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チャット・マーケティングの真実 前編

前回の「ロイヤル顧客育成の真実」に引き続き、「真実シリーズ」で書きたいと思うのですが、今回はスコープを絞った各論として、ロイヤル顧客の観点からも重視している「チャット」について書きたいと思います。長いので二回に分けて書きますが、前編のキーワードは「機会損失の削減」です。


はじめに

最近、チャットマーケティングについて講演する機会が多いのですが、その講演後の名刺交換や懇親会で、非常に多く相談されるのが、「チャットを導入したのですが、全く成果が上がらず困っています」というご相談です。

何人もの相談を受ける内に、そこにはどうも「共通した課題」があるという事に気付きました。

前回の「ロイヤル顧客育成の真実」において、人に感謝や感動が生まれるのは「困った時」では無いか?そこへのアプローチとして、チャットが有効ではないか?という事を書かせて頂いたのですが、導入して成果が上がらない企業様に共通するのが、この観点が抜け落ちている事では無いかと感じてなりません。

私のチームでは、かなり早い時期からチャットに取り組んできており、今から4年前の2016年に、最初のチャットサービスとなる、会員制チャットサービス「クルマコネクト」を立ち上げました。

このサービスは、扱っている商材が「中古車」という、検討期間の長い商材であったために、購買確度をあげるための「ナーチャリング」が重要であり、平均2週間から1ヶ月間という期間で、顧客に寄り添い、コンシェルジュのように、車の提案を行う事で受注率をあげる事を目的としています。

そして、2019年3月に、オウンドメディアに対し、全面的に「オープンチャット」、つまり会員登録を必要とせず、リアルタイムに顧客対応を行うチャットサービスを開始しました。

そして開始から3ヶ月後には、「商品詳細ページ(個車詳細ページ)」のCVRを、導入前に「1.5倍」に向上させる事ができました。

なぜ成果が上がったのか?その大きな背景には、そもそもチャットを導入する「目的」に違いがあったからだと、考えています。

多くのECサイトがチャットの導入目的を間違っている?

皆さんは、どのような目的で自社サイトにチャットを導入してますでしょうか?

ご相談を受ける、多くのECサイトさんの話を聞くと、カスタマーサポートを目的としている場合以外では、主に「売り場の提案力を上げる」事を目的に導入しているケースが多いようです。

そして皆さん、一様におっしゃるのが「チャットを導入したのだけど、思ったような成果が出ない」という言葉です。

実はここに最大の課題があると考えています。

我々のチームでは、チャットを「機会損失の削減」する事を目的に運用を行っています。

もう少し平易に言えば、Webサイトにおいて、お客様が困ったという場面に立会い、それを解消する事を目的として、チャットを導入しているという事です。

そして我々のケースに限らず、多くのECサイトにチャットを導入する場合には、「提案力の向上」に目的を置くよりも、「機会損失の削減」においた方が、実は成果が上がりやすいと考えています。

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なぜ提案力向上より、機会損失の削減が重要なのか

ECサイトを、実際の店舗売り場に置き換えて頂けるとイメージしやすいと思うのですが、店舗において「店員さん」に期待する役割とは、どのようなものでしょうか?百貨店のブランドショップの例で考えてみましょう。

恐らく皆さん、自分で色々な洋服やバッグを手に取り、あれやこれやゆっくりと考えたいと思うと思います。その際に、店員さんが「私に聞いてくれれば提案しますよー、ぜひ提案させて下さいー」と、アピールされまくっても困りますよね?

店員さんを頼りたいと思う場面とは、「気になる商品について、もう少し詳しく知りたい」、または、「欲しい商品が見つかったが、売り場にサイズが無く、他の店舗に無いか調べて欲しい」、「洗濯機で洗えるのかどうか」といった、何かしら「不安」や「疑問」といった「困った」があり、一歩踏み込んだ事を聞きたいという場面が多いのでは無いでしょうか?

このような場面で、店員さんに声をかけてくれる顧客とは、実は「検討進度が深い」顧客であると考えられます。検討進度が進んでいる状態であるからこそ、売り場で得られない「一歩踏み込んだ情報」を求めて、店員に声をかけてくるわけです。

もちろんコーディネート提案そのものを、店舗の強みとしており、それがコアサービスである場合には別ですが、多くのショップは基本的にセルフで顧客に商品を選んで頂くスタイルだと思います。

よって、ECサイトに設置しているチャットを、「店員」と同じ役割であると仮定した場合、顧客がチャットに求める役割とは、このように検討進度が進んだ場面において何かしらで「困って」おり、Webサイト上で得られない「一歩踏み込んだ情報」を求めていると考えられます。

そして、一歩踏み込んだ情報は、その人、固有の困った状態を解決する情報であり、そこに対して期待に応える事は、先の「ロイヤル顧客育成の真実」でも書いた通り、顧客の満足度を大きく引き上げる「体験」になると思います。

有人チャットの設置が重要

ここまでお読みになって、既にお分かりになった方も多いかと思うのですが、チャットにおいて最優先で対応すべきは、「検討確度が上がって何かしらの困った(障壁)が発生した顧客」であり、それらの顧客がチャットをしてくる、つまり、店員さんに声かけする理由は「売り場でわからない、一歩踏み込んだ相談」ためです。

一歩踏み込んだ相談は、往往にして、個別の商品や、顧客の個別の事情に紐づいた相談であるケースが多く、大多数の人が求める「一般的な情報」で無いといった特徴があります。

ここに、昨今流行っている「チャットボット」の限界があります。

例えば以下のようなケースで考えてみましょう。既にある商品についてほぼ購入を決めている人がいます。ただある事情(その日に出産した病院から妻が退院するといったケース)があり、確実に来週の月曜日までに届けて欲しい、と考えているようなケースです。

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最近はAMAZONをはじめ、明確に「配送日」を指定できるケースも増えていますが、いまだ「4日〜5日でお届け」みたいな表示ケースも多く見られます。

このような場合、例え、購入から5日後が月曜日であったとしても、フェイスTOフェイスでは無いECでは、顧客は「確実に届くのかどうか不安」という事から購入を躊躇しがちです。私も実際このような場合には、購入を諦めて遠くの店舗まで購入しにいったりします。

配送日を指定できたとしても、この不安というのは中々拭えないもので、やはりリアルな店員さんに、「月曜日に届きますよね」と確約を取れると安心できるものです。

仮に、このような顧客のケースで、「4日〜5日でお届け」の表示しかできておらず、チャットも「チャットボット」任せにしている場合に、何が起きるでしょうか?

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Webサイト上に正確な指定日を表示できていないわけですから、当然、チャットボットに提供できるデータも同様となるため、「チャットで相談しても意味なかった」という体験になる可能性が高く、むしろ顧客体験に悪影響を与えてしまいます。

このお客様が、「その日に出産した病院から妻が退院するから、どうしてもその日までにチャイルドシートが必要であった」といったような顧客であった場合、まさにこの納期が「真実の瞬間」であり、この瞬間において、店員が有人チャットにて、製品メーカーまで納期を問い合わせ、自社の配送にも確認をこなった上で納期を確約してくれたとしたら、そこには、大きな感動が生まれ、一気にロイヤル顧客が生まれるといった事になるかもしれません。

このような「個別の事情に合わせた」対応は、チャットボットでは難しいです。人だからこそできる対応であり、今後AIが発達したとしても難しい領域では無いかと考えています。

我々のチームが運営するチャットは、全て「有人チャット」となっています。もちろん理由は「顧客の個別の困ったに対応する」ためです。ただ、実はチャットボットも使用しています。

チャットボットを導入する目的

有人チャットの運営を行う上で、実はチャットボットの導入はかなり重要です。その目的は「本当に個別相談を行うべき、より購買確度の高いお客様の対応に人的リソースを集中」させる為です。

チャットボットの役割は、「一般的な情報で対応できる顧客(多くの場合検討深度が浅い)」と「個別の相談が必要な顧客(多くの場合検討深度が深い)を、切り分ける役目です。

チャットボットにスクリーニングをさせる事により、できるだけリッチな対応を重要な顧客に行う事で、本来の目的である「機会損失の削減」を実現させるというのが、私の考えるチャットボットの使い方です。

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CVゴールに近い地点ほど個別相談が増える

リアル店舗での事例のとおり、個別の相談がしたくなる場面の多くは、具体的に検討が進んだ段階です。購入の意思決定を行う「ストレス」が発生する為に、間違いたく無い、失敗したく無い、という「リスク回避」の気持ちが高まるためです。

よってECサイトにおいて、チャットを設置すべき重要なポイントが「バスケット以降のフロー」になります。

特にそのECサイトで初めて購入する顧客の場合、まだエンゲージメントが築かれていないため、このフローの段階でかなりデリケートな状態になっている事が多いです。

このため、本当にちょっとした事で、購入を断念したり、そのまま「ちょっと考えよう」と保留したり(バスケット放置)、するケースが発生します。

・配送日指定ができない商品で、特定の日までに届くか不安でやめる
・クレジットカード入力で、セキュリティーコードの意味がわからずに諦める
・サイズが不安になり、以前同じECサイトで購入した商品のサイズを履歴で確認したいが、履歴画面に遷移すると、今まで入力した情報が再入力になってしまう気がして諦める。
・まとめて配送して欲しいのに、バラバラの配送日しか選べずに諦める
・ギフトラッピングの有無を選択しないと、配送方法の選択画面から次のページに遷移しないという事がわからず、何故か次に進めないと思い、焦ってやめてしまう。

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店頭であれば、一言店員さんに聞けば済む事ばかりなのですが、ECサイトでは、顧客にとって「融通が利かない」と感じる場面が多く発生します

また、サイト運営側が「そんな事、ちゃんとサイトに書いてあるじゃん、よく読んでよ!」と思うような事でも、顧客側から見れば気付かない、または読んだけどよくわからない、という事も「あるある」では無いでしょうか?

SEOや広告、WebサイトのCRO(コンバージョンレート・オプティマイズ)等、様々な努力の積み重ねで、やっとの思いで、バスケット投入まで持ち込んだ顧客を、そんな小さな「躓き」で失うとしたら、これ程悲しい事はありません。

既に顧客が購入の意思表示をしている、バスケット以降だからこそ、できれば100%の顧客に購入完了まで至って欲しいものです。努力を無駄にしない為にも「機会損失の削減」は、最も重要なテーマなのです。

次回に続きます

今回は、チャット設置の目的、有人チャットの重要性とチャットボットの限界などについて書かせて頂きました。次回は成果を上げる為のCTAやPDCA手法など、具体的な戦術面のお話を書きたいと思います。


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