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記録(2024/7)

書籍

  • 『アンナ・カレーニナ』上中下 トルストイ(木村浩訳)
    読もう読もうと思っていたものを、スラヴ文学史の期末レポートのために意を決して読む。面白かった。第二の主人公リョーヴィンが、空の雲や星をよく観察しながらものごとを考えているのが面白い。最後の雷の場面しかり。アンナの部分は感情の率直な表現に胸がつまる。鉄道自殺の前夜、不倫相手のヴロンスキーの顔を見つめるところ。
    「ヴロンスキーは書斎でぐっすり眠っていた。アンナは彼のそばへ近づいて、その顔を上からのぞきこみながら、長いことじっと見入っていた。彼が眠っている今、アンナは彼に深い愛情を感じて、その顔をながめていると、思わずいとしさの涙をおさえかねるほどであった。それにもかかわらず、アンナは、もし彼が目をさましたら、きっと、おのれの正しさを信じきっているあの冷やかなまなざしで自分を見るだろうし、自分も愛情を語る前に、彼が自分に対してどんなにすまないことをしたか、証明してやらなければ気がすまないだろうことを承知していた。」(第七編26)

  • 『あなたに語る日本文学史』大岡信
    読者も自分の「日本文学史」を語ってみたくなる一冊。ところで学生短歌会合同合宿の勉強会で少し、和歌史を考えようと思っています。院試の勉強の間に合い具合によって、扱う規模が変わってしまいますが、どうなるでしょうか……。

  • 『能』高岡一弥、高橋睦郎、森田拾史郎など

  • 『能楽の源流を東アジアに問う』野村伸一・竹内光浩・保立道久編

  • 『日本文学における漢語表現』小島憲之

  • 『短歌復活のために 子規の歌論書簡』玉城徹
    「何を継承するか」というタイトルの序章がとても示唆に富んでいた。

  • 浮世草子「仁勢物語」

  • 「好色一代男」井原西鶴
    一代男に限らないが、和歌や物語・流行歌など様々なジャンル・位相の言葉を縦横無尽・つぎつぎに引用する文体は、案外謡曲の綴れ織り調と似たものがある。それは結局俳諧連歌のあり方からきてもいるのであって、謡曲、連歌、近世小説をつなぐ線はわりにはっきりしているように思われる。

  • 「厭離欣求百首」慈円

  • 『歌論集』(新日本古典文学全集)
    「俊頼髄脳」「古来風躰抄」「近代秀歌」「詠歌大概」「毎月抄」「国歌八論」「歌意考」「新学異見」。歌論というのは畢竟アンソロジーなのだということを実感させられる。「毎月抄」は、近年定家本人によるものとは考えない(後代の仮託)説が優勢に思われるが、一読者としては、もっともらしいことが詳しく分かりやすく書いてあり、読んでいて勉強にはなる。「稽古」の論など。

  • 『星の嵌め殺し』川野芽生
    連作として深く印象に残ったのは「恐竜の不在」「地上のアリス」「立つのみの旅」あたりであろうか。何度も読み直していきたい。漢詩文、漢語をどう考えるかということは短歌にとって本当に重要なことだというのが私の最近の問題意識で、その観点から「訳詩集」として唐代の漢詩の翻案歌を載せていたのも面白かった。

舞台

  • 納涼能「初雪」「天鼓 盤渉」
    「初雪」はワキがおらず、登場人物が姫と上臈と鶏の精だけなので、男性が一切劇中に登場しないという意味でも珍しい稀曲。五段の中之舞が華やか。金剛の若宗家と福王和幸先生の仕舞「大蛇」も、滅多に見ないもので素晴らしかった。

  • 英語能「青い月のメンフィス」
    現代の英語で書かれていても、意外と謡はそれっぽくなるのは発見であった。

  • 洩花之能「実盛」
    馬場先生などの解説つき。実盛という能は初めて拝見したが、一遍上人を出す前場の趣向が面白い。

  • 国立能楽堂特別公演「鬼瓦」「定家 袖神楽 六道 埋留」
    貴重な小書尽くしの上演。作り物に背中を預けて回り込むように最後入っていったのは凄絶な印象。前見た時あまり気づかなかったが、今回は後シテの最初の謡の詞章が綺麗に感じられた。「昔は松風蘿月に言葉を交はし 翠帳紅閨に枕を並べ さまざまなりし情の末 花も紅葉も散りぢりに 朝の雲 タベの雨と 故事も今の身も 夢も現も 幻も 共に無常の世となりて跡も残らず」云々。こういうところの禅竹の漢語の使い方を勉強する必要がある。
    氷川まりこ先生の事前講座にご招待頂き話を聞く。薬草喩品の大事さがわかった。

今月は珍しく観世流のお能を一番も見なかった。
日本近代文学館 夏の文学教室@よみうりホール。森山恵さんの、ウェイリー源氏の翻訳の話が面白かった。
上野の森美術館、石川九楊大全 状況篇「言葉は雨のように降りそそいだ」。河東碧梧桐一〇九句の書が圧巻。

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