見出し画像

【読書感想文】コンテクストデザイン(渡邉康太郎著/Takram)

本を読み終わってしばらくすると、その本から何を学んだのか、何が書いてあったのかを思い出せなくなることはままある。読んだはずなのに何も思い出せず、吸収が悪いのか記憶力がないのかななんて不安になる。

僕にとってはむしろそういうことの方が多いけど、この「コンテクストデザイン」を読み終わってから数ヶ月、僕の中にはこの本からもらったインスピレーションやその像がはっきり残っている。むしろ毎日このことを考えて生活していたようにも思える。それはなぜか。「コンテクストデザイン」は、職業上のデザイナーだけのものではなく、生活者に寄り添うデザインの在り方だから、というのが僕の解釈である。誰もが過ごすなんてことがない日々の中にも創造が埋もれていて、その行いがデザインに昇華されうるのだ。これには勇気づけられた。

そもそも「コンテクストデザイン」とはこのように定義されている。

コンテクストデザインとは、それに触れた一人ひとりからそれぞれの「ものがたり」が生まれるような「ものづくり」の取り組みや現象を指す。換言するならば、読み手の主体的な関わりと多義的な解釈が表出することを、書き手が意図した創作活動だ。(p.12)

「ものがたり」が生まれる「ものづくり」。本の中でも例として挙げられている映画や短歌、詩などがわかりやすい。それらには一人ひとりの解釈の余地があり、その解釈には多様性がある。

考えたいのは、「作品のように語られる」デザインは可能か、ということだ。映画や短歌や小説は、それに触れた人によってさまざまに語られるし、また作品を語ること自体がそもそも可能だ。(中略)描かれていない風景に思いを馳せるデザイン。人がそれぞれ自らの解釈を持ち、語り、伝え継ぐデザイン。いやむしろ語りそのものを中心に据え、あくまでその補助線を引くための役割を担うデザイン。(p.14)

そしてヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」という概念を引用し、“ものづくり”の対象を広げていく。

ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys 1921-1986)はすべての人間は芸術家であるとした。ここでの芸術とは、いわゆる建築、舞踏、音楽、詩、絵画などに限定されるものではなく、拡張された芸術概念で、教育や社会運動なども含む。ボイスは意識的な活動であれば、それが日常茶飯事であっても家事であっても芸術なのであって、そういった行為の積み重ねによって誰もが社会を彫刻しているし、より良い社会を彫刻せねばならないとした。(p.36)
あらゆる社会的活動は本質的に作品と呼ぶことができる。なぜならば、それは他者に影響を与える鑑賞・解釈・創作の一連を成しえるのだから。たとえば私たちは、友人の悩みに耳を傾けることができる。寒い夜、これから帰る家族のためにあらかじめ湯を沸かしておくことができる。(p.36)

渡邉さんが「これから帰る家族のためにあらかじめ湯を沸かしておくことができる」と言ったように、仕事であっても生活であっても善良で意図的・意識的な行為があるのだとしたら、それもデザインに含められるのだ。

---

デザインを解説しているWikipediaには、『広義で使われるようになったデザインは「意味の転用」である』と解説があり、こちらもなるほどと思った。

日本では図案・意匠などと訳されて、単に表面を飾り立てることによって美しくみせる装飾(デコレーション)と解されるような社会的風潮もあったが、最近では語源の意味が広く理解・認識されつつある。
形態に現れないものを対象にその計画、行動指針を探ることも含まれ、企業広告などの就職に関するキャリアデザイン、生活デザイン等がこれにあたる。ただし、これは意味の転用でありデザイン本分を指すものではない。(Wikipedia「デザイン」より

---

「コンテクストデザイン」には、それに触れた人々をデザインや芸術活動に仕向ける効果がある。ここが素晴らしいところだと思う。創作活動がもたらす没頭や意識的に過ごす時間は、人間が生きるためには必要なものだ。(坂口恭平さんが「いのっちの電話」でみんなに“作ること”をアドバイスしているのは、創造が人間にとって大切なものだと感じさせてくれる一つの例だと思う。)

この本を読んでからカレンダーのマス目ごとに種が蒔かれたみたいに、日々あらゆることがデザインや芸術活動につながっているということを意識するようになった。たとえば街中を観察する目。それを写真に収める行為。家事のひとつひとつや、人間や動物や虫や植物など、あらゆる生き物に気遣う気持ち。そのひとつひとつを地球や社会にとってより良くなる選択をしていくこと。

このほか、「欠如」「余白」「不完全」「中空」というキーワードを挙げながらコンテクストデザインの方法について解説があったが、都度読み返したい内容でした。

▼オレンジがおしゃれな装丁

画像1


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?