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北陸をつなぐもの【旅行記】福井周遊 vol.4 2022.09

さて福井方面へ向けて引き続き鉄旅を続けることとする。乗車するのは北陸本線の521系2両にて運行される普通福井行きである。かつて北陸本線は国鉄型車両の活躍地で、急行型から通勤列車へ格下げされ改造によりやや不格好な姿となった国鉄車両も北陸ならではの風景として親しまれていたものだが、やはり経年劣化には逆らえず、北陸本線の三セク移管に伴う521系の新造で姿を消した。521系はJRとなってから新たに設計・製造された交直流電車の一つで、通勤型交直流車がJR化後に新造された例は他にJR東の常磐線程度で数少ない例である。交直流車は製造コストも高い上、運行・整備ともに現場での扱いにも苦労する車両であり、それだけに新規設計・導入も憚られるのだろうが、この区間に関しては特に解決策もないからか新型車両が導入され北陸地域の近代化に貢献することとなった。

521系J09編成 225系後期型の顔である

敦賀駅を出発して間もなく、列車は北陸トンネル手前にてデッドセクションを通過し、直流電化から交流電化区間へと進入する。最新型車両なので車内灯こそ消えないものの、換気のために稼働していたであろう空調装置の音がピタリと鳴り止むのがわかった。かつてこのデッドセクションは滋賀県内に位置していたが、新快速の敦賀乗り入れに伴い、ここへ移設された。関西から北陸へと向かう上で避けては通れない交流電化の通過儀礼を無事済ませると、いよいよ列車は長大な北陸トンネルへと突入し、本格的に北陸地域へと入っていくこととなる。

北陸トンネルは全長約13kmほどで、通過するだけでも10分ほどかかる。かつては険しい山を乗り越える旧線があったのだが、北陸トンネル開通と同時に廃止された。その長さゆえに、過去には列車火災発生時における対応にも苦慮した過去がある。

北陸トンネルを抜けてまもなく、列車は南今庄駅に到着する。トンネル内部の冷気に晒され、冷え切った車体に外部の温かい空気が触れたことで、車両外部に結露が発生し、車窓ははっきりと見えなくなっていた。しかしそれでも反対方向の線路の道床が明らかに茶色く、バラストが土砂に埋もれていることは確認できた。そして明らかに斜面は表面が削れており、斜面と線路の間には度々重機が留め置かれている光景を見れば、本格的な復旧とは程遠い状況にあることは明白であった。

バラストに土砂が混入している

ここ南今庄駅周辺は2022年8月の豪雨にて土砂が流入し、1週間近く運休を余儀なくされた。ちょうどお盆の時期であったということもあり、北陸方面への帰省需要を多く抱えていたであろう北陸特急の各列車はすべて運休となり、北陸新幹線経由での迂回を余儀なくされた。そして、相当量の土砂が流入したらしいにも関わらず、わずか1週間という短期間で復活を果たしたのは、この路線が北陸地域の主要な移動手段としての重責を担っていたからに他ならない。

仮復旧という状況であった

ここ数年の間、北陸地域では自然災害により交通インフラの機能が麻痺し、物流、人流が途絶えるという事態が散見された。2018年の福井豪雪と呼ばれる大雪では、北陸本線だけでなく高速道路、沿線の国道、生活道路でさえも通行が困難となり、生活に多大な影響をもたらした。そんな中、唯一運行を継続できたのは、金沢から東京を結ぶ北陸新幹線であった。2023年には北陸新幹線の敦賀延伸が計画されているが、北陸トンネルのような在来線としては高水準な規格をすでに持っている在来線を新幹線で代替することの必要性を疑問視する声もある。

北陸新幹線の高架橋と交差する

ただ、新幹線は在来線よりもはるかに高規格であり、かつ豪雪にも耐えうる最新設備を備えていて、実際耐え抜いた実績があることをふまえると、それだけでも北陸新幹線建設の意義は十分あるのかもしれない。そう考えながら車窓を眺めていると、いつの間にか福井平野に出ており、遠く並走する北陸新幹線の高架橋が在来線に近づき始まると間も無く福井駅へと到着した。

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