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俳句日記⑥

鉄線花鉄路の果てにある昨日


鉄線花の蔓はしなやかで勁く、その線の美しさは時にまっすぐに、時に弧を描きつつどこまでも伸びてゆく鉄路のそれを思わせる。

もう四半世紀も前になるが、高校時代は電車で通学していた。部活動の朝練があったから、朝6時を少し過ぎたくらいの電車に毎日飛び乗っていた。

そのくらいの時間だと、車両の中には朝練のある高校生と、早朝からの仕事のある労務者風の人々が数名乗っているだけだった。毎日毎日、同じ車両の同じ席にその人たちは座っていた。
名前も知らないし、もちろん一度も話したことも挨拶を交わしたことさえない人々だったが、今でもその人たちの顔をはっきりと思い出すことができる。
級友たちの顔でさえ、記憶の中で、もうあやふやになってしまっているのに不思議なことだ。
高校のある街に着く前に、大きな川を渡った。
電車が鉄橋を渡り終えると、車両が決まって大きく左右に揺れる地点があり、私はレールが緩やかに弧を描いていくその場所を、車窓越しにいつも見つめていた。

その辺りになると朝日が線路を照らし始め、レールは到着駅に向かってオレンジ色に輝き出した。しなやかな光の線は前方へとどこまでも伸びていった。

あの鉄路の輝きは、すでに遠い日のものだ。けれどもそれは、未だ昨日のことのようでもある。






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