哀しき侵入者

なぜここまで嫌われるのか?

我々にも分からないのですから、彼ら/彼女らはもっと解せないでしょう。

彼ら/彼女らは、そりゃ慎ましいです。堂々と出てくることなんか滅多にありません。

我々を挑発するような行為に及ぶこともありません。むしろ、目が合うとソソクサと、カサコソと、暗がりへと身を潜めます。

大概が家具と家具の間、あるいは電化製品と電化製品の隙間、もしくは家具と電化製品の狭隘に逃げ込んで行くのです。

実に奥ゆかしいのです。

だのに。なぜ。

我々は彼ら/彼女らを追及して止まないのか。

姿を見ると「キャー!」とか言って意識を失う者もいれば、逆に勇敢な姿を異性に見せようとイキがる者が必ず現れます。

勇者の方はその腕に新聞紙等を丸めた棒状の物、あるいは手のひらの丸みに添うような形で10枚程重ねられたティッシュを持ちながら、彼ら/彼女らにしたら傍迷惑でしかない追跡を開始するのです。

なぜ。

まず第一に彼ら/彼女らの見た目が挙げられます。近年批判の対象となっている、いわゆる「ルッキズム」というやつです。

人間同士なら「そんなの良くないよ」とか言うやつが、彼ら/彼女らには何かと手厳しい。

そしてもう一つが、彼ら/彼女らの飛行能力に対する恐怖。

人間が持ち得ないその能力への憧れ。

つまるところ、人間がゴキブリをかくも毛嫌いするその理由は、彼ら/彼女らへの憧れからということになりそうです。

#創作大賞2024 #エッセイ部門


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