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⑥【認知症】物盗られ妄想の始まり

母は花が好きだ。去年の夏は畳一条ほどの庭に色んな花を植えていたが、今年の夏はご近所さんにすすめられてプチトマトも植えた。びっくりするほどたくさんの実をつけた。

暫くして、トマトが父の悩みのタネになった。ひとつは母がまだ赤くなっていないトマトも採ってしまうこと。「お母さんはいくら言ってもこんな緑のトマトも採るんや!」出来すぎて困るほどだからいいじゃないかと内心思ったけれど、父の手前「赤くなってから採った方が美味しいよ。」と母に言ってみるが、どうしても緑のも採ってしまう。「採っとかないと隣の人が来て、採っていくんよ。」とヒソヒソ声で母が言いだした。もう一つの悩みのタネ、物盗られ妄想が始まってしまった。

思い返せばもとの実家に住んでいた時に、うちにしか咲いていない花が、ご近所の家にも咲いている。あれはうちの花を切って挿し木したに違いない、とよく言っていた。その時はそんな事もあるのかなくらいに聞いていたけれど、あれも物盗られ妄想だったのか…。

とにかく、私が両親の家に行くたびに「お隣りの人がトマトを採っていくんよ。」とヒソヒソ声で言うようになってしまった。万が一お隣さんに聞こえたら大変なので、「お隣さんと話したら、トマト大嫌いだって言ってたよ。」と母に言ってみるが、「うん。だからちょこっとだけ採っていくんよ。」と話を交わしてくる。認知症はなかなか手強い。日々、父はこのトマト問題に悩まされ、ついにまだまだ収穫できるトマトの木を切ってしまった。母に、「一緒に切ったぞ。覚えといてくれよ!」と懇願していた。私も母が、「トマトの木まるごとお隣りさんが採っていったんよ。」と言い出さないことを願っている。

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