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東南アジア冒険記(1)バンコクフェイク編

バンコクに来た。
シンガポール(クアラルンプール)でのトランジットを合わせて計12時間。
時刻は午後1時頃
長い移動時間の割に不思議と体は全く疲れていなかった。
それならば、いざ行かん。と、
空港から外へ足を一歩踏み出した途端。
強烈なモノが襲いかかった。
目の前に刺す鋭い日差し。
体にまとわりつくムワッとした空気

そう、夏が来た。
それも突然に。
(出発は12月の東京。行き道が寒かったためヒートテックを着込んできていたのだ!)

予想以上の熱さと湿気で、一瞬で体中の毛穴という毛穴から汗が吹き出す。突然日本の冬から真夏のタイに放り込まれた私は、勇み足からのUターンでそそくさと空港のトイレへ引き返した。
そして時間をかけて用意していた半袖半ズボンに着替える。

いざ、準備万端で外に出た私は、またその地へ降り立った。
旅は始まろうとしていたが、この時、自分の心の中にあったのはただ一つ。
そう、「空港前のタクシーには乗らない」だ。
事前に旅ブログで収集した情報。
タイを始めとする東南アジアの空港前にはタクシーのキャッチがたくさんいて、そのキャッチに安易についていくと全く違う目的地(旅行代理店、買い物屋)に連れて行かれる。そして、最終的に法外な値段を要求されぼったくりに合うと言う。このタイプの人は事前にいるかなと警戒していたので、私はゆっくりと辺りを見渡した。しかしそのような人は一人として見当たらなかった。いや正確には何人かうろちょろしてる人がいるが全く話しかけてこない。平凡なのんびりしたタクシー運転手たち。
なんだこんなもんかと思いながら空港を出てなんとなく左に進む。そして近くにあったベンチになんとなく座る。ぼけーっと前を通る家族連れを見る。空港から見える家を見やる。しばらく時間が経ち、こんな事してても始まらないわと思い、おもむろに携帯を取り出す。
まずは宿にチェックインだなと思い、Googleマップで目的地の宿を調べてみた。しかしそこへは歩いて行くにも、電車で行くにも遠かった。そんな時名案を思いついた。そうGRABである。Grabとは東南アジアのいくつかの国で流通してる配車アプリで、現地ではUberより流通している。私は日本で配車アプリはそこまで使わない。というか学生には高すぎる。しかし、このGRAB恐ろしく安い。近場での移動なら大体100〜200バーツ以内(約400〜800円)でいけてしまう。しかも公式のタクシーアプリなのでぼったくりの心配もないらしい。それならば使わない手はないと、ちゃちゃっと登録を済ませて、アプリで配車を依頼した。リアルタイムでタクシーが近づいてきてるのが見える。おお、これは便利だ。そう思って5分後、順調に自分に近づいて来ていたタクシーのアイコンが自分の位置を示す前の道を行ったりきたりしはじめた。ん?これはおかしいと思いながら辺りを見渡すが、なかなかそれらしきタクシーも見当たらない。そしてしばらくして電話がかかってきた。しらないおじさんだった。突然の電話。それもタイ語で。一方的にまくしたてられ、思わずビビって消してしまう。よく見てみると、grabアプリからの着信でタクシーの運転手からだった。どうしようと焦っているとアプリでチャットができる事に気づいた。そこのメッセージを見ると翻訳機能が付いていて「今どこにいる?待ち合わせ場所が違う」と書かれていた。今いる場所を改めて伝えると、数分後にそれらしきタクシーがやって来た。安心安心。そこにはアプリで顔を見たおじさんが乗っていた。しかし不安だった僕は、そこからタクシーに乗る前に「Are you grab? really?」(本当にグラブ?マジで?)と五回ぐらい聞いてから乗り込んだ。
アプリで確認すると目的地に向かって進み出したので、お、これは騙されてなさそうだなと思った。ひとまず宿に向かっていることに束の間の安心を感じた。

grabは事前に行き先を設定できて乗ってから口頭で伝える必要はない。故に運転手とは会話しなくても何も問題はない。きっと多くの人はそうしているだろう。しかし僕に取っては、人生初海外旅and初現地民。緊張しながらもワクワクして英語で話しかけた。
以下にその華麗なやり取りを紹介しよう。

僕「I’m from Japan!(私、日本から来ました!)」
おじさん「(苦笑)」

僕「Do you know Japan?(日本知ってる?)」
おじさん「(うなずきながら苦笑)」

僕「What’s your name?(お名前は?)」
おじさん「(苦笑)」

僕「Are you from Bangkok...?(バンコク出身ですか…?)」
おじさん「(苦笑)」

僕「...Do you speak English?(あの…英語話せますか?)」
おじさん「(苦笑)」

やってしまった。
相手は語弊を恐れず言うならタイの普通のおじさんドライバー。日本でも普通のタクシー運転手(おじさん)が英語を話せるとは限らない。
海外ならまあ大体英語が通じるだろうという僕の目論見はあえなく散った。

一番最初のコミュニケーションがこれか。なんだか出鼻を挫かれたなと思いながら大人しく窓の外を眺める。…すると突然、白と金の優雅な建築が目に映った。人生で見た事のない金色の仏塔。豪奢な装飾。慌ててスマホを取り出し撮ろうとしたが、すぐに車は幹線道路の中に入り見えなくなってしまった。
一瞬の光景。この後、嫌と言うほど見る事になるタイの建築のたった一つであるそれは、この時の僕の気持ちを高揚させるのには充分だった。
「あ、おれ海外に来たんだ」
そう思った。

他にも目的地に向かう途中、沢山の「初めて」を発見した。街の至る所に王様の写真が飾られてあったり、意外と高いビルが建ってて発展してるなと思ったら、近くにひどく老朽化したアパートが見えたり。車窓から街を眺めてるだけでその変化がまざまざと見られて面白かった。
大きな道路から町の細い道に入っていく。どんどんローカルな雰囲気に変わる。日本では見た事のない薄暗い古びた商店街をタクシーは進んでいく。しばらくして無事タクシーは目的地に着いた。

来る前にブッキングドットコムで2泊だけ予約したドミトリータイプのゲストハウス。重要な1日目だからと、大事を取りワンルームの個室をチョイスした。価格は一泊450バーツ(約1900円)
おそらくバンコクでは高くも低くもないレベルの宿。やや緊張していたが、首尾よくチェックインを済ませて部屋に入ると、意外と清潔感があり安心した。そこで僕はようやく長時間背負ってきた重い荷物を降ろしベッドに横になることができた。ホテルにチェクインすればもう安心だ。オールライト!問題ない!やった!
それから日本にいる友人や知り合いに生存確認のメッセージを送り、1時間ぐらいダラダラとしてから、よしそろそろ何かするかと思った時、僕はある一つの事実に気づいた。

「あれ…?おれ…計画とかしてなくね?」
時刻は午後二時。旅はまだ始まったばかりだ。

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