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夜咄 八夜「暇つぶし」


『言った言葉に流した涙と失った時は戻らない』男女間の別れの際の四方山話しの戯言である。

 見過ごして諦めるのか、それとも腹の虫が治らないから慰謝料でもと多少に拘らず訴訟も辞さずに決着つけるとかだが厄介な話だ。何れにしろ言葉と涙と時は戻らないのだ。楽しい思いをしたのはお互い様で週刊誌や世間の噂やら暇つぶしの話題のネタになるのが精々なのだ。話し合いで折り合えばそれに越した事はないが、そうは収まらないのが浅はかな世間の道理。
最悪は刃傷沙汰に縺れ込んでしまっては、「もってのほかの菊の花」で食べたら済んでしまうが、そうもいかないらしい。

 恋愛や離婚の後始末ほど無粋で厄介な話しはない。主張ばかりが大手を振って、突っ張るものだから世相の事とは言え「嗚呼、恐ろしや」である。
 そんな修羅場など無縁の年齢だから気楽なはずが何とも言い難い虚しさが襲ってきてゾクっと身震いがするのだ。

「207番の患者さまぁ〜、診察室へお入り下さぁ〜い」
 すると突然に扉が開き可愛い女の子が出て来て呼ぶのだ。私は週刊誌を戻して診察室へと向かうのである。

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