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第一話 りんごは赤色ではない!?


真斗は大学を卒業後、居酒屋でアルバイトをして生計を立てていた。

そんなある日、真斗は居酒屋の店主と喧嘩をし、その店を辞めることになった。

真斗は、店主が普段から女性従業員にセクハラ、男性従業員にはパワハラをしていることを噂で聞いたことがあった。

真斗は、店の片付けをしているときに店主のセクハラの現場を目撃し、店主をとがめたことで喧嘩となったのだ。

真斗は都内の有名私立大学出身で、頭もすごくキレるが、大学3年生の頃に心の病が原因で、就職活動が上手くできず、アルバイト生活を余儀なくされていたのである。

真斗は居酒屋をクビになったことで、職を失い、次のアルバイトを探さなくてはならない。そんな中、真斗は求人サイトで『探偵のアルバイト募集』というものをみつけた。

仕事内容は都内にある松元探偵事務所の探偵業務の補助等であった。

真斗は探偵という職業に興味はなかったが、時給も2000円でかなりよく、また補助なので楽かもしれないと思い応募した。

その後、面接の日時が決まり、面接当日に真斗は松元事務所を訪れた。

事務所では、30代くらいの細身の女性が出迎えてくれた。

『先生をお呼びしますので、少々そこのソファーでお待ち下さい。』と言い、その女性は奥の部屋に入っていった。

真斗は、テーブルをはさみ向い合うソファーの一方に腰をかけあたりを見回した。

事務所内はすみずみまで塵一つないくらいに清掃されており、高そうな花瓶に、花びらが白く中心部分が黄色の花が一本添えられていた。

真斗が事務所を見回していると、奥の部屋から先ほどの女性と一緒に、50代くらいの男性が出てきた。見た目は少し小太りであり、白と黒が混ざった髪を生やしている。

その男は、真斗が座る席の前にくると
『こんにちは。お忙しい中、来てくれてありがとう。私はこの事務所の松元です。』と言い、真斗に名刺を渡し、向かいのソファーに着席した。

『探偵に興味があって応募してくれたのかね。』ときかれ、真斗はとっさに『はい。』と答えてしまった。

『そうか。なら、推理小説はよく読むのかね。』

『そんな読まないです。』

『なら、探偵のどういうところに興味をもったのかね。』

『猫とか、探してみたくて。』

真斗は、不意の質問に慌て適当に答えてしまった。

『なかなか面白い。推理小説に興味があるという人は多いが、猫探しに興味があると言った人は初めてだよ。』

松元は嬉しそうに、次の質問をした。

『りんごは何色かね。』

真斗は、当然赤色だろうと思ったが、そんな単純なわけがないと思った。

しかし、赤色以外思いつかず、どう答えようか迷ったときに、さっきの花が目に入り

『白です。』と答えてしまった。

『なぜ?』

松元は食いつき気味に真斗に問いつめる。

真斗はとりあえず、理由を答えなければと思い、頭をフル回転させた。

そして、屁理屈ではあるが、次のように答えた。

『たしかに、表面は赤い皮で覆われています。しかし、皮を剥くと中身は白っぽいです。私たちは、リンゴは赤色だと昔から思っているので、皮の色である赤を先に思いうかべてしまいますが、本体は白っぽいと思います。実際リンゴジュースは赤色ではないですし。』

真斗はおそらく不採用だろうと思った。しかし、その予想とは逆の返答がきた。

『合格だ。君をぜひ探偵として採用したい。明日から探偵として働いてほしい。』

真斗は、現状をよく理解できなかったが、とりあえず採用された嬉しさから『はい。よろしくお願いします。』と答えた。

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