ロックの観念論と社会契約論のつながり


ロックの観念論

ホッブズと同じ社会契約論を論じた人なので、課題意識は省略します。

ロックは観念論から展開します。 ロックにとって観念とは「およそ人間が思考する時に知性の対象となるもの一切を表示する概念」と定義されています。

その範囲はかなり広く、心象(イメージ)、センスデータ(感覚)、知識、思考、存在や単一などの高度に一般的な概念まで含みます。

言い換えれば私たちの観念は私たちが世界を理解しようと努力する試みにおいて生まれるものです。

少し脇道に逸れますが、ロックが属するempiricism(経験主義)は語源を辿ると「努力し試みることのなかにおいて」という意味があります。上記の言い換えはそこから来ています。

さて、ロックは観念を2つに分類します。 単純観念と複雑観念です。

単純観念はそれ自体を定義することが困難です。私たちのコミュニケーションの中で、これ以上分割出来ない(言い換え出来ない)最小単位が単純観念です。 単純観念はある意味で公共的です。というのも、最小単位という性質によってコミュニケーションの基礎を作っているからです。

反対に複雑観念は、個々人の創造性に委ねられている単純観念の組み合わせです。組み合わせなので、複雑観念は分解することができます。

そして、ロックは観念は人格(パーソン)において成立すると主張します。 では、このパーソンは何なのかと言うと、「意識」と言い換えることができます。 ここで言う意識には以下の特徴があります。

・良心という言葉に語源的に近い
・規範的含みを持つ
・人格を同一性を担保する

具体例で言えば、「バリアフリー推進のために意識を高める」というような、規範的含みを持ち、かつそれが失敗したりうまくいかなかったりしたら責任を取るための人格の同一性を担保するのがパーソン=意識です。 そして、観念はパーソンにおいて成立します。

この観念論とパーソン論は、ロックの政治哲学にも大きな影響を与えています。 なぜなら、ロックは人間の知識や道徳の基礎を観念に求め、パーソンを自己意識や責任感を持つ主体として、社会契約の当事者とみなしたからです。

ロックの社会契約論

パーソン論を前置きとしてロックの社会契約論を追っていきます。

ロックは以下の2つを自然権とみなします。 ・自己保存(ただし他人の生命の保存と両立する範囲内) ・処罰権(自然権を犯した者を”私的に”罰する)

自然権とは、自然法に基づいて人間が持つ自然的な権利のことです。 自然法とは、神が創造した理性によって認識できる普遍的な道徳法則のことです。

ホッブズの自然権は自己保存の1つだけでした。ロックの考える自然権がホッブズより多いのは、ロックは新大陸や欧州各国の関係を念頭に社会契約論を考えていたからです。 また、ホッブズが無神論的に社会契約論を考えたのに対し、ロックの社会契約論は”神つき”で、神が創造した世界や自然法を尊重するように、という社会的抑制が効いているという想定です。

だから、ロックの考える自然状態では人々は緩やかに連合しており、争いがあまり起こらないとされています。 では、なぜ社会契約が必要なのかというと、所有権が絡むと人々は争ってしまうとロックは考えているからです。

ロックの所有権論は、個人は所有している身体とパーソンを労働を通じて、神によって創造された(誰のものでもない=コモンズ)世界に混ぜることにより、パーソンの範囲を拡大した結果、所有が可能となるというものです。

ただし、「ロック的但し書き」というものがあります。

・他人の保存のに役立つ分の資源を残す
・所有したものを浪費しない

この但し書きがあるとはいえ、所有の多寡はある程度出てきます。そこからあまり所有していない者は嫉妬に駆られて、沢山所有している者は欲望に駆られてロック的但し書きが守られなくなります。

その原因として貨幣をロックは挙げています。 まず貨幣の導入動機なのですが、「所有物を浪費してはいけない」という但し書きがあるとは言え、所有したいるものが摩耗・腐敗させてしまう可能性はあるからです。

この時に役立つのが貨幣です。貨幣は摩耗・腐敗に強く、また価値を保存出来る性質を持っています。これによって、「所有物を腐敗させてはならない」という但し書きが守られます。

とはいえ、貨幣によって無限に富が蓄積されるのは事実です。貨幣は数字なので物質的限界がないからです。これによって、上記の所有を巡る争いが生じます。

その結果、揉め事が起きるのですが毎回毎回私的に処罰権を行使するのはコストがかかります。 そこで、処罰権を特定の機構に移譲してプロセスを委任しよう、という内容で社会契約が生まれます。

社会契約とは、人民が自然状態から脱して、政府に一部の権力を移譲することで、自然権の保護を目的とした政治社会を形成することです。 しかし、この社会契約は、人民の同意に基づいて成立するものであり、政府は人民の信託によって権力を行使するものです。 したがって、政府が人民の自然権を侵害したり、人民の意思に反したりした場合、人民には政府に対して抵抗したり、革命したりする権利があります。 これらの権利は、自然権の一部であり、社会契約によって放棄されないものです。

このように、ロックの社会契約論は、政府の正当性や限界を明確に示すものであり、人民の自由や権利を擁護するものであると言えます。

参考文献

大澤真幸『社会学史』(講談社、2019年)
Bertland Russel 『History of Western Philosophy』(Routledge classics、2004年)
坂本達也『社会思想の歴史: マキアヴェリからロールズまで』(名古屋大学出版、2017年)
一ノ瀬正樹『英米哲学史講義』(筑摩書房、2016年)

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