ほとんど覚えてない映画のはなし

私が住んでいる地域は広島県の田舎町だ。
いまでこそ市町村だが私が中学生までは、群だった。
電車は走っておらず、バスも一時間に2本だし最終便は20時台に出てしまう。

それでも私の町は、近隣の町より都会だった。
隣の町には熊もキツネも出没する。
私の町には鹿と猪は出るが、流石に熊は出ないよー、という微妙すぎるマウントをとるくらいの田舎町だ。

そんな町だから、当然映画館なんてあるはずもない。
幼少期は、映画を見るとなると母に車で30分かかる隣の市に連れて行ってもらうのだ。
その映画館も、決して都会にある訳ではない。
母の実家近くの商店街にあるさびれた映画館だった。一日に同じ作品を繰り返し流すのだ。
その商店街にあるお寿司屋で祖母は働いており、それを手伝うために母は姉と私を映画館を託児所変わりに使っていたのだ。
顔見知りのおじさんにチケット代を払い、母は帰っていく。
私と姉は、なんだか特別な事のようにはしゃいで映画を見るのだ。
だが映画館は昔の映画のリバイバルをエンドレスで流していたように記憶している。
まさかの、ゴジラだった。
モスラだった気がする。
子供ながらに母ちゃんそりゃないぜ。と思いながら静かに姉と見ていた。
見ていたが子供は飽きるのが早い。
しかもその映画館は、姉と貸し切り状態で二人で席を変えてウロウロしながら落ち着きなく見るのだ。
まったく集中出来ない。
結局、最後までみる事なくロビーへ出てチケットもぎりのオッチャンと話をして母を待つのだった。
微かに記憶があるのは、モスラのうただけ。
未だにゴジラを見かけるとあの独特な歌を思い出す。

だが映画館のない町にも夏にだけ例外が起こる。
商店街の片隅にある謎の倉庫だか駐車場だかが映画館に変わるのだ。
こぢんまりとした倉庫にゴザがひかれる。
真夏なのにどこかヒンヤリした空気の部屋だ。
そこに、子供たちが集められ謎のおじさんに500円を渡すのだ。
小さなゴザに5人程度、端から座る。親は帰っていきまた託児所替わりになる。

するとシャッターが、降ろされ何もない壁がスクリーン替わりになる。
そしてついに始まるのだ。
年に一度のお楽しみ、東映まんがまつりが!!
何を見たのかもう記憶はほとんどないが、ドラゴンボールだった。
壁一面に映る悟空がかっこよかったのは確かだ。

ただの倉庫が最高の映画館に変わるのである。持ち込んだ駄菓子のねり飴を食べてベトベトになりながら見るのが最高にエモかった。

いつが、最後だったのかもう記憶が定かではないがあの謎のおじさんは何だったんだろう。
気がつけば私の住む町からあの移動映画館は消えてしまった。
同じような経験をしたことがある人はどのくらい居るのだろう。

ドラゴンボールの映画を見るとたまに思い出すあの空間。
令和にはないであろうあのたまに懐かしくなるのである。

#映画にまつわる思い出

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