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母と娘の大腸がん在宅日記②~母が逝った後、残ったのは兄妹3人の絆だった~

前回のお話し

母の腹痛から始まった大腸がんの闘病。
手術、癒着による再手術、再発、がん腫瘍マーカーの上昇による在宅医療の選択という流れを書いてきました。

ここからは兄妹のLINEでのやり取りを含めながら話を進めていきます。
「死」が目の前にある家族の心の葛藤や痛みコントロールの薬の話など、共有・共感していただけたらいいな、と思っています。


在宅医療の始まり

「がんは痛みがでる人とでない人がいる」と医師は言いました。母の場合は痛みがでるタイプだったようで、痛みのコントロールが大変でした。薬でおさまる時とおさまらない時があり、病状が進むにつれて薬が効かなくなっていきます。

がんの痛みコントロールは段階があり、最初はカロナールやロキソニンなど誰もがっ知っている弱い薬からスタートします。そして徐々に強くなり、最後はモルヒネという麻薬を使うのです。麻薬にも段階はあるのですが、いずれも医療用にのみ医師の処方で使用が認めてられています。


母の場合はモルヒネに行く前に亡くなってしまいましたが、モルヒネ手前の麻薬を使った時にやっぱり体への負担が他の薬と比べて強いと感じました。痛みを取る代わりに、だるさや重苦しさなどを受け入れなければならない、そんな感じで飲むにしても飲まないにしてもどっちも見ていて辛かったのを思いだします。

また、叔父もがんで亡くなったのですが、叔父の場合は痛みはなく痒みでした。痛みと痒み、どっちがいいんでしょうね。どっちも辛いですよね。もちろん痛みでも痒みでもない症状の人もいるだろうと思いますが、母の場合は痛みだったので痛みコントロールの話はたくさん出てきます。

母の基本の痛み止めはカロナールでしたが、人によってはロキソニンの場合もあるようです。1日8錠が最大許容量。最初の頃は痛みが起きたら2錠飲んで間に合っていたのですが、徐々に痛みが長引くようになり、いつしか毎日8錠を飲むようになりました。2錠を6時間おきに飲むのですが、だんだん6時間持たなくなってきて痛みを抱えながら次の薬の時間が来るのを祈るように待つことも増えていきました。そして飲んでも効かない時は先生に電話して指示をもらう、これが基本パターンになっていくのでした。



往診(在宅医療)開始


母が在宅医療を決めたことで、兄妹3人で全力で母をサポートしようと心が一つになりました。同居している私が中心になって身の回りの世話をする、妹は必要な時にサポートする、兄は薬や精神面でのサポートをする、という役割分担が決まり、3人のグループラインでのやり取り開始です。


初めての往診は8月7日。亡くなったのは10月28日。
「痛みをコントロールしていって、徐々に強い薬になるから最後はだんだん寝る時間が長くなって最後の2、3ヶ月はずっと眠りっぱなしになります。一般的にはね。だから本人は苦しくないですよ」って説明を受けましたが、母の場合は痛みとの闘いが最後まで続いて、2か月半というあっという間の出来事でした。生き急いだかのような、そんなスピード感でした。


それではLINEでのやり取りを含めて話に入っていきたいと思います。


登場人物:


兄/圭一(東京在住)
私/よしこ
妹/かなこ(となり町在住)
父は、3年前に他界しています。


8/7

よしこ:
今日は初めての往診でした。先生に聞かれて、お母さんは「悪い話も余命も聞きたくない」と意思表示をしたのでその話以外は直接お母さんとやり取りをして聞きたくない話は私と話す、ということになりました。マックスで週1回先生、週3回看護師の計週4回訪問できるそうです。お母さんは今は元気そうなのでとりあえずは「隔週1回、先生の診察からスタート」ということになりました。24時間365日いつでも電話OKなのでお母さんも私も安心です。

それから、先生に今後病気が進んだ時の意向を聞かれて、人工呼吸器と胃ろうについて考えておくように言われました。がんのことばっかり考えていたし、人工呼吸器とか胃ろうが必要になるなんて全く意識になかったから、お母さんも私も答えられなかった。先生には「何回心変わりしてもいいですからね。今の時点での意向を考えててね」と言われました。

 お母さんは元々延命は望んでないんだよね。でも先生の説明がやってもいいかな、とつい思ってしまうような話だったからお母さんはやらないとは言えなかった。やりますって言ったり、やめようかなと言ってみたり、やっぱり心は揺れ動くよね。私も何も言えなかった。

 あと帰りに玄関の外で「市立病院からお母さんのデータを全部もらいました」 と言って血液検査の結果を見せられました。「普通ならもう死んでますよ。この数値なら普通なら死んでます。これでご飯が食べれて自分のことを自分でできているのは信じられません。いつ何があってもおかしくないし、しばらくずっとこのまま かもしれないし、それは分かりません」と言われました。いつ何があるかわからない状況だから、考えられる薬を全部置き薬にすることになりました。

 一応報告はこんな感じかな。

かなこ:
現実を突きつけられた感じでかなりショック。でも先生が驚くようにお母さんご飯食べて普通に生活ができてる。テルミーのおかげかミヤリサンのおかげかありがとうのおかげかわからないけど、お姉ちゃんが頑張って食事を作ってくれてるからとりあえず奇跡を起こしてるんだよね。もっと長く奇跡が続くのを信じる。

※テルミー:イトーテルミー温熱療法 
ミヤリサン:大腸がんになってから腸に良いと聞き飲み始めたサプリ
※ありがとう:10万回言うと奇蹟が起きると言われている。家族全員で実践


圭一:
兄も奇跡が1日でも長く続くように祈ってます。もうすでに奇跡の領域に入っているわけだからね。今までの選択が良かったということだろうし奇跡は人為的なものを超えているわけだからこれからも人為的な介入は最小限にして今の流れを理解してバックアップしていければいいと思う。残された期間はお母さん、よしこ、かなこ、私それぞれにとってそれぞれ大切な時間になる。こういうこと書いてると泣けてくるけど強い気持ちで祈り続けよう。

 

よしこ:
お兄ちゃんが来たら人工呼吸器と胃ろうの話を出してお母さんと一緒に考えようと思う。先生は若い人やこれからの人生まだ生きたい人が選択する場合の肯定的な話をしたから、お母さんもやった方がいいのかなと思って、つい「やります」って言ってしまった。でも延命は望んでないと最初に言ってたから、先生に「人工呼吸器と胃ろうは延命処置ですよ」と言われてお母さんこんがらがっちゃいました。



8/15

よしこ
お母さん毎日「お父さん、まだ私を呼ばないでよ」って言ってるんだって。だから私も「お父さん、まだお母さんを呼んじゃだめだよ」って言った。

圭一、かなこ
私もお父さんにまだお母さんを呼ばないでね、って言っとく。祈ろう。


よしこ:
置き薬の説明書です。

副作用気になるよね。使わないで済んで欲しいね。


圭一:
副作用はどの薬にもあるものだし、人によって現れ方が違うからたくさんあうように見えるけど、とりあえずは最低の容量で処方されているみたいだからそんなに心配しなくて良いと思うよ。

8/20

よしこ:
8/17に採血した結果を報告したいと昨日先生から連絡がありました。でも、正直一人で聞きたくないからお兄ちゃんが来る29日まで待って欲しいと伝えました。先生は家庭の事情でしょうがないと思ってくれているみたいだけど、薬の説明を来週まで待つのも先生的には遅いようなんだよね。あと「娘さんが聞きたくないのはわかるけど、必ず訪れるものだからしっかり覚悟して臨んでくださいね。娘さんがしっかりしなくちゃないんだからね」と言われました。これは電話での話しだったんだけど、お母さんの目の前で内容が分かる会話はできないから「はい、はい」しか言えなかったのが、先生からすると本当に深刻さを分かってんのか、って思ったのかもしれない。


8/22


よしこ:
昨日13時30分頃お腹が痛くてカロナール2錠飲んでも効かなかったから14時30分に在宅クリニックに電話しました。カロナール1錠の指示があり、効いても効かなくても連絡くださいと言われました。結果効いたので良かった。


でも今日の夜からまた痛みあり。昨夜20時30分 今日3時45分 9時30分 18時40分にカロナール2錠ずつ飲みました。それでも痛みは取れず今、在宅クリニックに電話しました。カロナールは1日8錠までなんだけど、今飲んだので8錠目なんだよね。これまで8錠を飲んだことないんだ。それでも痛みが取れなかったんだよ。先生には2錠追加で飲んで1時間で経過連絡してくださいと言われました。


 先生に「表面は大丈夫なように見えるけど中身は進んでるのだから急に悪くなることも十分に考えられます。だからきちんと痛みコントロールを学んで早めに対応して、いかに痛みを取っていくか痛くないように過ごしてもらうかが重要だよ」と言われた。

今回先生は私に検査結果を報告しようとしたのに、来週お兄ちゃんが帰ってくる時まで待って欲しいとお願いしたものだから、一応は受理してくれたけど「本来ならそんな悠長なこと言ってられないんだよ」っていうニュアンスで言われたんです。「痛みは我慢するものじゃなく痛くないようにコントロールしていかないと」って。

私とお母さん的にはコントロールしてる気分だったんだけど先生からすると我慢している時点でダメなんだね。でもさ、お母さん 痛くなければ飲みたがらないし。そりゃ、これだけの薬を飲んでるんだから1錠でも減らしたいのは分かるよね。

あ、今お母さんカロナール効いてきたって言ってる。まずは良かった。
「現在は往診計画を隔週1回にしているけど週4回訪問になるのだってすぐ来る場合もあるんだからね」とも言ってました。カロナールだけでは効かなくなったら本当はトラマールを使いたいんだって。


でもトラマールは市立病院に通っていた時に副作用で吐いているのを伝えてあるから、どうするか先生とお母さんの間で決めなくちゃない。トラマールの次は麻薬になりますって言われた。麻薬に入る前にトラマール使いたいみたい。麻薬は強いんだろうね。きちんと使えば痛みは最後まで完全に取れますからと先生は言ってました。お兄ちゃんが来る前に一度クリニックに行って聞いてきた方がいいのかな。


 8/23

よしこ:
おはよう。ゆうべは痛みが収まってから、とりあえず落ち着いているみたい。お母さん、今日、数か月ぶりに友達の家に行くんだ。誰かと会うっていうのはいいよね。その間に在宅クリニックに電話してみようと思います。お母さんトラマール飲むの怖いと思うんだよね。前の時、かなりきつい吐き方 だったから。吐くとすごく体力消耗するから、また飲んで吐くことでガクンと症状とか体力が落ちる可能性があり、お母さんもそこが怖いんだと思う。


 食事はかろうじて何かしらの主食を少々とあとは果物がメイン。おかずは食べたいものがなくなったのでほぼ食べない 。お通じはちゃんとある状況です。


かなこ:
おはよう。とりあえず痛みが治まったようで良かった。今日一日お母さんの体調が落ち着いていますように。痛くありませんように。

圭一:
今LINE見ました。大変だったね。とりあえずは痛みが治って良かったです。心臓発作でなくなった人を解剖すると何でこれで発作が起きるんだろうって思うほどピンクで綺麗で何にも問題ない人と、何で今まで動いてたんだろうと思うほど血管がボロボロになってる人がいるという話を聞いたことがある。

 つまり生死は機能障害だけが問題じゃなく、何か別の要因も働いてるということ。お母さんの場合はそれが肝臓で(肝臓にも転移している)先生からすればここまで元気でいられるのが不思議って見えているんじゃないかな。そういう意味で、もう奇跡の領域にいるので覚悟は必要だと思うよ。でもね、兄は今の状況をこう解釈してもいる。「お母さんの命はもう神様が預かっている。なんで預かってくれているかと言うと私たち兄妹に生きていることの素晴らしさ、ありがたさと、生きるためには覚悟も必要なんだよっていうメッセージを伝えるためだと」


お母さんに限らず生死はいつも隣り合わせでそれが真実で死をしっかりと見つめて生きることが人を美しく優しく正しくする。だからお母さんの死を恐れるんじゃなく今生きていることに感謝しましょう。トラマールの吐き気はまたあるかもしれないけど、もう一度トライする価値はあると思う。もちろんお母さん次第だけど。ダメなら麻薬に行くだろうね。でも量も何段階もあるからまだまだ大丈夫だと思う。

よしこ:
何回もひどいところ見てるから覚悟はしてる。ただその時が来たら超悲しいよね。一緒に24時間いると少しでも楽に、少しでも長くってまだまだ自立してる姿を見ると思っちゃうもんね。


それから、在宅クリニックに電話しました。やっぱり明日話を聞きに行くことになった。お兄ちゃんはお兄ちゃんで説明受けてもらうことにした。それまでの間に何かあったら困るもんね。人工呼吸器と胃ろうはお兄ちゃんが来たらお母さん含めみんなで話したいけど薬の痛みコントロールは指導してもらってくるよ。

8/24

この日の記録はないので詳細は覚えてないのですが、カロナールから始まって、モルヒネまでの薬の種類。舌下錠/シールタイプ/座薬と様々な薬の形態があるので、その取り扱い方。医師が考える薬と痛みの調整の基本ルール。
そのルールを知ることで、電話で薬の指示を出した時に家族がきちんと理解して投薬できるから。


また、定時服用とレスキューの使い分けの話もしていただきました。
癌の痛みコントロールに関する分かりやすいサイトを見つけたので興味のある方は見て下さい)


痛みのレベルの少し上を薬で抑えるのが基本なんだそうです。
今の痛み、これまでの経緯、使える薬、そこから割り出すわけですね。
24時間体制のため複数の先生が在籍していて、その日の当番の先生が往診にいらっしゃいます。院長先生が最終判断をするので、先生が帰った後、折り返しの電話で薬に関する決定事項の連絡をいただきます。新しい薬や追加の薬が必要になった場合、担当の調剤薬局さんが翌日薬を届けてくれるという流れでした。

また、夜間は主治医の先生をもう一人の先生が交代で担当していました。何度お世話になったことか。本当にありがたかったです。


8/25

よしこ:
今日は1日だるい感じ。元気がない。表情もさえない。日によるのは仕方ないね。昨日今日と1日のうちの2/3は眠ってる感じ。横になれば即寝る、そんな感じ。食欲は昨日結構食べたけど今日は果物少々で食指進まず。
痛みは分かりやすい けど、重苦しい、だるい、なんとなくこれから痛くなりそう、なんとなくこれから吐きそう、とかはカロナール飲んでも改善されないことが割とあるんだよね。本人は痛みとは認識してないけどベッドから離れがたいようです。報告でした。

 
圭一:
報告ありがとう。お母さんどうしてるかなって毎日思っているので状況が多少わかって気持ちが寄り添えるのでありがたいです。お父さんに「まだ呼んでだめだよ」って祈ります。

かなこ:
教えてくれてありがとう。明日の夕方顔見に行くね。お母さんの笑顔見れるといいな。私もお父さんにまだダメだよって祈ります。


よしこ:
2/3よりもトータル20時間ぐらい眠ってる。でも眠っている間はリラックスしているからいいんだろうね?こんなに眠っていいのかしらと気になるけど。

圭一:
少なくとも 痛みを感じてないだろうから。


かなこ:
痛くないのが一番だ。だって辛くない。

8/30

よしこ:
そういえば、昨日先生から薬のこと言われなかったって言ってたよね。
今後カロナールが効きにくくなったら「フェイントステープ0.5 」「アブストラル舌下錠100」「ナウゼリン座薬60」「アンペック座薬10」この4つを順番に使うと言われた。



圭一:
トラマールを飛ばして 麻薬ってことなんだね。了解。


よしこ:
今LINEするために調べて初めてこの薬たちが麻薬だって知った。カロナールからの飛躍が大きいね。トラマールがその間だったんだけど、お母さんはどうしても嫌だって言ったからね。



往診が始まった最初の1ヶ月はそんなに痛みが強くなかったためにラインのやり取りも頻繁ではありませんでしたが、病状が進み、痛みが強くなるにつれて3人のやり取りも多くなってきました。つづく






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