」)でなければならないと鈴木先生は主張する。

※『失われた時を求めて』の主人公が、名もなき「私」なのか、それとも「マルセル」という名なのかという点は、大きな論争の的になっている。

私自身もそうであったし、『失われた時を求めて』を読了された方なら同じような感覚を覚えたのではないかと想像するのだが、確かにこの作品を読み進めていると、いつの間にか自身の内面を深く旅し、読者自身の自己探求を進めているかのような感覚を覚えるようになるのだ。

このような読書体験は、鈴木先生が指摘するようにやはりそこに普遍性があるからだろうと納得することができる。

『失われた時を求めて』における稀有な読書感覚と、それが生じるロジックに迫った、同作刊行100周年を彩るに相応しい力作である。

読了難易度:★★★☆☆(←『失われた時を求めて』読了後でないと難易度高)
プルースト作品の特徴探求度:★★★★☆
プルースト作品読書時の感覚解明度:★★★★★
トータルオススメ度:★★★★☆

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