【小説】それゆけ!山川製作所 (#1 プロローグ:財前と申します。)

どうも皆様こんにちは。
株式会社山川製作所、代表取締役社長の財前でございます。
はは、突然誰だって話ですよねぇ。
わかります。ええ、わかります。

でも皆さんこれね。
私がどういった人間なかっていうのは正直重要ではないんですよね。なぜなら、我社の主役は社員一人ひとりなのですからねぇ。

ん?「マジで意味わからん」「時間返せや」ですって?
ははは、これは手厳しい。
では仕方がありませんねぇ。皆様の貴重なお時間を少し頂戴し、ご説明をさせていただきましょう。

電気機器メーカー国内最大手、株式会社山川製作所。
創業者である「山川大十三郎」(ヤマカワ ダイジュウザブロウ)が立ち上げ、今は私が二代目の社長をさせていただいおります創業75年の上場企業なんですねぇ。
山川前社長より会社を引き継ぎ早15年。不肖この財前、何とか今日までやってきてるんですねぇ。

すでに出来上がった大企業を引き継げるなんて羨ましいと思うでしょう?

でも皆さんこれね。
私の人生は社長を引き継ぐ前と後では大きく変わってしまったのですよ。
これが主に悪い方向へなんですねぇ。

山川前社長の情熱と技術力で引っ張れてきたこの大企業。
当然私にだって引き継いだからには会社を良くしたい想いや、今まで培った技術がある。
でも、山川前社長には到底敵わないと思っているんですねぇ。これは15年経った今でも変わらないんですねぇ。

私の肩には多くの社員やその家族の生活がのしかかっている。
引き継いた当初は控えめに言って地獄だったんですねぇ。
なりふり構っていられない。会社を守っていかなければならない。
自分にも他人にもとことん厳しく接した私からは多くの人々が去って行ったんですねぇ。
家庭を顧みず働き続けた私からは、家族も去って行ったんですねぇ。

仕方がない。これで間違いないはずだ。自分自身にそう言い続けて走り続けてきた私の心は、当然ながら限界に近かったようなんですねぇ。

でもある日ね、私の戦友でもある専務の黒川に言われたんですよ。

「もう少し社員を見てやれ。多くの社員によってこの会社を回っているんだぞ。お前や俺が与える影響なんてこんな大企業じゃわずかだお」

語尾は置いとくとして、ハッとしましたよねぇ。
なんでこんな当たり前のことに気づかなかったんだってね。
山川商事を支える主力商品やサービスにおける、企画・製造・販売・販促。このどれもは、社員たちが全てやってんですよって話なんですよねぇ。

黒川のこんな一言で、私の長年凝り固まってきた肩の力はふっと抜けた。
今まで何にそんなに必死になってきたのかってことで、一種の燃え尽き症候群みたいに。私は変わってしまった。

ただ、これが主に良い方向へなんですねぇ。

「もう少し仕事以外にも興味を持ったらどうだ。趣味の一つや二つあるだろう?」

これも黒川に言われたことなんですねぇ。

目の前に立ちはだかる大きな壁に立ち向かうのは私一人ではないと理解した私は、自然と自分の人生を客観的に見ることができた。それも、仕事を完全に切り離してですねぇ。

私は何がしたいのか?これからどうしたいのか?
ふと、思い出した。
私、昔は物書きになりたかったんだってねぇ。

だから思ったんですねぇ。このささやかな夢を、趣味でもいいから、駄文でもいいから初めていこうと。

当然、何を書こうかと思いますよねぇ。物書きになれば誰もが頭を捻る必要が出てくることですねぇ。

でも皆さんこれね。
私は、一瞬で自分の書きたいものがわかったんですねぇ。
それが、黒川にも言われた我社の「社員」だったんですねぇ。
我社の主役は社員一人ひとり。私は、そんな社員たちの日常を綴ってみたいと考えたんですねぇ。

もちろん、ネタなんてありませんよ。だって、今まで社員を見てこなかったんですからねぇ。
でも、書かなきゃいけないって書き始めたら、今まで仕事に囚われていた私と何も変わりません。
ふと、書きたいと思ったら少しずつ、拙くても書いていこうと思っているわけなんですねぇ。
ははは、どうなることやら。

「おい、財前」

黒川専務。今日もダブルスーツが似合っていますねぇ。彼の出で立ちはまさに某ドラマに出てきた……

「財前こっちを見ろ」

……決意を新たにこの文章を綴っている私の前で、黒川のやつが神妙な顔つきをしていますねぇ。どうしたんですかねぇ。

「趣味を持つのはいいことだが、さすがに今はやめろ。役員会議中だお」

ふと顔を上げると皆さんめっちゃこっち見てるんですねぇ。


……それでは、まだまだ書き足りないところですが、今日はこの辺にいたしましょうかねぇ。
それでは、また会える日を楽しみにしておりますねぇ。


※フィクションです。


next → #2

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?