見出し画像

オレ的エレカシ感想記:『愛と夢』(後編)

前回に引き続き、エレカシの『愛と夢』レポです。
くらくらするような、時に暗く甘く、時に爽やかでロマンティックな世界を味わえるこのアルバム。

こちらは音楽的な理論や彼らのバックグラウンドを踏まえた解釈……などではなく、ただ聞いてみて感じたことを、ひたすら書き留めていくnoteです。
今回は、全11曲中、7曲目以降をお送りしようと思います!

7:寝るだけさ

イントロは展開が予測不可能で、なんとなくライブハウスで開演を待つときのような、臨場感のあるワクワクした気分を感じました。
軽やかで陽気な歌詞と演奏が飄々とした雰囲気を醸し、楽しげに曲は進みます。刹那的というと少し違うでしょうが、気負わない、粋な言葉がどこか、世を捨てた詩人か哲学者のような感じさえしてきませんか?
続くBメロでは音数が減り、宮本さんの真っすぐな声も相まって、胸の内をこっそり打ち明けてくれるような印象があります。そこまでの様子と変わって、弱音のような、この世に生きる以上やっぱり逃れられないのでしょう、ここにもなんだか、生活と労働がひょいと顔を出しますね。

楽天的に、「今日は今日、明日は明日だ」と言うのはかっこよくて、悟ったようで、達観しているようで、あるいはとても前向きなことなのでしょうが……でもその胸中には、頭の中には、やっぱり現実の挑むべき壁として、「生活」がでんとそびえていることが、はっきりと真実として収まっているのでしょう。そのことを無視するのではなく、直視したうえで、でもまた明日も……と歌うかっこよさ。それこそがエレカシの大きな魅力であること間違いありません。

8:ココロのままに

これまた、イントロが渋い。つい最近、映画の主題歌として再発掘(?)されましたが、エレカシについて知らない観客も、このイントロには心をつかまれたのでは(と思うのはファンの欲目でしょうか)。

そして歌に入ると、割れそうなくらいに張った強気な声に、唸るような伴奏。
……宮本さんの歌唱を聞いていて思うのですが、高い声ひとつとっても、尖った響きでまっすぐ張り上げる地声、スキャットのような絞り出す響き、天使のような柔らかいファルセット……と、また手数の多いこと。このあたりの使い分けも非常に巧みで、改めて彼の技量の高さに敬服します。

間奏では時々入る低音のフェイクにも痺れますが、伴奏が重量をもって前面に出る部分が多く、聞きごたえも抜群ですね。

さて、さらに歌詞はというと、恋愛というよりは……ずばり「戦い」に主軸を置いた感じですね、この曲は。
エレカシの曲としての違和感は全くありませんが、このアルバムの中では少し異色というか、「愛の夢をくれ」「真夏の星空は少しブルー」などと並べた時にはちょっとまた違う感じだな、という印象です。ここまでの曲を甘さ、熱さ、苦さ……という言葉で形容してきましたが、「ココロのままに」はスキッとした炭酸のような、強さと痺れを感じる曲だと思います。
勝手な印象では、『ココロに花を』あたりに入っていても馴染みそう。
とはいえ、シングルで「夢のかけら」のカップリングだったと考えると、また別種の滋味がありますね……。これもまた好きな曲であります。

9:Tonight

気負いのない声が伸びやかなこの曲。
恋人への飾り気のないラブコールと、反面詩的な ”Shall we dance?" 、ロマンティックな誘い文句が光ります。
ビルの明かりがきらめく街角という情景に、ずばり「Tonight」という横文字がハイカラな印象で、明るい時代のハッピーな恋人たち、というイメージが湧きました。歌詞の季節とはズレてしまうけど、クリスマスシーズンにもなんだか合いそう。

登場するファクターは「赤い薔薇」とも近いように思えますが、他の要素の組み合わせによって全然違う印象を受けますから、なかなか面白いものですね。

10:はじまりは今

あ~~尊い。
このMV、トミも石くんも随分とイカした感じで、かっこいいんですけれども、それにしても、これはあまりにも成ちゃんがダンディすぎやしないでしょうか? 強すぎる。

おそらく、言わずと知れた名曲のひとつであろう、「はじまりは今」。
今更あれこれ言うのも気が引けるくらいです。

みなさんは、この曲についてどう感じているのでしょう?
希望を感じる、明るい、前向き……そんなポジティブなイメージが、歌詞の端々に表れていると思います。
でも、どこか哀愁というか、少しだけ悲しみをたたえているような、凪いだ水面を冷たい風が一瞬撫でて、ゆらゆらと薄い波紋が広がっていくような感覚が、ほんのりと曲の中に流れているように私はいつも感じます。

それはなぜなんだろう、という疑問がずっと私の中にありましたが、数か月前くらいにふと、歌詞でもなく、メロディーでもなく、そもそも宮本さんの声に、うっすらと切なさが潜んでいるんじゃないかと思い始めました。

そう思い始めたきっかけは、「はじまりは今」一曲だけでなく、2023年の【ロマンスの夜】に備え、宮本さんのカバー、『ROMANCE』や『秋の日に』での歌声を改めて味わったから……というのが大きかったです。

私がずっと続けてきた吹奏楽、その中のトランペットという楽器にも、明るい音をもつトランペットもあれば、少し暗い音が鳴るトランペットもあります。大まかにいうと、一般的には金メッキのほうが明るく華やかな音、銀メッキのほうが落ち着いてまろやかな音がするという感じであるのですが、機種や個体によっても様々。

だからきっと、宮本さんも、そんなふうに、透き通った切なさが響きの中に潜むような、そんな声の持ち主……と私は思っています。
そうであるからこそ、過剰な表現などなくとも、どことなく重層的で、ただ明るい、ただ前向きなだけでない、エレカシがずっと表現してきた、死という結末が決まっている世界で挑み続ける強さ、その裏にある無常観が自ずと立ち昇ってくるような気がします。

11:おまえとふたりきり

この最初の声、私はいつも、スピッツの草野マサムネさんの声に似ているなあと思います。みなさんどうですか?

さて、「good-bye-mama」から始まった『愛と夢』、前半ではどちらかというと熱情が感じられる曲たちが続き、7曲目の「寝るだけさ」~10曲目の「はじまりは今」では少し引いて、爽やかな風が吹き込むような流れに変わってきていました。
そしてアルバムの最後、この「おまえとふたりきり」では、なんとまた、濃密な夢の世界の再演となり……なんとも心憎いです。「ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ」と一緒のシングルだったの、ずる過ぎる。好き。わかる。

……改めて聞けば聞くほど、もどかしく、愛しくて、どうにも身悶えしてしまうラブソング。これを前半の曲と一旦離して、最後に持ってくるのが構成の妙だと思います。アルバムを通して聴いた時の余韻の方向性を決定的なものにしていますよね。
ゆったりとした曲に、時々星が通り過ぎていくような、弦の音が細い尾を引いてこぼれていきます。そして歌詞や声を味わうほどに、

まっすぐな眼差しに射抜かれたい。逆らえない囁きに酔いしれたい。

そんな陶酔めいた感覚さえ浮かんでしまいます。この沼から抜け出すことは不可能。宮本さんは罪深い男です。
終始甘く、切々と愛の言葉が奏でられていきますが、かすかに硬質で、先述してきたようなほの暗い、切ない声の響きが重い真実味も感じさせ、この人が愛せるのは、この世にたったひとり、「おまえ」だけなのだろう……と感じさせられます。

茫洋たる真夜中の闇、そして永遠に続きそうな熱いまどろみ。
絶対に離さない、という熱烈な覚悟は、夜と同じくらい深く、月の光と同じくらいに透き通っているのだと思います……。


まとめ

ずっとやりたかった『愛と夢』のアルバムレポ、これにて完結です。

2023年、エレカシは35周年を迎え、紅白歌合戦にも出場、というおめでたいアニバーサリーイヤーでありましたね。
あの「俺たちの明日」は本当に眩しくて、改めてエレカシの強さ、そして4人の安定感に胸がいっぱいになりました。
宮本さんのソロ活動でも、バースデイライブ【my room】に【ロマンスの夜】と大盤振る舞いで、エレカシ・ソロ問わず、新たなファンも多く獲得したことでしょう(私のように、ソロからのファンでエレカシに入る人も多いでしょうし)。

しかしながらその一方で、世の中には(かつての私のように)まだまだエレカシの一面しか知らない人が多い、ということも実感した次第でありました。
彼らは確かに、底抜けに眩しくて、剛毅であり、あるいは宮本さんはちょっと豪放磊落すぎるおじさん(しかし歌はめちゃくちゃ上手い)で……、いや、そうなんですよ。そうかもしれないんです。でも、でも……! と忸怩たる思いを抱えた人は、私だけではないと思うんです。

元々この『愛と夢』レポは、主にエレカシのファンの皆様に向けて、「マイナー気味なこのアルバムだけど、とんでもない魅力がつまってます。一緒に再発見しましょう」という気持ちで書き始めたものでした。

けれど、改めて今、世間一般のエレカシのイメージに、少しだけ悔しい気持ちが募っています。
私自身が、「エレカシは暑苦しくてむさ苦しくて男だぜ!!みたいな感じ」だと思っていたからこそ、そのイメージがいかに表層的なもので、ともすれば……強く言えば ”的外れ” でさえあったのか、知った時には随分と驚きましたし、また後悔もしたものです。 

だから、「彼らの繊細さやロマンティックな感性、人間を見つめる深くてシニカルで、押し付けではないゆらめく熱さを知ってもらいたい」とTwitterでもつぶやいたとき、思いの外賛同の声が多く、ありがたい気持ちになりました。

拙い記事ではありますが、このnoteが願わくば、その魅力を再確認していただく機会はもちろん、少しでも多くの方が『愛と夢』と出会うきっかけ、そしてエレカシの奥深さを実感していただく時間になれば、と思います。

いずれまた、次のアルバムレポも投稿しようと思います。
……次は宮本さんソロの『縦横無尽』か、エレカシの『RAINBOW』のどちらかかな、と思案しているところです。

それでは、今回はここまで。
お読みいただきありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?