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レポート例題1。作る過程を解説します。レポート作成の時の思考過程を体験してみましょう

はじめに

前回はレポート作成のノウハウなどを解説しました。

この中で「レポートの型」に色々な具体例を当てはめることで型が使えるようになっていくこと、抽象→具体をやろうとせずに、具体を集積→抽象の理解の順番が必要ということを解説しました。
そのためレポートの型である抽象概念を理解するには、色々なレポートを型にはめて書いてみる必要があります。

そこで今回は実際に例題レポートを筆者が書いてみて、その思考過程を追体験していただくことで、どうやってレポートが出来上がるのか、一つの具体例をお示しして、レポート作成について理解を深めていただく記事とします。

例題:「バイオマス発電の課題を述べよ」

今回の例題は「バイオマス発電の課題を述べよ」です。
バイオマス発電についてはご存じだと思います。
木材などの「バイオマス燃料」を燃やすことで発電する発電方法ですね。
環境負荷が少ない地球温暖化対策に寄与する発電方法と言われています。
このバイオマス発電に関する課題を述べるのが今回の例題テーマです。

課題を見つけるまでの思考過程

「バイオマス発電 課題」とかで調べればズラッと検索結果が出ますけど、今回は身近なところで聞いた素朴な疑問からスタートすることにします。

ある日私は父からこう言われました。
「バイオマス発電って木を燃やしてるのに何でエコなの?」
それに対して私はこう答えました。
「木は燃やすけど、そこでまた木を育てればCO2はプラスマイナスゼロでしょ。だから化石燃料みたいに一方的にCO2が増えるよりはエコだね」

ただしよくよく考えてみたら
「伐採した後に本当に木を植えてるのかなあ」
と気になりました。木を植えなければ結局CO2は排出されっぱなしだからエコではなくなるからです。

そこで
「バイオマス発電 課題」
と検索して、この問題について解説したサイトがないか調べました。
すると次のサイトを見つけました。

北海道の森林の「蓄積量」というものがあります。毎年木が成長する量から、年間の伐採量を引いたものなのですが、この蓄積量だけを見ると、実は毎年すごい量の木が増えています。
実はこの発電所をあと10個か20個作っても、木は引き続き増えていくほどの量が毎年増えています。

でも、それを支える人がいません。今、本当に林業の担い手がいません。高齢化も進んでいます。人の問題が深刻です。

苫小牧バイオマス発電, 木質バイオマス発電の課題とこれから, 閲覧日:2023-04-07.

なるほど「蓄積量」という言葉があるのか、と知ります。
あと「担い手不足」も問題みたい。
日本全体の「蓄積量」を調べて蓄積量がプラスなら、とりあえず今市場に出回っている木材をバイオマス発電に回す限りはCO2が排出されっぱなしにはならないな、と考えました。
担い手不足はそもそもの
「伐採した後に本当に木を植えてるのかなあ」
という疑問とは関係が薄そうなので、いったん置いておきます。

「木材 蓄積量」で検索します。
次のサイトを見つけます。

このほど、林野庁は最新の森林蓄積量を5年ぶりに公表しました。2017年3月31日現在における我が国の森林蓄積量は52億4千万m3となり、前回調査時点の2012年3月31日当時の49億m3から3億4千万m3の増加となりました。

秋田プライウッド株式会社, 最新の「森林蓄積量」が林野庁より公表されました。, 閲覧日:2023-04-07.

なるほど「林野庁」のデータを見れば蓄積量がわかるんだな、と知ります。
そこで林野庁のサイトへ行きます。
検索フォームに「蓄積量」と入力して検索。すると

第4期調査の森林面積は25,763±226千haと推計されます。
また、総蓄積は8,615,563±75,816千m3と推計され、人工林、天然林ともに蓄積量が増加しています。

林野庁, 森林の蓄積等の状況, 閲覧日:2023-04-07.

第4期がよくわからないので、
「ホーム > 分野別情報 > 森林計画制度 > 森林生態系多様性基礎調査 > 調査結果 >森林の蓄積等の状況」
とリンクがあったので「調査結果」をクリック。
すると

森林生態系多様性基礎調査の調査結果のうち、第1期(平成11~15年度)・第2期(平成16~20年度)・第3期(平成21~25年度)・第4期(平成26~30年度)の調査結果の概要をご紹介します。

林野庁, 調査結果, 閲覧日:2023-04-07.

とある。
なるほど第4期は(平成26~30年度)なのかとわかりました。
平成30年は2018年ですね。
これ以上新しいデータは無いようなので、第4期を軸に考えることにします。

ここまでで
「(平成26~30年度)の期間に蓄積量が8,615,563±75,816千m3とプラスなので蓄積量が増加している」
という情報が導き出せます。
しかも林野庁のデータなので情報の正確性は高く、妥当な情報と言えるでしょう。
つまり伐採量以上に森林は増加しているので、伐採された分のCO2は吸収されていると言えます。

ここで
「じゃあやはり担い手不足が課題なのだろう」
と考えます。上で保留にしていたバイオマス発電の課題を思い出してみました。
ただし担い手が減っているから問題だ、とそのままサイトの意見を丸パクリしてもおもしろくありません。
そこで次の仮説を立てました。
「担い手不足なら市場に出回る木材は減っているのでは?」
次は市場に出回る木材量のデータを探しに行きます。

林野庁の検索フォームに「伐採量」と入れて検索。
すると
森林・林業統計要覧2022」という林野庁のサイトに
Ⅲ  林 業」というpdfファイルを見つけます。

そのファイルからある表のデータが見つかります。データは表からの抜粋です。

53 素材生産を行った林業経営体数及び素材生産量
2020(令和2)素材生産量 計 20,414千m3

素材生産を行った経営体数 2015年次  計(実経営体数)10,490経営体、2020年次 5,839経営体

林野庁, Ⅲ  林 業, 閲覧日:2023-04-07. 

どうやら素材生産量というものを見れば木材の生産量がわかりそうです。
そこで素材生産量を調べます。

素材とは、山に生(は)えている木を切って枝(えだ)を切り払(きりはら)ったり同じ長さに切りそろえたりして丸太にしたもののことです。1年間に販売(はんばい)のために作られた素材の量の合計を素材生産量といいます。

岡山県, 林業(きっずぺーじ), 閲覧日:2023-04-07.

どうやら木材の生産量は素材生産量と置き換えてよさそうです。

これで2020年次の木材の生産量がわかりました。
2020年のデータ中心だから、過去の統計データがあれば比較できるな、とアタリをつけます。
「ホーム > 統計情報 > 森林・林業統計要覧 > 森林・林業統計要覧2022」のリンクがあったから、「森林・林業統計要覧」をクリック。
2016年の統計資料を発見します。
次の引用はその資料の表からの抜粋です。

54 素材生産を行った素材生産 規模別経営体数及び素材生産量 2015年次 合 計(自伐及び受託等) 19,888,089m3

林野庁, Ⅲ  林 業, 閲覧日:2023-04-07.

これで情報がそろいました。

上記の情報から

2015年次から2020年次にかけて素材生産を行った経営体は10,490から5,839と約44%減少。一方で素材生産量は19,888千m3から20,414千m3と増加している。
つまり担い手は減少しているものの生産量は増えている
そのため木材供給は十分あるし、その元となる森林は日本全体で年々増加傾向にある。
しかしながら担い手は相当数減少しているので、供給体制が崩壊しないために担い手の減少傾向を止めることが必要である。

ということが「バイオマス発電の課題」
と言えそうだ、とわかりました。

導き出した情報をレポートの型に入れて文章にします

これを文章にまとめます。
レポートの型は前回の記事でやりました。

レポートの型は次の4つから成ります。
「はじめに」「実験方法と結果」「考察」「結論」。
まず「はじめに」です。
ここには
「これから書く内容を取り上げるに至った動機」
を書きます。


バイオマス発電は、地球温暖化対策に寄与すると考えられている発電方法である。
その燃料はバイオマス燃料で、化石燃料に比べてCO2の排出量が少ない。
化石燃料なら燃料が燃焼してCO2が発生するだけである。しかしバイオマス燃料なら、原料の木材などが燃焼してCO2が発生しても、伐採した場所に再び植林することで、植林した木がCO2を吸収するので、カーボンニュートラルとなる。カーボンニュートラルなら、化石燃料が一方的にCO2を排出するよりはCO2の排出量は少ない。

バイオマス発電の課題は「担い手不足」にあると言われている。

北海道の森林の「蓄積量」というものがあります。毎年木が成長する量から、年間の伐採量を引いたものなのですが、この蓄積量だけを見ると、実は毎年すごい量の木が増えています。
実はこの発電所をあと10個か20個作っても、木は引き続き増えていくほどの量が毎年増えています。

でも、それを支える人がいません。今、本当に林業の担い手がいません。高齢化も進んでいます。人の問題が深刻です。

苫小牧バイオマス発電, 木質バイオマス発電の課題とこれから, 閲覧日:2023-04-07.

仮に担い手不足が原因なら、木材を供給する人員が不足し、市場の供給量も減少するはずである。またそもそもカーボンニュートラルとするためには伐採した分を植林しなければならない。
本稿では、木材供給の視点から担い手不足に関して調査し、担い手不足に関しての現状を把握することにする。またそもそもの前提としてカーボンニュートラルが本当に担保されているのかについても調査する。


多少「はじめに」としては弱いかもしれませんけど、1週間くらいの期限で提出するレポートとしてはこんなもんでしょう。

調査結果を起点に、それに合わせるように、調べるに至った動機を考えて「はじめに」とします。「はじめに」を完璧にしてから調査する順番でやろうとすると難しいので、疑問に思ったことを調べて、ある程度の「役に立つ情報」が導き出せたら、それに合うような「はじめに」の文章を考えるようなアプローチの方がやりやすいですね。

次は「実験方法と結果」ですね。実験したわけではないので、論理的に結論を導けばいいです。見出しは「調査結果」とかにすればいいでしょう。


次の参考(1)によると国内の森林の蓄積量は増加している。

第4期調査の森林面積は25,763±226千haと推計されます。また、総蓄積は8,615,563±75,816千m3と推計され、人工林、天然林ともに蓄積量が増加しています。

(1)林野庁, 森林の蓄積等の状況, 閲覧日:2023-04-07.

ここで第4期は平成26~30年度の期間を指す。

また次の参考(2)によると、2020年次の素材生産量は20,414千m3、素材生産を行った経営体数は、2015年次で10,490経営体、2020年次で5,839経営体である。

53 素材生産を行った林業経営体数及び素材生産量2020(令和2)
素材生産量 計 20,414千m3
素材生産を行った経営体数 2015年次  計(実経営体数)10,490経営体、2020年次 5,839経営体

(2)林野庁, Ⅲ  林 業, 閲覧日:2023-04-07.

また次の参考(3)によると、2015年次の素材生産量は19,888,089m3である。

54 素材生産を行った素材生産 規模別経営体数及び素材生産量
2015年次 合 計(自伐及び受託等) 19,888,089m3

(3)林野庁, Ⅲ  林 業, 閲覧日:2023-04-07.

参考(2)と(3)から、2015年次から2020年次にかけて素材生産を行った経営体は10,490から5,839と約44%減少。素材生産量は約19,888千m3から20,414千m3と増加している。


調査からわかった事実を「調査結果」に書きました。
次は「考察」です。


参考(1)から伐採量以上に森林は増加しているので、伐採された分のCO2は吸収されていると言える。つまりカーボンニュートラルは担保されている。

素材生産量は約19,888千m3から20,414千m3と増加しているが、経営体は約44%減少している。
つまり担い手は減少しているものの生産量は増えている

そのため木材供給は十分あるし、その元となる森林は日本全体で年々増加傾向にある。
しかしながら担い手は相当数減少しているので、このまま減少が続けば供給体制に支障をきたすことが予想される。
供給体制が崩壊しないために担い手の減少傾向を止めることが必要である。


要するにデータから自分が考えた、導き出した結論を書けばいいです。
最後に「結論」です。全体をまとめます。


本稿では、木材供給の視点から担い手不足に関して調査し、担い手不足に関しての現状を把握することにした。またそもそもの前提としてカーボンニュートラルが本当に担保されているのかについても調査した。

調査の結果、バイオマス発電の課題は、「担い手不足」が一つの原因であることがわかった。
担い手不足なら作業従事者が減少し、木材供給が滞ると考えたが、実際は素材生産量が約19,888千m3から20,414千m3と増加しているため、木材供給は滞っていない。
またそもそもカーボンニュートラルが担保されているのかという前提についても調査したが、カーボンニュートラルは担保されていた。

しかしながら、素材生産を行った経営体は10,490から5,839と約44%減少している。現状では供給に影響はないが、これ以上担い手が減少すると供給に支障をきたすのは容易に想像できる。
バイオマス発電の課題は、今後、とりあえず現状の供給量を維持できている現在の担い手をこれ以上減らさないための取り組みを行っていくことである。


「結論」の最初で、「はじめに」で取り組むことにした内容を繰り返します。
そして全体の結果と考察をまとめて、終わりっぽく書けば終了です。

今回の記事でやっていること

今回の記事では、ある仮説を裏付けるために、情報を調べて、目的の事実を導き出す作業をしました。
こういう情報の裏付けを積み重ねてレポートは作成されていきます。
情報収集には慣れが必要なので、日常生活でも何か気になったことがあったら、「ちょっと詳しく調べてみる」ことを習慣にすれば技術が磨かれていくでしょう。

また今回作成したレポートは必ず合格できるレポートにはなっていません。
昔大学院時代に言われたことですが
「課題はいくらでも難しくできる」
そうです。
つまりレポートも採点を担当する先生によっては合格基準をいくらでも高く設定できます。

今回のレポートでも
「はじめに」の部分の「バイオマス発電は担い手不足が原因と言われている」の部分をウェブページから適当に引用しましたが、学会の論文レベルの情報源から引用しなければダメと言われるかもしれません。

調査結果のデータも、最新のものとして採用した2020年のデータでは3年前なので情報が古いと指摘されるかもしれません。

またバイオマス燃料に木材を使うと想定しましたが、家畜糞尿から作られたバイオガスを使う方式もあります。それを考慮すると、バイオガスプラントの設備投資が高いとか、本当にカーボンニュートラルになっているのかとか、家畜を飼育するコスト高のせいでバイオガスが値上がりしてしまうとか、色々と話を広げる必要が出てきます。そうすると紛争などによる飼料のサプライチェーンの脆弱性を修正するとか、飼料を国産化するための施策が必要とかそういうスケールの大きな話になっていきます。

そもそも担い手不足が原因という参考(1)の情報をデータで裏付けただけのレポートともとれるので、そもそもの「担い手不足が課題」という着眼点が新規性がないと判断されて不合格になるかもしれません。

担い手不足が実際に起きているという論証を「はじめに」の導入で行ってしまってから、さらに「ではなぜ担い手不足が起きているのか」ということを詳細に調べていくと、少子高齢化、若者の都会への流出、林業の事故率、賃金の低さ、などなど色々出てくると思います。
これを詳細に調べてインタビューもして、若者が林業に入ってくるための施策に関する現在の課題を考えて実際に何らかの実験をして、効果があった施策を導き出す。
このくらいまでやって合格とされる可能性もないことはありません。

しかしそこはレポート期限までにできる、レポートの指定文字数内で書く、などの条件から完成度を自分で調整しなければいけません。上の超詳細レポートの場合、最低でも卒業研究レベルになるでしょう。完成まで1年くらいかかる可能性が高いです。
今回は1週間の期間でできることという条件をつけ、よく言われていいることをデータで証明するにとどめました。

内容は完全ではないかもしれませんが、データを積み重ねて情報を導くという訓練にはなるだろうという意図で今回のレポートを作りました。
その過程が伝われば幸いです。

レポートにまとめるにはある程度文章力が必要

情報を導き出してからいきなりレポートを書き始めましたけど、こういう論理的な文章を書くにはある程度経験が必要です。
この技能を伸ばすために私がおすすめするのが、日記を自分で添削する方法です。
詳しくは次の記事で紹介しているのでよろしければご覧ください。

まとめ

今回はレポート作成の例題をやってみて、その作成過程をお話ししました。
具体的なレポート作成の流れを経験することで、論文の型に沿って情報を文章にする経験が追体験できれば幸いです。
型に沿ってレポートを書くという具体的な経験を積めば、だんだん型が使えるようになるでしょう。
大学の実際のレポート課題を書けるようにするためにも、練習を積みましょう。

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