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【生産性のモノサシ】 成長論 (7)

駆け出しマネジャーの成長論、7 つの挑戦課題を「科学」する
中原淳、2021 (増補版)

※ 私なりの理解を章ごとに要約しました。 【付録】コーナーに関連した知識や考察を追加しました。また、引用文中の「※」は私の解釈です。

第4章 成果をあげるため、何をなすべきか
(その3)

挑戦課題―4 多様な人材活用

年長者: 

  • まずはリスペクトする(相手を立てる): 経験とはその人の人生そのものだから、その人生をリスペクトする。

  • そのうえで役割として接する: 「マネジャーという立場上、言わざるをえないので、言わせていただきますね」と前置きしたうえで、言うべきことは言う。この場面で逃げてはいけない。逃げると、職場全体が経験の檻に閉じ込められてしまう。

  • 年長者がやたらと「経験」という言葉を持ち出すのは、経験優位を絶対化しておけば、先に生まれた特権が覆されないからだ。しかし本当に「現役が先輩を追い抜くことがない」ならば、人類はもちろん、あらゆる生き物に進化は生じない。経験の檻の中で退化するだけだ。

  • 最終手段: 最悪の場合、つまり年長者の横暴が止まない場合、職場のパワーバランスを利用する。職場のマジョリティ(普通は若手)を味方につけてのさばる年長者を封じ込める。 

【付録】 コルブの経験学習サイクルを、本書の建て付けに沿って解釈しなおすと、このようになるのではないでしょうか。仕事力の源泉は「挑戦 ➡ 経験 ➡ 省察 ➡ 概念化」を経て獲得される「身体化された知識」です。上司や先輩は、目標咀嚼によって部下の挑戦を誘い出し、対話を通じて部下の省察を助ける。「経験」は学習サイクルの大切な要素ではありますが、経験=知恵ではない。ここを私達も年長者も勘違いしないよう心がける必要があります。

パート・派遣社員:

  •  契約上、① 仕事の範囲が決まっている、② 昇進、賞与などのインセンティブを提供できない、などの制約がある。先のタイプ分けで云うと「粛々さん」を意図して雇っている状態に近くなる。だからといって、人材育成の定石「目標咀嚼 ➡ アクション ➡ リフレクション」が無力になるわけではない。挑戦を通じた育成よりは、モチベーション・アップを通じた生産性向上に軸足が移動するので、それに応じて目標咀嚼とリフレクションを工夫する。

  • 目標咀嚼: 仕事の全体像と目標を示して、担当業務の意味、貢献に納得してもらう。

  • リフレクション: インセンティブに制約がある分、目配り・気配りの励行が一層大切になる。日々の声がけ、感謝を示すための、ちょっとした差し入れなど。目に見えるポーズ(姿勢)として示す。 

中途採用(含む、外国人): 

「中途採用者は即戦力」という思い込みが観察力を鈍らせる。中途採用者といえども新しい職場では学び直しが必要。これを支援する。 

  • 境界を探る: できること、できないこと。知っていること、知らないこと。所属組織に対して誤解していること、正しく理解していること。これらを探る。職場も本人も「即戦力の呪縛」から抜け出す。勝手に過剰な期待をしない。本人が知らない、できないと言いやすい環境をつくる。

  • 学び直し: 調査結果によると前職と現職の職種的連続性と1年後の業績には統計的に有意な差はない。なぜか? 経験は「学び直し」の障害にもなる「諸刃(もろは)の剣」からだ。いかに経験を重ねても「学び直し」次第で経験が益にも害にもなる。

  • 相手の人生をリスペクトする: 失敗する中途採用社員は前職の経験にしがみつく。だからといって、その経験を否定してはいけない。年長者への対応と同じ。経験は人生だから、その人生をリスペクトする。

  • そのうえで、行動に焦点を当てたフィードバック: 中途採用社員が前職での経験や慣習にしがみついているような場合、その経験を否定するのではなく、変えて欲しい行動を具体的に伝える。「変えなければならない」のは、前職で培った行動のうち、「今の状況に合わない行動」だから、そこに焦点を絞る。

  • 職場への溶け込み: 中途採用社員は新卒採用と違って、職場の序列に割り込んでくる。割り込んできた中途採用者員と、そういう人をあえて採用した上司に対して、職場の皆は「お手並み拝見」という冷ややかなモードで眺めがちになる。それを感じて、上司が中途採用社員をマンツーマンで世話すると、職場の雰囲気はさらに悪化する。マネジャーは早いうちから、職場の同僚に世話役を頼む、職場全体のランチに誘うなど、職場への溶け込みに気配りすることが大切だ。

  • 外国人社員: 基本は中途採用と同じで「境界見極め」と「学び直し」 

  • ただし、以心伝心や阿吽の呼吸に期待できないので、言葉(対話)で明瞭にミュニケーションする。

  • もちろん互いの文化へのリスペクトを忘れずに。異文化をリスペクトし関心を持つ職場では、外国人社員の定着率が向上するという研究がある。経験や文化を否定したり貶めたりすることは、相手の人生を否定したり貶めたりすることにつながる(※ いきつくと人格否定につながり、ハラスメントにつながる)。

共通して大切なことは職場の観察: 生活をともにしながらじっくり観察することを参与観察(文化人類学の用語)という。これが大切。未知の社会に入ったつもりで職場を観察し、職場を駆動するさまざまな人間関係や、人間の性質を学んで、それをもとに働きかけを工夫する。

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