見出し画像

京大ロー未修1年前期の授業紹介と入学までに準備しておくべきこと


財産法の基礎1

①授業の形式と内容

 民法の総則と物権・担保物権を扱います。事前に課題が与えられ、授業ではソクラテスメソッドにより先生が学生に質問して課題の問いを答えていく形式で進行します。担当される先生により内容は変わりますが、私が授業を受けたときは、総則は基礎知識の解説のあとに短~中程度の長さの事例を用いた正誤問題や穴埋め問題が出題され、物権担保物権でも基礎知識の解説のあとに1~2行の短い質問文が付されており、これらを教科書や判例集を使って答えを考えていくことが主な予習の内容でした。
 授業中の問答がどの程度細いかは先生によります。私のときは、物権担保物権では定義の確認や設問の答えと理由、判例の要旨などを確認的に答える程度で、間違った答えを言ってしまっても正解に誘導してくれるような問いを出してくれました。おそらく来年度は私の時と先生が変わると思われますので、形式的なことはこの程度に留めておきます。
 一方、総則は全授業の中で最も厳しいものになりました(恐らく来年度も私の時と同じ先生です)。事例を用いた正誤問題は、単に○×を答えれば良いのではなく、その理由として問題になる民法上の権利は何か、根拠条文、法律要件とそれらの文言の定義などを適切な順序で解答しないといけません。法的三段論法に則り事例に即した法律論を組み立てるうえではこのような論理構成をすることはむしろ通常であり、法的に事例を分析して条文を適用し問題を解決するというプロセスを理解するためにも非常に重要かつ超基礎的な内容なのですが、今まで法律を学んだことが無い人はもちろん、他大ロー既修合格者であっても厳密な論理的説明を要求されるので、中途半端にそれっぽいキーワードを並べるだけでは延々と厳しい問答が続くことになるでしょう。
 とはいえ、担当された先生は非常に教育熱心で、授業や配布する教材には様々な教育的配慮が盛り込まれています。正誤問題も、条文を当てはめれば簡単に解ける問題のほか、重要判例や旧司法試験の短答式試験の問題と類似する練られた事例を問答で深く議論することで、単純な暗記ではなく民法の原理的な理解を深めることを通して膨大な民法の知識を”忘れても必ず思い出せるようにする”ためのエッセンスが詰まったものになっています。穴埋め問題は時間的な制約で授業で直接扱うことが次第に少なくなっていきますが、全くヒントの無い正誤問題と異なり適切な思考プロセスで法的な問題を解決するためのお手本として文章が考えられているので、期末試験等で事例問題を解く際の答案の参考としても活用することが出来ます。ただし、非常に緻密かつ網羅的な内容であり、およそ実際の試験で未修の学生が書けるレベルの文章ではないので、丸暗記して答案でコピペしようとは考えない方が良いです。あくまで法的な思考に沿った文章を書く際の参考例として活用しましょう。

②使用教材

教科書としては、総則がストゥディア民法1総則、物権担保物権は安永先生の講義物権担保物権法がそれぞれ指定されました。先生により教科書が変わるので入学前の書類などで確認しておくべきですが、これでなくても好きな教科書を使用して大丈夫です。現に、民法の基礎を使ってる人が多かったと思います。参考書としては総則は山本敬三先生の民法講義1総則、佐久間毅先生の民法の基礎1総則、物権担保物権は佐久間先生の民法の基礎2物権、松岡久和先生の物権・担保物権、道垣内弘人先生の担保物権あたりが挙げられると思います。
 実際にどの程度これらを参照したかについて、まず総則は民法講義1総則は予習課題の解答を考えるうえで必須でした。こちらは改正に対応していないうえに重厚で、民法の基礎がある今ではあまり手に取られることも少ないと思われますが、授業で扱う問題意識の大元になっており授業内容の多く(場合によっては課題の答えそのもの)が記載されており、通読は困難でも参照することは多くなるでしょう。また、ストゥディアは情報量だけでは授業に全く足りておらず辞書的な用途には向きませんが、民法の問題を考えるうえで必要な思考方法(先生の言うところのスキーム)を習得する上では必須といってよく、知識を使うための学習をするためには最適な教材だと考えています。ちなみに、山敬先生曰くこれ完璧にすれば司法試験くらい余裕だそうです。私も(問題演習ちゃんとすれば)兼ね同意見ですね。
 このほか、択一六法が予習では大活躍しました。条文とその趣旨、過去に司法試験で出題された論点に関する簡易な解説が付されており、予習で求められる情報を集めるのに有用だったことに加え、元から充分な情報量なうえに書き込むことで情報の一元化にも役立ちます。民法に限らず、法律は条文から全て始まりますので、適用される具体的な場面や条文相互の関係を把握する上で同書は非常に重宝します。下手な基本書を読むよりこれを徹底的に使う方が効率的でしょう。ただ、当然試験では通常の六法を使用するので、ヒントが無くても自力で条文を引けるよう、択一六法だけでデイリーやポケ六を使わないといったことが無いようにしましょう。
 物権担保物権に関しては、どうも安永が合わなかったので日評ベーシックシリーズ(通称NBS)物権法と担保物権法を使用しました。薄い上に非常に分かりやすく、授業で扱うことも大抵は書いてあったので、サブ教材に上記の教科書か参考書を各一冊用意しておけばこれだけで充分乗り切れました。今だとストゥディア担保物権があるので、物権だけNBSでいいかもしれません。
 ここで、佐久間先生の民法の基礎(総則・物権)については、多くの人が利用しており分かりやすいのでおすすめですが、あくまで私個人の経験では上記のように総則は民法講義の方が必要な情報が多く、物権も基本的にNBSの情報量で充分で民法の基礎までは必須ではなかったので、これがないとやっていけないということはないのではないでしょうか。ストゥディア等の入門書で理解のコアになる部分を押さえ、それ以上はいっそ辞書的に情報量が多い本を使うといったスタイルでも大丈夫だと思います。

③事前準備と注意点等

・授業の準備
 指定教材に関する事前準備としては、まずはストゥディアを何回も読み込んでおきましょう。何も準備しないと確実に詰みます。物権もとりあえずNBSを読み込むことでいいと思いますが、まずは総則から着手するのをおすすめします。民法全体の入門書として道垣内先生のリーガルベイシスが指定されるかもしれませんが、ストゥディア優先かなと思います。いい本なんですけどね。

・授業外で必要な準備学習について
 次に、これ以外の学習について。いろいろと書きましたが、民法に限らずロースクールの授業を活用するにも生き残っていくにも絶対必要なのは問題演習です。特に、解答例付きの論文問題集は必ず使用してください。というのも、ロースクールの成績は僅かな平常点を除き期末試験一発で決まりますが、実際に答案に書けないことは評価の仕様がありません。更に、法律問題の答案は法的三段論法をはじめ守るべき記述のルールや作法が多く、これに沿わない答案はそれだけで低い評価がつけられかねません。にもかかわらずロースクールでは基本的に答案の書き方の指導は行われず(というか制度上出来ない)、仮に先生に「答案の書き方を教えてください」と質問に行ってもまず答えてはくれないでしょう。色々と根深い理由があるのですがひとまず置いておくとして、こればかりは自力でなんとかするしかありません。答案を書いたり問題を解く練習を充分に行わず基本書の読み込みだけの学習になってしまうことが未修者が授業についていけなかったりリタイアする最たる原因であり、また、予習や授業内容もそうした法的思考に基づき知識をアウトプットできることが前提になっているので、既に法律の試験を何度も経験してたり予備校の入門講座で一通り学んでいるような事情が無い限り、教科書を読み込む前に問題演習を徹底的にやっておくのが喫緊の課題といっていいと思います。

・教材と具体的な使用方法
 まず予備校の論文講座をとるのが最も手っ取り早いです。私もアガルートの重要問題習得講座の問題集(通称重問)を使用していましたが、網羅性が高いうえに授業や期末試験と問題意識が共通するところが多く、全く同じような問題が出題されることもあるので最適だと思います。もちろん、伊藤塾などを利用している人もおり、自分に合ったものを選択するといいでしょう。
 次に、金銭的な理由などで予備校の利用が難しい場合は市販の論文問題集を利用しましょう。おすすめはアガルートの実況論文講義か伊藤塾の通称新赤本です。辰己のえんしゅう本でもいいと思います。スタンダード100は細かい論点も掲載され便利ですが未修には少々オーバースペックに思われ、どうしても気になる論点だけ確認する程度にした方が良いかと思います。なお2回生以降では司法試験の過去問が掲載されているので活躍してくれました。
 いずれにしても重要なのは答案例が付属していることであり、解説だけの演習書は今の段階では控えるべきです。これは問題集の使い方が理由で、上記の問題集は最初から自力で全て解くのではなく、まず答えを見るなどして答案を丸ごと覚えてしまい、どのような事例で何を書くべきかを機械的にインプットしてしまいます。資格試験対策としてはまだしも法律学習として答案丸暗記は邪道といえばそうなのですが、まだ基礎知識が定着していない段階で最初から自力で考えるのは無理がありますし、先述のように普段の授業からして答案の作法と同様の思考が要求されるにもかかわらず授業で訓練する機会はありません。また、教科書や授業で扱ったことを全て答案に書くことは不可能であり、それらを短くまとめ、あるいは事例に即して取捨選択する必要がありますが、それを限られた時間内に重い予習と並行して自力で行うのは困難を極めます。まして法律学習を始めて日が浅い学生が行ったとしても適切なものが出来上がることは一部の天才を除きまずないでしょう。そのため、最終的には知識を修正するとして、まずはテンプレートを押さえるという趣旨で問題集の答案丸暗記が必要だと考えています。
 予備校の答案は不正確でローの試験で書くと減点されたり酷い目に遭うのではないかと不安になり基本書べったりになってしまう(私もそうでした)こともあると思いますが、そもそもその不正確な答案すら書けないのが大半です。また最近は未修の人でも既に予備校で基礎講座を修了していたり問題集を何周もしている人、中には他大ロー既習に合格している人が増えており、猶更こうした問題演習をしていないと差をつけられてしまうと思われます。
 私が使用教材に入門書を多く推挙しているのもこうした事情からで、問題集を解くために最低限の知識を素早くインプットするのに薄めの入門書は最適です。特にストゥディア民法は監修の山本先生が言葉を尽くして行間を埋め、暗黙の了解を言語化してくれているので、細かいことは問題集で機械的に覚えつつ深く理解すべき事は同書で対処することができ、重厚な基本書を読み込まなくても上手にスタートダッシュをきることができると思います。もちろん、ロースクールではこれ以上の学習も必要なので、あくまでそうした発展的な学習の土台を作り、今後の学習をスムーズに進めるための準備としてのものですので注意してください。

家族法の基礎

①授業の形式

 この授業では親族法と相続法を扱います。基本的に講義形式で、時折判例について事実の概要と決定要旨について問答が行われます。担当の先生が頻繁に変わるようなので、年により授業の進行方法などが変わりやすいようです。もっとも、授業内容自体は法科大学院のカリキュラムに沿ったものでしょうし、当然どの先生も家族法をご専門にされているので神経質にならなくてもいいでしょう。先生にもよりますが、他の授業が大変なことから問答や課題の負担もそこまで重くはなく、特に問題が配布されない限り教科書と扱う判例を読み込んで準備すれば充分だと思います。
 扱う範囲のうち、親族法分野では代理など一部総則とも関連する重要論点もあり、相乗効果が望めるでしょう。また、相続法は物権と関連する重要論点が多いほか司法試験短答で頻出の分野であり、特に細かい相続分の計算などは独学では難しいところですので授業が活躍してくれると思います。ただ、計算については授業課題や期末試験でも出題されますが、普段の穏やかな授業の雰囲気に反して本格的な問題だったりするので油断してると痛い目を見ることになり注意が必要です。

②使用教材


 指定教科書は、リーガルクエスト親族相続法で、参考書に潮見先生の詳解相続法が挙げられていました。ただ、リークエはだいたい毎年指定教科書になっていると思いますが、それ以外は先生によりかなり変わってくると思うので注意が必要です。
 実際に参照したものについては、周囲はリークエを真面目に読んでいる人が多かったと思いますが、私はNBS家族法を主に使用し、択一六法を必要に応じて参照していました。判例集は短答対策も兼ねて百選で良いと思いますが、ごく短くなら択一六法にも載っています。
 NBS家族法は薄めの入門書ですが、非常に分かりやすく情報量は授業にも十分対応できる分量だったと思いますし、リークエをじっくり読んでる時間がなかったのもあり結局これと択一六法と後述の教材だけで期末を乗り切ることになりました。ただ、調べものには向かず、相続分の計算問題も典型的なものにとどめてある一方でリークエは本格的な相続分の計算問題が掲載されているほか、授業でもリークエを参照するのが前提なこともあるので、NBSだけで大丈夫とまでは断言できないのでご注意ください。

③事前準備と注意点等

 これといった事前準備は必要なく、NBS家族法を読み込むほか余裕があれば司法試験短答の過去問で家族法分野のものを解くと良いと思います。
 家族法分野は単品で司法試験に出題されることがほぼなく、問題集でもあまり扱われていない分野なので答案丸暗記のような戦術がとりにくいという難点があります。また、問題集に掲載されている問題も複合問題がメインで初学者段階では難しすぎて参考にならないことも多いです。そのため、基礎的な知識を基に六法を自力で引き使いこなすというオーソドックスな対処法が学習の中心になると思われます。入学後に期末試験の過去問を早めに入手して論文形式の試験に慣れておきましょう。
 私は趣旨規範ハンドブックを論点の確認用とまとめノート代わりに書き込みをして対応しましたが、これが期末試験対策には有効だったと思います。そもそも家族法分野は論点らしい論点が目立たないので、メリハリをつけた学習が難しく、のっぺりと知識を概観するような学習になってしまいがちでした。また、短答過去問を使うのも良いですが、授業対策としては細かすぎるうえに事例問題そのものではないので計算問題の練習くらいしか有効に活用するのは難しかったです。この点、趣旨規範ハンドブックは家族法分野でも市販の論証集より網羅性が高く、論文問題として出題しやすいものをピックアップして掲載しているため、ある程度はメリハリをつけた学習に繋がったと思います。これに加え、趣旨規範掲載の論点に関する判例判例集から探し、事実を読んで自力で論証と同様の解答を書けるかチェックすると事例問題を解く感覚を掴めるのでおすすめです。特に家族法判例百選は珍しく解説も分かりやすく有益なものが多いように思われ、疑似的な問題演習の解説代わりにする他にもNBS等の教科書を補完するのにも役に立ってくれると思います。期末試験でも相続分計算問題の他は重要判例を基にした事例が出題されることが多いと思われますので、趣旨規範などの論証集で実際に書くべきことを確認しつつ判例にもあたっておくとよいでしょう。

刑法の基礎1

①授業の形式と内容

 前期は刑法のうち総論部分を扱います。基本的に講義形式で進みますが、先生により簡単な問答が行われます。中には座席移動する場合もあるようです。授業資料も担当する先生によりだいぶ違うようで、私が履修したときは主要な学説と大量の判例をまとめたレジュメが配布されました。講義はこれをもとに進みますが、学説を深掘りするようなものではなく、判例の解説をとおして基礎的な概念を説明し、議論がある論点を検討する範囲で学説の話が出てきます。情報量は多いですが、ある問題に対して考え得る複数の解決方法を提示したうえで、自分の立つ考え方にマッチしたものを選択して検討して欲しいという意図だと思われ、特定の考えを押し付けることのない学生の自由度が高い授業だったと思います。
 他の先生の場合は全く違うタイプのレジュメが配布され、講義内容も基礎理論を越えて刑事政策に近い議論や憲法との隣接領域で生じている先端的な問題を解説される先生もいらっしゃいます。

②使用教材

・指定教材等
 私が履修した時は基本刑法が指定されていましたが、別の先生だと山口厚先生の刑法(通称青本)や、島伸一ほか『たのしい刑法総論』を指定するようです。同書は入門書+α的な内容で章末に1~3題の事例問題が設けられており、弁護士が作成した答案例が付されています。余談ですが、同書で多用されるイラストはこちらを指定される先生が描かれています。アガルートの工藤北斗先生いわく「カワイさは120点」とのこと。
 判例集は、判例ラクティス刑法総論(通称判プラ)か、判例刑法総論が指定されると思います。このうち判例刑法総論は掲載数こそ最大クラスですが一個あたりの記述が短いほか判旨のみの記述で事例が載っていないものもありますし、解説もついていません。一方、判例ラクティス刑法総論は判旨と解説のほか要約された事実と原審の判断まで書かれています。解説も、あくまでその判例を正確に理解することに徹しており、本論と関係ない学説の話が延々と続くようなことはありません。判例集としては百選などと比べ物にならないほど非常にクオリティが高く、1年次のみならず既修合流後のより詳細な2年次の授業でも大活躍しました。
 未修1年次では本格的な基本書はあまり使うこともない(というか使うべきではない)と思いますが、井田良先生の講義刑法学総論か山口厚先生の刑法総論あたりがメジャーかと思います。

・授業に役立ったもの
 授業を受けるにあたってはアガルートの1問1答刑法と、刑法総論判例50! (START UP)が特に有用でした。
 授業を一切無視するなら別論、刑法では初学者向けの授業でも様々な学説や見解が紹介されるので結局答案ではどれを書けばいいのかが分からなくなりやすく、ある程度見切りをつけないと復習量も膨大になってしまいます。酷い時には用語一つ取ってもいくつも定義があったり要件が違ったり、ある概念の体系的な位置付けが説により異なるため検討順序が入れ替わり答案構成からして違ってくるなど、インプットどころではないという初学者泣かせなポイントがいくつもあります。この点、1問1答は判例通説に沿って用語の定義や構成要件をまとめてくれており、迷ったときはひとまずこれを書けば大丈夫という一つの解答を提示してくれるので試験対策として大変有用でした。諸概念の体系的な位置付けに関しても、司法試験の傾向を踏まえて無難な理解に基づき答案で再現できる程度の理由付けとともに記載されており、答案付きの論文問題集と併用し、考慮すべきことと実際に書くべきことを峻別したうえで同書に乗っかっておけば試験で酷い点数をつけられることもないであろうと思います。また、シンプルな問いに端的に答えるという記述形式なので論証集より手軽に重要事項の確認と復習ができ大変有用でした。やもすれば、これと問題集だけで期末は乗り切れるんじゃないでしょうか。
 次に、判例ラクティス刑法総論は大変な良書ですが、完全初学者や刑法が苦手な人が使いこなすのは難しいように思えるので、そうした人には刑法総論判例50!をおすすめします。同書は要約した事例と判旨の概要と解説というオーソドックスな形式ですが、重要判例を厳選してどの教科書にも登場するような最低限押さえるべき判例が揃っている点で後述の入門書との相性も良いほか、判例を読み解く上で特に重要ポイントを示してくれるため、初歩的な理解の確認の他にも刑法判例を読む際に結局何が言いたいのか分からないという事態を回避するためにも有用です。授業では多くの判例を扱うものの、深く理解して試験で使いこなせるようにすべき判例は全体から見ればごく僅かですので、学習すべき優先順位を把握するうえでも同書のように題材を厳選した教材を活用することが負担を軽減する助けになってくれると思います。

③事前準備と注意点等

・授業準備としての予備校講座受講の重要性
 刑法も他科目と同様に問題集で答案の書き方と論証を押さえておくべきであり、可能であれば極力予備校の入門講座と論文対策講座を受講しておくべきだと思います。特に論文対策は入学前に全て終わらせられなくても授業と並行して受講してもいいでしょう。刑法の総論部分は特に様々な学説が扱われ混乱しやすいうえに判例・裁判例も結論がまちまちなことが多く、何かしら軸になる判断基準が備わってないと自分なりの理論を考えるどころか情報の取捨選択すら困難になります。他科目にも言えることですが、刑法は特に座学と実際の試験で要求されるものとの乖離が酷く大きいので、授業と問題を解くための勉強はもはや完全に別物だと考えてください。もちろん、授業を有効活用することが出来れば試験対策としても大きな強みになりますし、私自身もその恩恵にあずかることがありましたが、授業に食らいつき論証の修正などを通して自分の考えを洗練していくには、既に処理手順を押さえて事例問題を自力で解けるようになっていることが大前提です。むしろ、授業を最大限活用するためにも、インプットの時点で試験攻略を前提とした予備校の入門講座等で基礎を固めておく必要性が特に高いと思います。重要なのは、予備校だけ・授業だけが唯一の正解だと決めつけて極端な勉強に走らないことです。

・自力で準備する場合の使用教材等
 予備校の講座を利用しない場合、市販の問題集で対処することになりますが、これもアガルートの実況論文講義か伊藤塾の新赤本で自分に合うものを選ぶとよいでしょう。特に実況論文講義の刑法は全科目の中でも指折りのクオリティで、主要論点以外は省略されがちな個々の構成要件を先出しにした丁寧な答案構成を用いており、初学者への配慮が行き届いたものとなっています。
 型はいいから論点処理や答案の書き方を解説して欲しいというなら徹底チェック刑法か十河先生の刑法事例演習がありますが、特に後者は一通り全範囲を勉強してからでないと活用するのは難しいと思います。徹底チェック刑法は、一番最初の章で答案の書き方の解説と簡易な答案例が付いていますが、これ以降の各論点の解説に関しては記述が非常に端的なので初学者にとっては少々分かりにくいこともあるように思え、事前学習ではなく授業と並行して知識確認や復習用のまとめノート作りに使うとよいのではないでしょうか。
 入門講義に代わる入門書としてはストゥディア刑法総論NBS刑法総論、井田良先生の入門刑法学が薄くて分かりやすいと思いますが、大半の人が使うであろう基本刑法が既に分かりやすいと感じるようなら最初からこれでいけば経済的だろうと思います。ただ、刑法がアレルギー起こすくらい本当に苦手という場合は上記の入門書でも厳しいと思うので、和田俊憲先生の『どこでも刑法#総論』、DAILY法学選書『ピンポイント刑法』が非常に分かりやすく手帳サイズで抵抗感なく読み進められるのでおすすめです。
 刑法のように条文数が少ない科目ほど解釈の幅が広く様々な理解の仕方があり、こうした科目を攻略するうえで論点以前の超基礎的な内容を盤石にしておくことが最優先だと思いますので、苦手意識を持っている人ほど超入門的なやさしい書籍を何回も読み返して問題演習を繰り返すことを強く推奨します。まかり間違っても現段階で体系書や悩みどころ等に手を広げないようにしましょう。急がなくても2回生以降で嫌というほど読み込むことになりますので...。

刑事訴訟法の基礎

①授業の形式と内容

 前期では刑事訴訟法の基礎的な部分について捜査法から証拠法、裁判と上訴手続まで全分野を一通り学習します。論点を深掘りするのではなく、手続の仕組みや基本的な原則を浅く広く取り扱い、本格的な論点の考察は2年次になってから始まります。
 授業は基本的に講義形式で、課題をもとに問答が行われることもあるようですが、私が履修したときは問答は行われず最後まで講義でした。例年担当される先生はリーガルクエス刑事訴訟法の執筆者のお一人であり、特に証拠法は非常に分かりやすい授業をされます。ただ、第一印象としては真面目で厳しそうな先生にみえ、講義が淡々と進むことも相まって近寄りがたい雰囲気がありますが、実際は非常に優しく質問対応も学生が納得するまでしっかり付き合ってくださるので、疑問があれば積極的にお話を伺いに行くことをおすすめします。授業も学生が具体的なイメージを持ちやすいよう配慮してくれることもあり、中でも伝聞証拠に関する精神異常を推認させる証言の例を古今多種多様な基本書を渉猟して集約した支離滅裂発言集を配布してくれたのは(滅多に見られない配布時のドヤ顔を含め)伝説となっています。
 レジュメは手続きの概要と根拠条文、関連判例などが詳細にまとめられたものとなっており、資料としてパワーポイントの図表や補足説明を加えたものが配布され、授業後には復習課題や練習問題が出題されました。このうち、練習問題は2年次で指定教材となるケースブック刑訴の基礎的な設問がもとになっており、翌週に答案例が公開されます。簡単な事例をもとに初歩的な知識を確認したり問題を解く練習にもなるため非常に便利で、毎週しっかりストックしておくと試験直前の復習が楽になりました。一方、レジュメは詳細ですが講義を前提とした情報の羅列的な側面が否めず、これだけを読んでも何が何だか全く分からないので、授業時以外だと使いどころが少々難しいように思います。ある程度勉強が進んで知識量が増えた段階での整理には有効ではないでしょうか。

②使用教材

・指定教材等
 教科書はリーガルクエス刑事訴訟法が指定される他、入学前に三井酒巻『入門刑事手続法』を授業までに必ず読んでおくよう指示されました。
 リークエ刑訴は捜査法と証拠法が特に分かりやすく情報量も授業には十分なのもあって使用してる人が多かったと思います。もっとも、初学者には少々難しいうえに一部極めて記述が難解なところもあり、今では基本刑事訴訟法Ⅱを利用する人が大半なのではないでしょうか。
 また、入門刑事手続法は刑訴の全体的な仕組みと手続きの流れを丁寧に解説している良書ではありますが、基礎概念を分かりやすく説明するといった入門書的なものではないと思います(著者のお一人である酒巻先生は同書を書き上げるのに大変な苦労をされたと過去に語られていますが分からんものは分からんのです...)。同様の趣旨の本であれば基本刑事訴訟法Ⅰ手続理解編があります。平易な表現なうえにケースが多様され具体的なイメージを掴みやすく、予備試験の短答過去問(特に保釈・逮捕勾留の期間制限等)と同様の問題が解説されていることもあって、Ⅱ論点理解編とあわせて教科書はこの2冊で済ませるのも一つの手でしょう。

・授業で役立ったもの
 刑法と同様にアガルートの1問1答が役立ちました。刑法とは異なり学説の乱立のため何が正解か不明といったことは未修の刑訴ではあまり起こりませんが、前期だけで刑訴全範囲を通しで学習するので情報量が非常に多くなるという問題がありますし、判例がどれも長くて全て読み返している暇などありませんので、何かしらまとめておかないと復習が非常に困難になります。この点、同書は用語の定義や判例の要点が端的にまとまっており情報量の割に非常に薄くて周回しやすいほか、膨大な情報の中から必ず押さえるべき重要知識をピックアップした上で問答形式により簡単に定着度の確認もできることから、復習の効率化にも役立ちます。なお、同様のことは市販の論証集でも可能だと思いますので自分に合った方を使うと良いでしょうが、刑訴全範囲を浅く広く学ぶことから論点の深い理解より用語の定義や根拠条文を確実に押さえることの優先順位が高いため、どちらかといえば1問1答の方が使い勝手が良いかもしれません。

 次に、判例集は特に指定されていないので何を使うかは自由ですが、正直何を使うべきか困りものです。百選を使う人が多かったと思いますが、初学者には少々難しいうえに解説の差も懸念されますし、川出先生の判例講座は単著かつ非常に分かりやすいのですが、未修にはいかんせん情報過多で活用が難しいように思います。私は一応川出先生の判例講座を参照していましたが、授業レジュメに重要判例の事案と判旨が記載されているのもあって同書は必須ではないのかなと感じました。この点、基本刑訴Ⅱはケースが重要判例を簡略化したものであり、その論点が出題された場合の判旨に沿った事案処理を学べることもあって、極めて簡易ながら判例学習をしたのと同様の学習効果を得ることができると思われます。刑訴は事実関係の分析にも当てはめ時の事実の扱い方を学ぶにも判例学習が極めて重要ですので、判例集を一切使わないのはさすがにまずいと思うものの、ひとまずそれは2年次にまわし、1年次は基本刑訴Ⅱでしのぐという手もありかと思います。可能ならば何かしらの判例集を手元に置き、必要に応じて詳細な事実関係を調べられるようにしておくとよいでしょう。

③事前準備と注意点等

・予備校を利用した授業の準備
 可能であれば予備校の基礎講座と論文対策講座を受講しておくとよいと思います。事前に入門刑事手続法の通読が指定されていたり基本刑訴が手続理解と論点理解にわかれているように、刑事訴訟法では刑事手続きの流れと全体像を把握することが論点の正確な理解のために重要な一方、事例問題では手続の知識そのものではなく、その理解を前提に具体的な事例に即して所定の手続が適切に行われているか・ある措置が法定の手続の許容範囲か否かの検討することがが論点として問われます。そして、他科目と同様に事例問題を解くにあたっては検討手順の型がある一方で、講義では論文試験にはまず出ないような細かい事柄まで扱うほか、事例問題の事例処理まで扱う訳ではないため、どうしても問題演習は自力で進めるほかありません。そのため、前もって試験対策を念頭に置いたインプットと、答案例付きの問題集を用いた学習が必要な点は他科目と同様です。私はアガルートの重問刑訴を利用していましたが、こちらは1年次はもちろん、授業内容を加筆修正して集約すれば2年次でも充分期末試験対策に活躍してくれました。

・自力で準備する場合の使用教材等
 予備校を利用しない場合、他科目と同様に市販の問題集では実況論文講義や新赤本がおすすめです。このほか、峰ひろみ先生の『刑事訴訟法演習』や粟田知穂先生の『エクササイズ刑事訴訟法』は捜査法から証拠法まで横断的に論点を織り交ぜた司法試験に近い事例を基に事実評価を訓練するのに大変有用ですが、初学者には少々難しいと思われます。もっとも、峰先生の刑訴演習は冒頭にある事例問題の解き方の解説は他の問題集では暗黙の了解とされているようなことを言語化して説明してくれており、これから問題演習を進める人には非常に有益な内容だと思われますので、ここだけでも図書館でコピーするなどしておくとよいでしょう。特に、問題提起の重要性や論点とは何なのかという論考は刑訴に限らず全ての科目にも役立つと思います。

 次に、入門書については特にこだわりや強い苦手意識が無い限り基本刑訴Ⅱから読み始めて良いと思います。この他では、池田・笹倉『ストゥディア刑事訴訟法』、緑大輔『刑事訴訟法入門』、小木曽綾『条文で学ぶ刑事訴訟法』あたりがおすすめです。
 ストゥディア刑訴は薄めですが内容は理論的な説明をしっかりとしており意外と高度な内容もあります。他科目のように初学者でもさくさく読み始められる入門書というよりは、基本書等の行間を埋めるための副読本として使うのがいいように思います。特に苦手意識のある人が他のストゥディアと同じような感覚で手に取ると少々ギャップに驚くかもしれません。
 刑訴入門について、基本刑訴の執筆者でもある緑先生による単著の入門書とされていますが、どちらかというと初学者向けの論点解説書に近いと思います。まず事例が提示され、平野説や団藤説などの古典典的な議論を紹介したうえで歴史的な議論の推移を踏まえた解説が平易な言葉でなされています。具体的な手続の細かい解説はあまりなく、論点を理解するのに必要な限りで問題となる条文や制度を取り上げ、それらの趣旨からどのような解釈論が導かれるかの解説が主たる内容となっていますので、初学者でも重要論点を深く正確に理解することに役立つでしょう。
 小木曽先生の条文で学ぶ刑訴は、事例処理や概念の説明ではなく、条文の理解そのものに重きを置いている特徴があります。具体的には、主要な論点に関して、まず手続の根拠となる条文や関連規定を提示したうえで、その趣旨や文言の定義、争点となった判例ではどのような理解が示されたか、といった解説がされています。しかもストゥディア程度の薄さなので通読も容易であり、入門レベルに必要な限度に圧縮したコンメンタールみたいなものといえばよいでしょうか。そもそも刑訴法は条文が非常に読みにくいうえに索引がろくに機能していないのに関連規定が各所に散らばっているため、とにかく六法を引くのが大変なのですが、同書は判例はもとより考え得る条文解釈のパターンを提示してくれることに加え、ある論点を検討するのに必要な条文を網羅的に提示してくれるため、条文の解釈のみならず操作を適切にできるようにするためにも有益でした。捜査法も素晴らしいですが、伝聞証拠のうち弾劾証拠に関しては判例の事例を微妙にずらした細かい条文解釈についても言及されており、しかもストゥディアよりも分かりやすい解説だったのもあって入門レベルにとどまらず基本刑訴や重問を解き進めるうえでも参考になるところが大きかった一冊です。

人権の基礎理論

①授業の形式と内容

 憲法のうち、統治分野を除く人権分野から主要な権利を取り上げて基礎的な解説を行うほか、違憲審査基準論も扱います。
 授業の形式は、講義と問答の両方が行われます。民法のような法律構成の選択や事実の法的分析を延々と詰めていくようなものではなく、あくまで基礎的な諸概念の理解を問うとともに、判例をちゃんと読んでいるかの確認が主な内容としているのでしょうが、そもそも憲法は議論の抽象度が高く難解な上に学説も様々あり、判例も初学者には極めて読みにくく全文が異常に長いなどの事情もあって、初めて本格的に憲法を学ぶ人にはそうした基礎的な問答ですら相当な負担になると思います。完璧な予習は諦めて、いっそ先生と楽しくお話できればいいと割り切りましょう。
 例年憲法を担当される先生は非常に教育熱心な方で、難解な概念を極力噛み砕いて説明してくれるほか、自主勉強会も主催してくれるなど学生に様々な配慮をしてくれます。特に、理論的な事柄の説明が非常にわかりやすく、学生との問答で出て来たぼんやり断片的な話を法的な論理に沿って整理し、学生が適切に述べられるよう誘導してくれるので理解が捗ります。

②使用教材

・指定教材等
 教科書は特に限定はなく、佐藤幸治日本国憲法論』、毛利ほかリーガルクエスト『憲法Ⅱ人権』、新井ほか日評ベーシック(NBS)『憲法Ⅱ人権』などから任意のものを使うよう指示されます。判例集判例百選が主な教材として指定されるほか、松戸・初宿『憲法判例』や、憲法判例研究会編『判例ラクティス憲法』が挙げられています。

・その他
 百選だと事実の概要と判旨が短く解説も微妙なため、解説が充実している横大道ほか『憲法判例の射程』が人気だったほか、詳細な判決文にあたるために精読憲法判例[人権編]も使われていました。教科書としては安西ほか『憲法学読本』、伊藤・木下『基本憲法基本的人権』、答案の書き方に関する参考書として、玄唯真『読み解く合格思考憲法』がよく使われていたと思います。
 他科目ではアガルートの1問1答が有用でしたが、同シリーズの憲法判例の重要語句の穴埋め問題のような作りで、用語の定義や概念の端的な説明というようなものではないため未修の授業のお供としては少し使いにくく、情報の一元化はオーソドックスに論証集を利用するか、下記のように重問等の問題集を利用することで対応することになると思われます。
 上記の他にも様々な基本書があるので、メイン教材を何にするかは自分に合うものを選ぶことになるでしょう。ただ、未修1年の段階ではメインテキストはNBSやストゥディアにとどめ、適時判例教材を利用しながら問題演習を続けていくのが良いのではないかと思います。特に日本国憲法論に安易に手を出すのは避けましょう。

③事前準備と注意点等

・予備校を利用した授業の準備
 憲法人権も他科目と同様に予備校の入門講座や問題集を利用しておくことをおすすめします。先述のように、憲法は初学者には特に難解な科目であり、基本書を読んでも泥沼にはまるだけですので、ひとまず基礎的なことのインプットは予備校を利用した方が効率的でしょう。

 次に、問題集についてもアガルートや伊藤塾のものを受講するのがよいと思いますが、アガルート重問をめぐって少々議論があります。
 この講座は重要判例等を題材にして判例に沿った論証と処理をすることに重点が置かれていますが、いわば「判例判旨そのまま」の問題集になっています。そのため、司法試験との関係では三者間形式ともリーガルオピニオン形式とも問題形式が乖離しているほか、憲法という科目自体が単なる判例知識のインプットではなかなか過去問が解けるようにならないことも相まって使用を避ける人もいます。また、そうした特徴から他科目と異なり将来的に別の講座や教材を用いて単なる過去問演習以上の試験対策をする手間がかかることになろうかと思いますので、迂遠な学習を回避するためにも憲法は重問を使わず、より司法試験対策に直結する他の講座を使うのも一つでしょう。ちなみに、伊藤たける先生の憲法の流儀が非常に評判がよく、ローの友人もおおいに活用しているようです(私には受講経験が無いので、あくまで紹介に留めます)。

 一方で、判例の要点を正確に理解し判例どおりの事例処理ができるようにしておくこと自体は司法試験の形式以前に基礎学力の習得のうえで非常に重要です。未修クラスの期末試験との関係でも、司法試験とは異なり、あくまで授業を踏まえた重要判例の初歩的な理解を試す趣旨にとどまるところ、重問では授業で扱うような判例がそのままアウトプットの題材として採用されており、これを下地として講義内容を加筆修正すれば未修者に要求される学習水準は重問でも満たすことが可能とも考えられるでしょう。また、重問の強みとして、一定レベルまでの知識と典型論点の処理方法を迅速かつ網羅的に学習できる点が挙げられます。重問は問題集というより演習できる百選・事例付きの論証集であり、長大な判例から試験で必ず書くべきことを抽出して端的にまとめているので、その範囲では判例学習にかける時間を大幅に短縮可能です。特に前期は週2回の財産法の予習が膨大で憲法等の勉強が後手に回りがちなことから、重問を利用して人権分野全体にかかる論証知識と判例準拠の論点処理方法を速やかに習得し、最低限の労力で授業と期末試験の準備を終わらせて他科目に割く時間を捻出することができれば大きなアドバンテージになります。

 以上のように、重問憲法の持つ特徴も自分の学習方針や目的によって毒にも薬にもなると思いますので、いずれにしても自分がどのような方向での学習が合っているかで採否を決定することになるでしょう。

・自力で準備する場合の使用教材
 自力で準備する場合、市販の問題集と入門書で対処することになるのは他と同様です。アガルートの実況論文講義は重問よりも完成度が高いという声もあるほか、伊藤塾の新赤本は掲載問題数が40問と比較的多く網羅性が高いことに加え答案作成のための解説が非常に充実しているので初学者にも扱いやすいと思います。いずれか自分に合うものを選ぶといいでしょう。
 次に入門書については、指定教材にもなっているNBS憲法人権のほか、ストゥディア憲法人権もわかりやすく非常におすすめです。憲法学読本も薄くて分かりやすいと思いますが、あくまで概説書のようなものであり最初の一冊としては端的過ぎて分かりにくいと思われますので、少し勉強が進んでからの知識確認や復習用に使うのが良いでしょう。

法律基礎科目演習

 基礎科目ではありませんが、通年を通して開講される少々特殊な必修科目なので、一応ここで紹介しようと思います。

①授業の形式と内容

 長文の事例が出題されて後日講評が行われます。1か月に1,2回くらいの頻度で開催され、通年で行われる実力テストのようなものですね。2年後期から行われる民事法文書作成という授業でも同様ですが、事実関係の整理や法的な問題点の指摘、攻撃防御構造に沿った法律論の組み立てといった法曹の仕事内容を少し先取りして学生に体験してもらうような授業ですので、あくまで日々の授業で学習することが実際に法的紛争を解決するためどのように活かされてるかをイメージすることに主眼が置かれているように思います。
 成績評価は合否のみで判定され、全7回中4回以上の合格で単位取得となります。もっとも、学習の目安として起案ごとに一応の評価はつきます。
 余談ですが、履修者で司法試験の過去問を解いたり実際に答案を作成することを「起案」と表現する人がいますが、これは当授業では実務で法律文書を作成することを想定しているので答案ではなく起案というべきということで、この呼称が多用されることに起因するように思われます。

②使用教材

特に指定教材等はありません。

③事前準備と注意点等

 前期に行われる試験は特にそうですが、十分に知識も備わっていない状態で実務的なことをきかれるので誰もまともなことは書けないでしょう。浮足立っても仕方がないですし、これまで紹介したような問題集を普段から解いておく以上の特別な対策も不要だと思います。もっとも、最近の未修でも隠れ既修のような人が増えており、特に事例問題を解いた経験が無い人は早めに問題演習を始めておくことをおすすめします。

 前期の授業については以上です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?