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蛙化現象に物申す。【掌編小説】

こんにちは、アズマヒキガエルです。

僕は東京産まれ東京育ち、立派な関東のカエルさ。寒い季節も終わって、夏になって夜は暖かいから活動しているんだ。

それで今日はね、人間たちに物申したい事が有るんだ。

先日八王子の公園の草むらを散歩してたら、人間のメス達が......

「最近彼氏とデートしてて彼がコンビニで飲み物買おうとしてたんだけどさ、彼財布の小銭ジャラジャラ言わせながら探してんの。もうほんと最悪だったわ。なんか生理的に彼の事嫌になっちゃった。」

「えー!最悪じゃん。蛙化現象ってやつじゃん。」

......って話をしていたんだ。

いやいや、待ってくれ。
確かにだ、好きなオスが目の前でそんな事してたら恥ずかしくて嫌に思うメスの人間も居るとは思う。人間もカエルも個性は様々だからね。それで嫌いになってしまうのも全然良いとは思うんだけど......。


カエルは関係ないだろぉ!?
なんだよ『蛙化現象』って!
さもカエルが醜い生き物の象徴みたいな言い方しやがって!許せねぇなおい!

カエルだって産まれてからめちゃくちゃ過酷な環境を生き抜いて、今でもいつ何事あって死ぬか分からない環境で強く生きてんだよ!アズマヒキガエルですらヤマカガシとかいう天敵が居るんだよ!

そんな強かに生きている僕たちを!そんな不名誉の極みみたいな現象の名前に入れやがって!

カエル界で「好みのメスの醜態を見てしまって嫌いになる事」に『猿化現象』って付けるぞ!


......落ち着こう。

あんまりストレスを溜めてしまうと脚が赤くなってしまうから、気をつけないとね。

『蛙化現象』っていうのにも何か由来があるはずだ。
何も無しにそんな名前にならないだろう。
少し調べてみよう......。

なになに?
「カエルの王様」っていう話が元になっている説が有るらしい。良いタイトルじゃないか。どうやら人間の王女とカエルの王子の物語みたいだね。内容を簡単に見てみようかな。


......。


やっぱりカエルを醜いものとして扱ってんじゃねぇか!なんだ醜いカエルの王様って!印象最悪過ぎるだろ!
しかも王女と約束を交わして、カエルサイドはそれをちゃんと守ったのに王女サイドは嘘をつきやがった!そりゃあカエルサイドも「約束を守れ」と付いてくるに決まってる!

挙句の果てにこの王女、カエルを壁に投げつけてやがる!!

なんて酷い!人間のその大きな身体と力と暴力性を遺憾無く発揮してカエルになんて仕打ちをするんだ!

しかもなんだ?そのカエルの魔法が溶けてイケメン王子になるや否や好きになりやがって!
お前1回そいつの事壁に投げつけたからな!?

さっきまで壁に投げつける程嫌がってたくせに「王子様だったから結婚します!」と掌返すなんて、なんて都合のいい奴なんだ!どうせまたカエルになってしまったら拒否反応を起こすくせに!


はぁ...。
ストレスで疲れてきた。

落ち着こう。

そういえば、北海道の方へ旅立っていったアズマヒキガエル達はどうしているんだろうか。
前に聞いた時は『エゾヒキガエル』だって持て囃されてたけど、今も元気にやってるかな?
北海道は寒いから、凍結しないように気をつけて生きていてほしいね。

......話を戻そうか。

『蛙化現象』だなんて不名誉極まりない名前を聞いてしまってついついカッとなってしまったよ。カエルを醜いものの象徴としている事にもね。カエルだって人間と同じく自分に合った進化をしていった結果こうなったっていうのに。

でも、良いんだ。
醜いと言われ、嫌われてもカエル達は生きていくし、そんな僕達が好きな人間も居る。だから良いんだ。

あぁ、そんな話をしていたら夜が開けて来たな。
そろそろ何処か日陰に隠れるとするよ。日差しを浴びすぎたら乾燥しすぎちゃうからね。
夏はほんと暑いから、みんなも気をつけてね。

それじゃ、おやすみ。

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