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人生初・短編集『11文字の檻』青崎 有吾【読書記録:001】

何気なく寄った本屋にて推されていたので購入。
帯文の「表題作に頭ぶち抜かれた」という表現が引っ掛かりました。何それめっちゃ面白そうやん。
短編集を買うのは初めてだし、文庫本を買うのも久しぶりです。
以下、各章ごとの感想です。

※一部内容ネタバレあります。


加速してゆく

平成17年(2005年)に起きた、JR福知山線脱線事故が発生した日を描いたお話。先日、この脱線事故の追悼式のニュースが報じられていたので載っけておきます。

主人公は、たまたま事故発生時に隣駅にいた新聞社のカメラマン。
タクシーで現場に向かいますが、そこで彼が見た事故現場の状況がまあ悲惨。
えぐい表現は一切ないものの、転覆した車両がズタズタになった様や、如何ほどのスピードでマンションに激突し大破したのかが詳細に書かれており、読んでいる自分も心にズンと来る虚無感を味わいました。

ただ、事故は事故として、本作の主軸はちょっと別のところにあります。事故の前後で、カメラマンと出会うとある青年。彼の苦悩が本作のメインのお話。
テーマは「忘れる」。青年の「忘れたいこと」と上記の脱線事故が複雑に絡み合って…という話。

どんなに悲惨な事故が起きようとも、人々は次から次へと押し寄せる情報に目移りして、過去の出来事としてどんどん興味を失っていきます。
個人的には、「忘れる」ことは人類が編み出した唯一の「自分が自分を赦す方法」なんじゃないかな、と思いますが、この物語では「忘れない」ことにも大事な意味があるよ、と言ってくれています。特に都合が悪いことなら尚更。

加速しすぎればレールを外れる。
そうならないよう、撮り続ける。
残酷と言われても。醜悪と言われても。

噤ヶ森の硝子屋敷

”つぐみがもりのがらすやしき”だそう。読めねえよ。

がっつり館ものミステリー。
人里離れた土地で、謎めいた洋館が出てきて、密室殺人が起きて…。
短編にもかかわらずテンプレてんこ盛りで本格的。

なんだけど、探偵が出てきた瞬間一気にファンタジー感が…。
「薄気味 良悪(うすきみ よしあし)」とかいう変な名前で、甚平着ててめっちゃ多弁で、それでいてとんでもなく美形な外人。ってどんな属性よ!?
(変わった探偵というのもテンプレっちゃテンプレ?)

思春期に悪影響を及ぼしそうなキャラはともかく、犯人の思惑やトリックは短いながらに大胆で、ちょっと強引なところもあるけどロジカル。
ぎり推理できるレベルを保っていて、解決パートは「なるほどね~」の連続でした。もちろん全然解けなかったわ ^^

事件発生から解決までめちゃくちゃスピーディーでテンポよく進むため、長ったらしい重厚ミステリーが苦手な人はおすすめかも。
動機とか2,3行でまとめられてて笑ったし、ここまで無駄をそぎ落としても面白いミステリーって書けるんだな、って思いました。

前髪は空を向いている

正直、なんだこの話?と思いました。
登場人物は多すぎるし、やたらと口語調だし、前の二作品とは全然違う。
ただ、読み終わった後にあとがきの解説を見てやっと理解。
どうもこの作品は、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』という漫画の公式二次創作だそう。元ネタがあると思って読み返すと納得。初見じゃ情報過多すぎて訳分からなくなりました。

元ネタを知らないので、普通に小説としての感想になりますが、、、

友達ってなんだっけ?仲が良いってなんだっけ?という、思春期特有の哲学的悩みで苦悩する女の子のお話。
当人からしたら、たぶん世界が終わるほど絶望を感じる悩みなんだろうな…。

大人になったらなんとなく流せることでも、言語化が出来なくてモヤモヤして、頭の中がそれでいっぱいになって、ぐるぐると同じことを考え続けてしまう。自分が世界で一番不幸に感じてしまう。
でもそういうのって、案外ちょっとしたきっかけでフッと解消することも多いと思います。
囚われていた負のループは、外部からちょっと刺激を与えるだけで簡単に抜け出せる。みんな同じようなことで悩んでいたんだな、自分だけじゃないんだなって気づく。
過去に私自身が似たような経験があるから、この話はすごく懐かしく、むずがゆく、じんわりと感動しました。

あと感想ではないけど、あとがきの解説パートを読んで、元ネタに対する作者の熱量をものすごく感じました。この人めっちゃオタク気質なんですね。他のショートショート作品より解説にページ割いてるもん。
でもその熱量にやられたのか、ちょっとAmazonでポチろうかな、と思ってしまいました。(上手く乗せられている気が…)

―あんたには関係ないでしょ。
―あるよ。私も一緒だ。

your name

超ショートショートミステリー。
たったの3ページ。でもしっかりトリックあり(しかも叙述トリック!)。

そしてまた出たよ、謎の設定盛り盛り探偵…。
今度はツルッパゲで、"南無三"と書かれたTシャツを着た、「水雲 雲水(もずく うんすい)」というペンネームみたいな名前の青年。
これ探偵バトル漫画でも始まるんですか??

流石に短すぎる話なので感想も少なめだけど、ちゃんとしたミステリーでここまでコンパクトなのは初めてだったからすごい新鮮。
ショートミステリーだけ集めた小説集ってのもあるみたいですね。気になるから読んでみようかな。

飽くまで

いや怖すぎる。

なんやねんこの話。世にも奇妙な物語か?
電車での移動時間中にこの話を読んだんだけど、普通に気分が悪くなりました。

サイコ男がただ欲望に忠実に過ごす話。
どうして?なんでこんなことを?というのは皆無、ただやりたいからやる。
淡々と進んでいくところに社会性のなさが表れていて寒気がしちゃう。
あぁもうだめだこの人…と思ってたらそのまま話が終わりました。

イヤミスってこういう感じ?でもミステリーでもないような。
一作品一作品に、心揺さぶりまくられています。

クレープまでは終わらせない

これまでと打って変わってSF青春もの。
戦闘用巨大ロボットを清掃する、二人の女子高生アルバイトが主人公。(文字にするとすごいな…)

「心愛(ここあ)」という名前が古めかしいと言うあたり、50年後くらいの世界なのかな。
ただ、「ソソる」という謎ワードが若者の間で流行ってる感じは、今と変わらずちょっとリアル。
あと死生観についてもなんだか現実味があります。
達観した見方というか、主人公の片割れが醸し出す「どうせみんなすぐ死ぬっしょ」みたいな諦めムードについても、現代の若者の思考の延長線上にある感じがします。
(まあ確かに、巨大な怪獣が襲ってくるような世界になれば、こんな考えが助長されるのは当たり前ですね。)
「前髪は空を向いている」に通じる青さがあり、儚さがあり、清涼感がある作品です。このタイトル、どの章よりも好き。

この本のカバーイラストを描いている田中寛崇さんとの合作とのこと。
(あとがき的にイラストが最初にあって、そこからお話を作った感じ?)
ネットで名前を検索すると色々なイラストを見ることができます。
めちゃくちゃ細かい書き込みの背景に、まぶしい黄色とかピンク色とかをベタっと使っているイラストが多く、単一で塗っているからこその透明感、カラッとした空気感がとっても好きです。あと女の子が可愛い。

恋澤姉妹

ここら辺から完全に、「あ、この作者、ごりっごりのラノベ世代なんや」と思い始めました。
癖の強すぎるキャラとか、友情と恋愛の狭間の甘苦さとか、非日常の中の日常感とか、扱う作品のところどころに懐かしい匂いを感じます。
この作品は、『彼女。百合小説アンソロジー』という百合作品集に収録されているとのこと。はい、今度は百合ものです。

なんか斜線堂有紀さんとか乾くるみさんとかよく見る名前…また購買意欲への刺激が…。

ともかく感想ですが、これ言語化するのがめちゃくちゃ難しい。
一つ言えるとすれば、最後まで読み切るまでこれが「百合」作品だと思いませんでした。

自分は、高校生の夏に初めて「百合」という存在に出会い、触れてはいけないものに触れてしまったあの感覚に心をぐっちゃぐちゃされて、炎天下の屋外プールで、練習をサボって放心状態のまま終始ぷかぷか浮いていた、という黒歴史があります。(当時水泳部でした)
百合作品を見ると、その時に感じていた感覚がベースになってしまい、かなりカロリーを感じてしまうのですが、この作品についてはちょっと違いました。

ロードムービーの構成だからか?あまり心情を表立って表現していなかったからか?自分でもよく分かりません。
作品自体が「触れてはいけないものに触れるお話」ではなく、「触れてはいけないものに触れたい人たちのお話」だからかも。禁忌・聖域に踏み込んだ話というよりは、語り継がれる伝承を聞いて回るのがメインストーリーで、最後の最後にちょっとだけ秘密を覗き見できるだけの話。
あとがきにもちょっと書いてありますが、「自省」の意味が強い物語でもあるんでしょうね。不可侵な関係を他者が味わおうと思うこと自体がそもそもおかしいよ、というのを、物語として読者に伝えているというか。
いろいろ考えさせられるところはあるけど、とにかく読んでいてカロリーは感じなかったし、むしろとっても爽やかな作品だったと感じました。

今の自分にできる言語化はこんなところが限界です。

11文字の檻

出ました、問題の表題作。
「絶賛が止まらない」「表題作がすごい迫力」なんて書かれたら誰だって期待しちゃいます。

結論から言うと、電車での移動中に読んだのが間違いでした。
これは寝る前に一気見するべき。乗り換えとかの時間がマジで嫌になるくらい、続きが気になってしょうがなかったです。

国家に言論統制されたディストピアを舞台に、とある収容所内で「11文字のパスワード」を当てるゲームをさせられる。当てれば出所。
元官能小説家の主人公が、数少ないヒントの中からロジックを組み立て、パスワード当てに挑んでいく。

主人公がパスワードを考える軌跡が、それはもう凡事徹底を地で行く地味さです。
勿論ただひたすらローラーするわけではなく、確実に一歩ずつ情報を積み上げて、収容所内のルールを紐解き、論理を組み立てて、正解を絞っていく。
収容所内で長く過ごす中で、ヒントとなる情報が少しずつ集まっていきますが、「正直、これが分かってどうなるの…?」というものばかりです。
それらを駆使し、あらゆる角度で照らし合わせながら、場外からじわじわと攻略法を考えていく様は、とんでもなくワクワクして、読んでるこっちが脳汁出ます。

読む前は「11文字の檻」は何かのメタファーなのかな、と思っていましたが、たぶん創作物すべてに対して言える「産みの苦しみ」のことを指していると思います。
作中で、11文字を当てる行為は、正解の文字列を探す行為であり、それは理想の小説を書くことと全く同じであり、一種の刑罰のようなものでもある、と書かれていました。
何が正解かは分からないけど、地道に取材し、研究し、理解していくことで少しずつ少しずつ正解に近いものを作り出していく。あらゆるクリエイターがその繰り返しなんだろうな、と思います。
ぐっと心に来る閉塞感を感じるけど、正解を導き出せば、多くのファンを満足させることができる。たぶん、この話のラストの展開もそういうことに通じているのかな、と感じました。あくまで勝手な妄想だけど。

ともかく、めちゃくちゃ面白くて、いろんな人にオススメしたいお話です。後半で物語がひっくり返るカタルシスが溜まらないです。
『ユージュアルサスペクツ』のような、煙に巻かれてバッドエンドと思わされて、最後の最後に本当の真実が分かってスカッとする系は、いつ見ても鳥肌が立つくらい興奮しちゃいます。
肝心のパスワードについては、自分が馬鹿すぎて全然思いつきませんでした!一生出所できんわ!

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以上、感想とかいろいろ思ったことでした。
どのお話も完成度が高く、とっても読み応えのある短編集でした!
作者さんは、「本格ロジカルミステリー」と「情愛の心の機微の表現」に重心を寄せた方だな、という印象です。他の作品も読みたいです!

読むことはすごく楽しかったけれど、文字に起こすことがめちゃくちゃ苦でした…つかれた〜。
文字を書く練習も兼ねて、適度に頑張ろうと思います!!!

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