地政学者マハンは地理以外も重視した

イントロダクション

こんにちは、こんばんは、おはようございます!Renta@マレーシアから国際関係論について考える人です!

今回はマハンの地政学理論が地理決定論的だという批判を擁護する試みです。


マハンは政府や国内政治も重視した

マハンだけでなく地政学全体になされる批判として、地理決定論であるということが言われます。正直、自由意志を重視するキリスト教がベースにある欧米だから、この批判がなされたところはあると思います。マハンの理論を地理決定論を見誤ると理論の活用性が落ちるので、地政学は地理決定論だという批判を、マハンの視点から擁護しておきます。

マハンは国家の命運を握る地理以外の要素として、人口・国民性・政治的構造を挙げています。これらは、地理によって影響されるところもありますが、すべてが地理で決まるとは言い切れません。

山間部より平野部に人口が集まりやすいので、人口は特に影響されるかもしれません。しかし、国民性は宗教や歴史によって決まる側面があります。また、政治的構造も同様です。
有力な理論としては、エマニュエル・トッドの家族型と国家のイデオロギーの関係の分析が挙げられます。

彼は、父親の権力が強い・財産が平等に分配される権威的かつ平等主義的な家族型を持つ国家に共産主義が広まったことを証明しました。確かに、共産主義では、レーニンやスターリンなどの圧倒的な指導者によって全人民の財産が分配されました。

その一方でマハンは、多様な国家同士がシーパワーを巡って対立する条件を描いています。

まず、各国は国民による産業の育成を推進します。また、その産業に必要なら領土拡張を推進します。もし、自国内に必要な産業がない場合は他国の貿易を行います。

また、政府は国民に統治上の正統性を支持してもらう必要があります。そしてそれは、海軍を維持できていること・海軍力の増力とそれに伴う国際情勢における権力の増大によって示されます。

といってもこのあたりの立論は、マハンが生きた時代を考慮する必要があります。マハンが活躍したのは19世紀末~20世紀前半なので、戦争による領土拡張そのものは違法ではありませんでした。そして、グローバル化が進んで経済的相互依存がかなり高い時代です(実はグローバル化や経済的相互依存は、第一次世界大戦によっていったん停滞・衰退し、第二次世界大戦以降また上昇する、という流れなのです)。そんな時代なので、自国の通商船を守るための海軍が、政府の威信の象徴となったのではないでしょうか。

その反面、マハンは、イギリスとアメリカにとっての根本的な問題は、代表的な政府が軍隊への支出を節約する傾向にあることを問題視していました。マハンは「海上権力史論」の第1章で、「民衆政府は、いかに必要であろうと、一般に軍事費に好意的ではない」と述べている。これはある意味当たり前かもしれません。というのも、平和な時代というのは軍隊が否定的にみられるものだからです。例えば、日露戦争中の日本では、軍人は街中で制服を着ていても気にされませんでした。むしろ、好意的に見られた可能性さえあります。しかし日露戦争が終わってしまうと、日本は領土に関わる戦争がしばらくなかったので、軍人は街中で制服を着ることを憚られるようになりました。平和な時代の軍隊は無用の長物だからです(本当はそんなことはないのですが)。

アメリカの成長と共にマハンの理論の適用範囲が広まった

マハンは「各人、各国家は、単独で進む力があるところまでが独立した存在であり、それ以上は独立した存在ではいられない」と述べています。逆に言えば、自国の力でいけるところまで力や領土を伸ばしたら、それ以上は他国と協力したり同盟したりしないといけない、ということです。

この発想は非常にシーパワー的です。ランドパワー重視のマッキンダー理論では、ハートランドを制した単独の国家が世界を制するというモチーフだからです。
マハンはどうせ同盟するなら、政治的・文化的な親和性があり、大きな利害の対立がなく、強い共通の利害が存在するので、英米は協調して行動する十分な理由があると考えました。
英米は時に「特別な関係」だと言われますが、ちょうどマハンが活躍した時期にそれが始まりました。マハンの考えはそのアメリカ側の事情を示していると思われます。

このあたりの事情は、現代では少し異なります。というのも、アメリカの国力が2つの世界大戦を経てかなり伸びて、イギリスを追い越したからです。2つの世界大戦の主戦場はヨーロッパで、アメリカは2つとも途中参戦で戦争特需で国内経済が盛り上がりました。それによって、アメリカは世界No.1国家に躍り出ることに成功します。アメリカのGDPは世界全体のGDPの25%の規模を誇り、世界の軍事費の合計の半分以上がアメリカの軍事費です。
マハンの言葉で言うならば、アメリカは単独の力で行ける範囲がかなり広くなったのです。

ジョージ・フリードマンによると、アメリカには5つの大戦略目標があります。それが以下です。

  1. 本土防衛

  2. カリブ海における覇権

  3. 北米における覇権

  4. 西半球における覇権

  5. 世界における覇権

マハンの時代のアメリカは西半球における覇権は持っていました。ルーズベルトの棍棒外交に代表されます。棍棒外交とは、アメリカの軍事力を背景にして、中南米に介入する外交を指します。例えば、パナマ運河の使用権を得るために、コロンビアからパナマ共和国を独立させました。そして、2つの世界大戦を経て5の段階へ成り上っていきます。

まとめ

まとめとして、マッキンダーとの比較を見ておきます。ポール・ケネディという政治学者が、マッキンダーとマハンを比較しています。

ケネディによると、マハンはシーパワーを独立変数としました。つまり、海軍の優位は経済的優位の源泉であり、英国が海洋を支配する限り、他国を凌駕する富がもたらされるということでした。それに対して、マッキンダーの理論は、シーパワーは重要性が低下する従属変数であるとしました。マッキンダーはそれを2つの命題の形で表現しました。1つ目が「経済力に根ざしたイギリスの海軍力は、より大きな資源とマンパワーを持つ他国が登場すると、もはや覇者であり続けることはできない」、2つ目が「シーパワーそのものが、ランドパワーとの関係で衰えていく」というものです。当初、イギリスは海軍力で優位に立っていたにもかかわらず、20世紀にわたって海軍力と経済力が衰退していったことから、ケネディは、予測の立場からマッキンダーの分析が正しいことが証明されたと結論づけました。

つまり、マハンは上り調子でシーパワーの先輩であるイギリスを見ているアメリカの視点で、マッキンダーは、一人勝ちだったナポレオン戦争後から徐々に覇権を失いつつあるイギリスの視点で理論を構築していると考えることができます。だから、マハンの理論はどんどん成長していく国にウケる傾向にあります。実際に、中国でよく読まれているようです。反対にマッキンダーは衰退傾向にある国に適しています。国際情勢アナリストの北野幸伯は「日本の地政学」という本で、マッキンダーの地政学を参照しています。

マハンの地政学理論は時代的制約はもちろんあるのですが、現代も影響力を持っています。グローバル化が進む現代だからこそ、技術の発展と合わせて古典として活用してくべき理論です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献

Jon Sumida (1999) Alfred Thayer Mahan, geopolitician, The Journal of Strategic Studies, 22:2-3, 39-62, DOI: 10.1080/01402399908437753

フリードマン、ジョージ(2014)「100年予測」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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