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ショートショート|魔法廃止
『若者の魔法離れ』
最近よく目にする言葉だ。いつからだろうか、若者たちの生活には魔法はあまり必要ないみたいだ。国家魔法士として生計を立てている私にとっては耳が痛い話である。
さらにここ数年、あきらかに仕事が減ってきているのを実感している。
理由はいろいろあるが、第一に『科学』人気がすごいのだ。歴史的には、古代から人類に親しまれてきたのは『魔法』で、『科学』が後を追うように発展してきた。常に『魔法』は『科学』の先を行ってきた。
しかし、近年はこの序列が完全に逆転してしまった。
白状しよう。私もスマホとパソコンを持ち、国家魔法士としての仕事に活用している。念話魔法に絵文字は無いし、魔法の杖はネットに繋がらない。
テレビを見れば、どこかの国が戦争をしているニュースが流れているが、魔法はほぼ使われていない。兵器のほうが簡単に蹂躙できるらしい。そりゃそうだ。魔法を覚えるより、銃を買ったほうが簡単だ。
ここ数年のインフレも魔法離れに拍車をかけていた。もともと高値である魔導書は、ついに誰も買わなくなった。なんでも、魔導書を節約したお金で、「S&P500」や「オルカン」といった投資信託を買い、「つみたてNISA」で運用するのが流行りみたいだ。若いうちから殊勝なことだが、私から言わせてもらえば、魔導書をたくさん読むことも自己投資だよ。
最近、世の中にタイパ(タイムパフォーマンス)重視のながれが来たので、魔法の詠唱破棄のやり方をブログにアップした。が、そもそもかなり難しく、挫折する人がほとんどの技術なので、アクセス数は伸びなかった。ついに私の時代が来た!と思ったのだが……。
このあたりから、私はバイトで食いつなぐ日々を送っていた。
*
ある日、政府が重大な発表をするということで、総理大臣が会見を行った。
「魔法の廃止を決定いたします」
はじめは何を言っているのかわからず、唖然とした。
「近年の研究によりますと……」
総理大臣の発表によると、人間が『魔法』を使うとき、実は『魔素』と呼ばれるエネルギーをを大量に使っていることが判明したらしい。この『魔素』は地球の大事なエネルギーのひとつで、このままだと二年後には枯渇し、この惑星の活動は停止するというものだった。
もともと魔法は廃れてきていたし、地球の命運もかかっているので、この決定に反対するものは少なかった。個人的にはさびしいが、仕方ない。
*
魔法廃止の日。日本中の優秀な国家魔法士が集められ、私にも声がかけられていた。
国家魔法士たちによる『大規模記憶消去魔法』を使い、魔法を使ってきた痕跡をすべて消す。もう二度と魔法が使われないように。
まさか最後にこんな大仕事に携われるなんて思いもしなかったが、私は魔法の無い世界を生きていけるのだろうか。
因果を歪められた先の私は、いったい何をしているのだろうか。
国家魔法士のような、誇りある仕事をしているといいが。
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