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ごめんね、紫陽花

私の後を追うように小さく聞こえるラジオから聞こえて来たのは天気予報
『早い真夏日になりそうです』
あっ と小さく呟いて
部屋に戻り帽子を深めに被るとラジオを掴み縁側に向かった。
ドタバタうるさいなぁと言うように寝ていた愛犬が片目を開けてこちらを見ている。
お構いなしに日課の水やりをするために
ラジオを置いて庭に出た。


肌に感じる日差しが重さを増している。
日焼け止めを塗り忘れた事を思い出し
た。一瞬考えた後、すぐ終わるから大丈夫。
という事にして
カラカラとホースを伸ばし蛇口を捻って水を出した。
レバーを掴むと思いの外、勢い良く水が出るものだから行き場を無くした水がジョイントから溢れて私の手から腕を伝って洋服を濡らした。
あーあ。
天気予報で言っていた通り本当に暑い
すぐ乾くよね。




近頃の夏は蒸発して無くなってしまいそうな暑さであまり得意ではないけれど
駆け抜ける事が目的なの。
と言いたげな勢いまかせの夏は
私に似た所がある。

いっそこのまま
梅雨を押し切って駆け上がるように夏になれば勢いづいた筆が良く走るのではないかと期待

焼けるお日様の香りと
蚊取り線香の香り。
深緑の渓谷と
風鈴の音と
下駄の音。

熱い祭りと
目の前に落ちてきそうなほど近い打ち上げ花火と
ネズミ花火や回転しながら飛ぶ花火の行方にドキドキしたり
火薬の香り。
涼を求めて水を張った桶に足を入れバシャバシャと童心に帰る
他愛もない楽しい夏。


夏には何かを表に出す空気感があるから
盛夏と私のエネルギーが重なりあって生まれる華やぎが弾みになって歌うように言葉を紡ぎ出す時
それは私にとって最大の幸福。


ラジオから流れる天気予報が
最高気温31℃と告げる。

飛び級の夏の到来を願いながら紫陽花に水をやる。
虹を映し出すシャワーを浴びた紫陽花は
濡れた葉を気持ちよさそうに揺らし
私が大好きな土の香りを届けてくれた。


ごめんね、紫陽花


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