【小説】それゆけ!山川製作所 (#8 小森 啓介①)

どうも皆様こんにちは。
株式会社山川製作所、代表取締役社長の財前でございます。

改めて言いますけれども、我社にはそれはもうたくさんの社員が勤務しているんですねぇ。

実際どのくらいかといいますと……。

山川製作所本体だけで約2万5千人。連結子会社である450社を含めますと、その数は20万人強にもなるんですねぇ。
これでも、国内における従業員数ランキングでトップ10には入っていないんですよ?上には上がいるって話ですよねぇ。

まぁ、何が言いたいのかと申しますと。

ネタ探しには本当に困らないって話なんですよねぇ。

これだけの人が集まると、本当にいろんな人間がいます。
忌憚ないツッコミを入れる浜川さんに、真面目過ぎる田中くん。それにスマートの権化である須藤くん。
ははは、本当に面白いですねぇ。

いや私ね。
そんな中でもひときわ輝く人材を見つけてしまったんですねぇ。

その人物こそ、経理部財務課に所属している小森啓介(コモリ ケイスケ)くんなんですねぇ。


彼は、ど変態です。


ははは、いきなり過ぎましたかねぇ?
しかし、彼を言い表す言葉はそれしかありません。

今回の話では、もしかすると気分を害す人もいるかもしれません。
それでも、物書きのはしくれとして私は彼を書きたいと思ってしまったんですねぇ。
とてもやさしい範囲ですが、下ネタに過度なアレルギーを持つ方は、今回のお話を飛ばしたほうがいいかもしれませんねぇ。

それでは今回は、そんな彼が己の心を解放するきっかけとなった出来事について書いていきましょうかねぇ。




(はぁ……、またやってしまった)

僕の名前は小森啓介。
この株式会社山川正製作所の経理部財務課に所属させてもらっている社員です。社歴はまだまだ浅い3年目。毎日、周りの皆に迷惑をかけないよう頑張っているですけど、これがなかなか……。

今は昼休み。
僕は、会社の屋上に設置されている緑化公園のベンチで一人昼食をとっているところです。膝に抱えているのは、家から作ってきた自作のお弁当です。

いくら大企業とはいえ、若手の給料はそこまで多いわけではありません。それに、ここは天下の大都会。会社から補助は出るものの、アパートの家賃も決して安くはなく、お金にそこまでの余裕があるわけでもない。

入社して2年と少し。
特に作ってくれる相手がいるわけでもないので、僕は自分で作った簡素で冷め切ってしまったお弁当を、毎日この屋上のベンチで食べているわけです。もちろんずっと一人で。

(はぁ……)

何度目かわからないため息を吐きながら、僕は午前中に犯してしまった失敗を思い出していました。


『小森くん。うちの部署は正確性が命なんだ。また計算が間違っているよ』

『す、すいません……』

『はぁ。君もうこれで何度目だい?いい加減、これくらいの資料はミスなくやってもらわないと困るよ。作業自体は単純なんだからさ』

『ほ、本当に申し訳ございませんでした……』


経理部という仕事柄、数字の計算やそれに伴う資料を作成することが多い。
そんな中、僕は結構な頻度で計算などを間違ってしまうんです。
様々な部署から数字が上がってきてややこしいとはいえ、上司の言う通り作業自体は本当に単純なことなのに。
それに、この資料自体は経理部が本来の業務を行うための事前資料のようなもの。
丸々2年経った今でも、僕はその事前資料ですら満足に作ることができていませんでした。

(本当に、僕は昔から何をやってもダメなんですよね……)

冷めた弁当をつつきながら僕は自分の半生を振り返っていました。


昔からこれといった取り柄もなく、学校の成績も中の下くらい。
背もそこまで大きいわけでもなく、明るくコミュケーションをとるようなタイプでもない。教室の中では、ずっと隅で本を読んで過ごしているような静かな人間でした。

こんな僕がこの山川製作所に入社できたのは、人生最大の奇跡といっていいでしょう。

仕事が遅いせいで、毎日一人で遅くまで残業しています。そのくせ、僕のせいで他の人の仕事を増やしてしまっています。

やっぱり、自分のせいで周りに迷惑をかけてしまうことが何よりも辛い。

でも、いくら頑張ってみても自分は変わらないのだろうなと思っています。
だって今までがそうでしたから。
いくら頑張っても結果が伴わない。何度資料を確認しても、なぜか見逃しが出てしまう。

失敗失敗の日々で、いつしか自分の仕事に、そして自分自身に自信を持つことなどできなくなっていました。

……もう限界が近いのかもしれません。

ふと空を見上げると、曇天が広がっていました。
都心にしては珍しく、この屋上緑化公園からはとても開けた空を眺めることができます。いつもなら本当に景色が爽快で、とても綺麗なんですよ。

でも今の僕にとって、このどこまでも見通せる曇天は、終わりのない自身の不安を表しているようにしか見えませんでした。

「はぁ……。そろそろ戻ろう」

1人で食べるお弁当などあっという間に終わってしまいます。
昼休みはまだ半分も過ぎていません。
それでも僕は、人一倍仕事に時間をかけてしまう僕は、午後の仕事に向けて準備を行わなければなりません。

お弁当袋に空箱を仕舞い、ベンチから立ち上がります。
最後に頭上に広がる曇天を一瞥し、エレベーターへ向かおうと一歩踏み出す。
その時、僕はあることに気が付きました。


(なんだか……チンポジが悪いな)



……とても、違和感を感じました。
まるで、自分が自分ではないかのような。いや、今まで苦楽を共にした自分の子供ではないような……。

椅子に浅く座ってしまうのは僕の悪い癖です。
どうやらその座り方のせいで、僕のパンツは極限まで上がってしまっているようでした。
そうなってしまっては、もうどうしようもありません。

ナニがとは言いませんが、根こそぎ持ってかれているのです。右に。
おそらく先端は飛び出してしまっていることでしょう。

そんなことを考えていると、僕はいつの間にかエレベーター前に到着をしていました。

(戻ったらトイレにでも行きましょうか……)

ボタンを押してほどなく、到着するエレベーター。
昼休みの中でも中途半端な時間だったためか、エレベーターには誰も乗っていません。
そんな無人のエレベーターをぼうっと見ている時のことでした。



悪魔が僕に囁いたんです。




無人のエレベーターにチンポジの悪い僕。
屋上は25階で働くフロアは10階。
移動にはそれなりに時間がかかる。
その間、完全に密室であるこの箱の中には僕一人だけ……。


ここだ。と思ってしまったんです。


エレベーターに乗り込むと、僕はすぐにベルトへと手をかけました。
焦るな。時間はたっぷりとある。
僕は自分にそう言い聞かせて、僕はこのエレベーターの移動中にチンポジ、いや、チンポゼッションを直そうとしたのです。

いつもより丁寧にベルトを外し、チャックを下ろします。
そして、少しズボンを少し下げます。
そいうすることで、過度に上がってしまっているパンツが露わになります。
どうやら予想通り、少し下からはみ出していたようです。

さぁここからが本番だというところで……

僕はミスを犯しました。


夏用のスラックスは非常に生地が薄く、油断するとベルトの重みに負けてスルンと下まで脱げてしまうことがあります。
ズボンが全て下まで落ち、パンツ丸見えという状態。

僕はこの大一番でそんな失態を犯してしまいました。
無情にもズボンはずり落ち、エレベーター内ではベルト金具が床とぶつかる甲高い音が響きます。
まるで今の僕の様は、小さい男の子が用を足そうとする時の格好にそっくりでしょう。

(焦るな……。焦ってはいけません……!)

しかし、エレベーターの表示を見てもまだ21階。
一度、深呼吸をします。
どれだけゆっくりやり直したって間に合うタイミング。
そう自分に言い聞かせて地面までずり落ちてしまったズボンをつかんだ時でした。


「チン♪20階です」


突如エレベーター内に響いた機械音。
それも、この状況を知ってか知らずか、その音色は「チン」。

僕は本当に馬鹿でした。
これだけの社員数を誇る会社に、15階分ものエレベーター移動。
途中で誰かが乗ってくるなんて普通誰でも考え付くのに……。

(う、うそですよね!?)

しかし、この状況からはもう逃げられません。急いでズボンをずり上げますが、チャックやベルトを締めるなんて到底間に合わない。このままでは、ただでさえ肩身が狭いのに、変態というレッテルまで張られてしまいます。


「ガーー」(EVの開く音)


しかし、無情にも、僕の目の前でその扉開いてしまいました。




「え!?だ、大丈夫ですか!?」

そこに立っていたのは、なんと会社一のマドンナとしても名高い総務部の立川ユキさんでした。ここでこの人が来るのかと思いましたが、肝心なのは彼女の上げた声は悲鳴ではなく、心配の声だということ。

「す、すいません。急にお腹が痛くなってしまいまして……」

瞬時に閃いたこの窮地を脱する方法。
それは、閉じていないチャックとベルトをお弁当袋で隠し、なおかつ思い切り前かがみになって相手から見えない角度を作るという強引なものでした。
それだけでは意味が分からない格好なので、私は苦悶の表情を浮かべ腹痛を装ったのです。

「そ、その。医務室までお連れしましょうか?」
「い、いえ、大丈夫ですので!!すいません!!」

私は急いで立川さんの脇を通り抜け、エレベーターから降ります。
心配してくださった彼女には申し訳ないのですが、今は一刻も早くこの場から離れることが先決です。

前かがみの体制をキープしたまま、私は大急ぎでエレベーターを降り、フロアにあるトイレへと駆け込ました。
そして、個室へと入り鍵を閉める。

こうして私は無事、窮地を脱することができたのです。

(はぁはぁ、危なかったですね……)

まだ心臓がバクバクいっています。
額に噴き出した汗をハンカチでぬぐい、私はひとまず呼吸を落ち着けます。

しばらくして落ち着いたところで、私はゆっくりとチンポジを直しました。

ひとまず、これですべて終わったのですが、どうもすぐにトイレを出る気にはなれません。私は便器に座ると、先ほどのことを思い返していました。


(とにかく窮地を脱することができてよかったです。でも立川さんには悪いことをしました……)

彼女には変に心配をさせてしまい、申し訳ないことをしました。

(でも、立川さんはいい人です。僕みたいな人間が、前かがみになって急に現れたら、気持ち悪がったって不思議じゃないのに)

会社のマドンナは、心も綺麗なようです。

(本当に綺麗な人でした。目も大きくて鼻も高かった。肌も綺麗だったし、驚くほど顔が小さかったです。)

外見に至っては、もう芸能人ではないかというほどに整っていました。

(そんな立川さんの目の前で、僕はベルトを外し、チャックを下げた状態でいたんですね)



今思えば、ここから僕の思考はおかしくなっていったんだと思います。もう後戻りはできないほどに。すべてはこのトイレの個室で始まったのです。

思考が加速し、自分にとって都合の良い方向へ世界が変換されていきます。





(立川さんと、チャックが下がりベルトが外れていた僕)

(立川さんの前の僕、チャックが下がりベルトが外れていた)

(僕、立川さんの前で、チャックと下げベルトを外していた)






『 僕の前で、チャックを下げベルトを外す立川さん 』






た、たまらないですねぇ……。



僕の中で何かが産声を上げた瞬間でした。





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