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顧客エンゲージメントは指標化できるのか?

ここ最近、自分のnoteでも、様々な取材対応においても、「エンゲージメント」の重要性について語る事が多くなっています。ただこのエンゲージメント、実際のマーケティング活動に落としていく為には、概念ではなく、実際にマネジメントできる指標に落としていく必要があるのですが、これが中々やっかいでして・・いろいろ考えてみました。


顧客エンゲージメントって、そもそも何?

顧客エンゲージメントってそもそも何でしょ?エンゲージメントを直訳すれば「約束・契約・結びつき」の事で、マーケティングの世界ではおおよそ、「顧客と企業・サービスの間の信頼関係や相互愛着度」といった意味で使われます。

似た言葉に「顧客ロイヤリティ」がありますが、両者は微妙に異なったニュアンスを持つ言葉であり、ここらへんのところと、後述する「ロイヤリティやエンゲージメント向上には2つのルートがある」というお話は、先日書いたこちらの記事で詳しく説明しているので、ご参照願えればと思います。

昨今、この「顧客とのエンゲージメントを高めるコト」が、企業にとって最も重要な命題であると言われているわけですが、このエンゲージメントの向上を至上命題として活動に組み込む為には、これを概念やビジョンではなく、「具体的な数値目標」として設定しマネジメントしていく事が求められます。

しかしながら、このエンゲージメントの指標化やスコア化が難題でして・・。

一応、よく上がる議論としては、「NPS(ネット・プロモーター・スコア)」を、その成果指標(KGI)として使用するという案なのですが、たしかにNPSは優れた指標なのですが、日々のマーケティング活動等に利用していくには、現実的には不向きであり、より活動にリンクしやすいエンゲージメントの指標化が求められます。

エンゲージメントとNPS・LTVの関係

そもそもエンゲージメントを「顧客と企業・サービスの間の信頼関係や相互愛着度」と定義するのであれば、NPSやLTVといった指標は、その関係性の結果得られた数値であり、エンゲージメントはその先行指標的な役割を持つと考えられます。

また、顧客エンゲージメント自体についても、人間同士の関係性と同様に、不可逆的に蓄積されていく「累積関係性」をベースとして、その上で、日々の生活の中で、より関係性が強まる時期があったり、疎遠になる時期があったりする「流動的関係性」の2つで構成されていると言えます。

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よって、実際のマーケティング活動の中で「顧客エンゲージメント」を追っていくためには、結果指標である「NPSやLTV」と、どのような数値がエンゲージメント指標として関係するのか。また、累積エンゲージメントスコアと、日々のエンゲージメントスコアの両面を追っていく運用が求められると考えています。

エンゲージメントをスコア化する

結果指標である「NPSやLTV」を操作しうる、先行指標となる「エンゲージメントスコア」を、日々の活動の中で追える「数値」として取得する事ができれば、マーケティング活動の精度は大きく向上するはずです。

多くの企業では、このエンゲージメントスコアを代替する指標として、DAUやMAU、チャーンレート、RFM等の指標を使用している事と思います。これは、論理的にも経験値的にも、これらの指標がLTV等に影響する事がわかっており、また比較的データ化しやすいからに他なりません。

ただ、これらの指標が本当に「エンゲージメント」を表しているのかと言うと、もしかしたらその一部しか表しておらず、見落とされているシグナルが多数存在している可能性もあります。

特にチャット等をWebに組み込んでいると、その発話頻度や、発話内容が、LTV等の結果指標に大きく影響を与える事がわかってきます。また、自社サービスに対する理解度(サービス紹介ページの閲覧状況等)が高まると、やはり結果指標に影響を与え、意外にエンゲージメントを表すシグナルは多岐に渡っているという感触を持っています。

よって、より精度の高いエンゲージメントスコアを可視化する為には、やはり、重回帰分析等を用いて結果指標である「LTV」等と各顧客アクションの変数の関係性を紐解き、各変数の重要度を元にした、目安となるエンゲージメントスコアの構築が必要であると感じます。

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また、結果指標をLTVに絞った場合でも、その要素に「商品粗利単価」等の指標が組み込まれている為に、モデル化が困難になる事が予想されるため、結果指標としては、その手前に「中間結果指標」を起き、その指標をゴールとしてモデル化を行う必要があると思います。

実際、我々がチャットマーケティングにおける「有望顧客判別ロジック(機械学習モデル)」を構築した際も、KGIを最も最下層のゴールである「受注率」に置いた為、モデルがうまく機能せず、その手前の「商談率」等に置く事がモデル改善に求められた為、エンゲージメントが直接機能しうるKGIを置く事がポイントだと思います。

そして、顧客エンゲージメントが深まった結果を考えた場合、顧客の行動は単にモノを購入するというだけに止まらず、情報をシェアしてくれたり、好意的レビューを書き込んでくれるという行動を行い、その結果、企業やサービスの収益に影響をもたらす事からも、KGIの設定には一定それらの活動を組み込んで置く必要があります。

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できればアプリに持ち込みたいところ

エンゲージメントスコアを測る為には、多変量解析を用いるにしろ、単純な代替指標を用いるにしろ、基本は「行動データ」を軸に指標化を行う事になると思います。そして実際の打ち手(顧客へのアプローチ)は、その行動データに対して行う事になります。

そうすると最も重要な事は、「行動データの量とリアルタイム性」になります。

アプリを実際に運用するとわかるのですが、この行動データの量とリアルタイム性が、アプリとWebでは全く異なります。実際、我々のアプリの一つは、完全に「自社Webサイトをアプリ化しただけ」なのですが、Webでのユーザーとアプリでのユーザーでは、その行動量は5倍という結果でした

もちろん、業態やサービスによって異なると思いますが、他社さんのお話を聞いた際にも同様の事を皆さんおっしゃっていたので、鶏とたまご問題を脇に置くとすれば、この状況は正しそうです。

また、当然ですが、アプリの場合には「プッシュ通知」が使える為に、ユーザーの状態に対するリアクションのリアルタイム性が大幅に高まります。

よって、エンゲージメントスコアを計測し、実際のマーケティング活動に組み入れて行くのであれば、アプリは出来るだけ持っておいた方がいいと思っています。

また、アプリだとなおさら、エンゲージメント向上に繋がる行動を促進できる、マーケティング・オートメーションツールの導入は必須です。

最終的には二つの「CEM」を行っていく必要がある

エンゲージメントのスコア化、そしてそれを元にした活動は、結局のところ「LTVやNPS」といった最終結果指標をコントロールする為の、手段にしかすぎません。あくまでもゴールは「LTVやNPSをいかに高めるか」であり、その為には企業は「二つのCEM」を実行していく必要があります。

その一つが、CEM「Customer Engagement Management」であり、もう一つがCEM「Customer Equity Management」です。両者は共に「CEM」という単語に略されるマーケティグ用語ですが、その立ち位置は異なり、また相互に関係する内容である為、注意が必要です。

エンゲージメント指標は、マーケティング戦略や戦術の策定、また日々の施策活動といったモノへの活用には非常に有用ですが、そのスコアと最終的な損益が四則演算的に結びつくものでは無いため、その活動結果を、実際の予算や投資判断と結びつけていくマネジメント手法が必要となります。

それがCEM「Customer Equity Management」であり、この2つのCEMを利用してマネジメントを行う事で、エンゲージメントをより整合性を持った形で企業活動にリンクしていけるモノと考えています。

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CEMは「顧客資産管理」とも言われ、顧客を資産として捉え、LTVをマネジメントしていく為の管理手法です。企業活動的には「管理会計」の機能に分類されます。詳しくは下記のnoteで解説していますので、そちらを参考にしてください。

最後に

偉そうに書いてきましたが、自分のサービスでも、このエンゲージメントのスコア化を完全にはやり切れていないのが現状です。チャットに関してはかなり紐解きができてきており、A・B・C・Sといったレベル分けまでは持って来れています。

ただ、CRMがほぼ機能せず、BtoBに近いナーチャリングモデルとなってしまう、我々のようなサービス(中古車販売)では、やはり限界があるようで、エンゲージメントスコアは、より顧客関係性の長いCRMが機能するサービスに適していると思います。

また、エンゲージメントの向上にも二つのルートがあり、一発で顧客に感動を与えエンゲージメントを向上させる「一目惚れ的な手法」もあるため、一概にエンゲージメントのスコア化が全てにおいて重要という訳でもありません。(中古車販売事業みたいなのには、こっちの方が合ってたりします)

個人的には、ここら辺、もっと深掘りして研究していきたいです。(誰かデータ提供して下さい。あと機械学習得意な人を紹介して欲しいです)

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