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インボイス制度入門とデジタル化の考え方

インボイスについての個別具体的な問い合わせがあったり、巷でインボイスを巡って対立が生まれていたり、本当に罪な制度だなと思います。

しかし、仕事柄できるだけ分かりやすく制度を伝え、事務業務によって企業の生産性が落ちないように仕組みも提案する必要があると考えています。

そこで普段のセミナーの内容をふまえ、あらためてnoteにも書いておこうと思います。できるだけ誤解がないように、わかりやすいようにしているので、このnoteでは分かった気になれるだけです。(間違いあればこそっと教えてください!)

こちらが全スライドです。
はっきり最初に申し上げておきますが、私はインボイス制度には反対ですし、もっと生産的な仕事がしたいです。

インボイスは多様な論点があり、すべてを網羅するのは大変すぎるし、まずは自分の関係する情報だけを抑えるのが理解するためのポイントです。自分の必要な情報だけピックアップしましょう。

まずは消費税がどのような仕組みで納税されているかを理解すると、全体像がイメージできると思います。

お店でものを買った時に、消費税が10%、持ち帰りの飲食品などは8%の軽減税率があるのは大丈夫かと思います。

そうすると、その払った消費税というのは消費者はお店に払っているわけで、どうやって国に納税されているのでしょうか。

広報記事一つとっても、ライターさんやカメラマンさんなどの業者が関わっていることが多いですよね。理論的には各取引事業者が各取引段階で納税しているというような形をとっています。

たとえば、広報記事の作成を依頼した際に会社に11,000円支払うとします。その消費税1000円は、各取引事業者が受け取った消費税と払った消費税の差額を納税していきます。(※各論あります)
現実にはそんなうまくすべてが納税がされる訳ではありませんが、これが間接税と言われる納税の仕組みになります。

一番最初の広報記事の依頼を受けた会社は、上記のように申告をします。
受け取った消費税1000円から払った消費税700円を引いて300円を納税する。
この払った消費税を引いていい、というのを「仕入税額控除」といいます。

インボイス制度を一言でいうと、この仕入税額控除の要件が変わります。

今までは帳簿への記載や請求書を保存していれば払った消費税として引くことを認められたものが、インボイスの保存がないと払った消費税として認めない=消費税を引くことができないということになります。

さきほどの例だと、ライターさんが免税事業者であればインボイスを発行できないので、会社側が700円を払った消費税として認められないため控除できず、1000円-0円で1000円を納税するようなイメージです。

もちろん急にそうなると大変なので、当初3年間はインボイスがなくても700円×80%=560円は引くことができ、1000円-560円=440円納税となります。

とはいえ、同じ仕事を依頼しているのに、インボイスをもらえるかどうかで企業としては税負担が変わってしまうようになります。

そうすると、企業としては当然死活問題なので取引先にインボイスの発行をお願いしているというのが現状です。

当初3年間は軽減があり2%の税負担が増えるといっても、外注費の2%が増えるということになるので、外注費が多い会社にとっては大きな問題です。

個人の職人をかかえる建設業界、個人ガイドとの取引が多い観光業界、個人のアーティストとの取引が多い文化芸術業界は非常に影響が大きく、交響楽団の方とお話していた際には、存続にかかわる問題だとお話されていました。

ここからは、これまで免税事業者だった方に焦点を当ててお話しましょう。

こちら側ですね!誰に必要な話をしているか迷子にならないようにしてください。

インボイスとは、何か特殊な請求書を発行するかというとそうではありません。これまでの請求書も何かシステムで出したり、様式をダウンロードしていれば消費税額や税率などが記載されていたかと思います。
であれば、あとは請求書に事業者の登録番号を記載するだけになります。

インボイスをつくるのに必要な事業者の登録番号は、税務署に申請をして発行してもらいます。

ところが、登録番号は免税事業者ではもらえないことになっています。
インボイスの登録申請をすると自動的に課税事業者=消費税の申告納付が必要になります。

申請自体はとても簡単で申請書を提出すれば登録番号が発行されます。発行まで3~4週間かかることもあるので提出は早めにしましょう。

10月までに取引先がインボイスを出してほしいということで登録申請をした場合、10月~12月分から消費税の確定申告と納付が必要になります。

所得税の確定申告と同じ時期ですが、別途消費税の申告書を作成して納付することになります。

今まで免税事業者でよかった方が、インボイスのために課税事業者になった場合、2割特例による申告ができます。

消費税の申告では、支払った消費税を正確に集計するというのはかなり難しい作業になります。また、負担もいきなりふえることになるので緩和措置が設けられています。

申告では、売上にかかる消費税のうち80%を概算で払った消費税として引いていいよ、という特例なので、受け取った消費税が1000円の場合、800円を引いて200円納税することになります。計算も簡単ですね。

じゃあ結局わたしはどうしたらいいの?という声が聞こえてきそうです。

まずはインボイスを出すか出さないか決めましょう。
それは自社が普段取引している企業に応じて対応が決まってくるかなと思います。

出すのなら消費税申告と納付がありますが、しばらくは負担も軽減されています。出さないのであれば今まで通りですが、取引価格の値下げ要請や新しい取引が難しくなるなど影響は徐々に出てくると思います。

子供向けのピアノ教室をされている方で、「私もインボイス登録した方がいいですか?」という質問がありましたが、そのような事業であれば生徒はインボイス登録番号の入った領収書を求めないので、登録をしなくて構いません。むしろ登録すると損になります。

このあたり、本来は不要なのに登録してしまったケースも出てくると思いますが非常にもったいないので、是非お知り合いの税理士さんに確認できるといいですね。

次に、支払側のインボイスの注意点です。

こちらの外注としてフリーランスなどにお仕事を出す方の話です。もちろんこれは外注だけではなく、消耗品を買ったり、交際費だったり、あらゆる支払いに関連してきます。

そして、重要なことですが売上が5000万円以下で簡易課税という制度を使っていたり、さきほどの2割特例を使う事業者に関しては、概算で払った消費税を計算するので、この後の支払い側の話は現状必要ありません

簡易課税をせっかく選択しているのに、一生懸命インボイスを集めて時間や手間を無駄にしたという声も聞こえてきそうなので、まずその点ご注意ください。

簡易課税でなければこちらのように、払った消費税を集計して、インボイスの保存ができているかの確認をします。

外注先が請求書を発行してくれないようなケースも多いですね。その場合は、相手先がインボイス登録事業者であることが前提ですが、会社側で仕入明細書を作成して、相手の確認をとるというようなことでもインボイスとして認められます。

帳簿のみの保存でも払った消費税として認められるものがありますが、こちらは帳簿への記載方法など別途色々と求められることがありますので、また詳細は確認をしてください。

ここでもう一つ特例があります。基準期間の売上が1億円以下の会社であれば税込1万円未満の支払いはインボイスがなくてもOKです。
特例ありすぎてややこしい問題ですが、、、

免税事業者側からの問題点はメディアで多く取り上げられますが、発注側となる会社の負担がかなり大きいのがインボイス制度です。インボイスかそうでないかの管理をはじめ事務的な負担が増えます。

そうなると免税事業者との取引を再検討せざるを得ません。

こちらもいきなりインボイスがなければ一切消費税を認めないという訳ではなく、当初3年間は80%控除可能、4年目から6年までは50%控除可能というように経過措置があります。

具体的な事例で示すと、このような感じですね。700円全額が認められないわけではなく、当初3年間は700円×80%=560円は認められます。

そうすると、経過措置があったとしても140円部分は会社側の負担になります。インボイス登録をしない免税事業者との取引を今まで通り継続すると会社側の税負担が増えてしまうのか。

少なくとも税負担が増える部分については取引価格の引き下げを要請し、双方納得の上で取引価格を設定しても差し支えない旨のQ&Aが公正取引委員会等から出ています。

もちろんいきなり10%値下げするというのは、会社負担に関する軽減措置を踏まえるとNGですが、免税事業者側が消費税申告をしなくて済む代わりに増える会社側の負担については交渉すべきでしょう。

「取引先から値下げされた」その言葉だけとらえると免税事業者側がかわいそうに思いますが、免税事業者が負担すべき消費税を会社側が肩代わりせざるを得ない状況はもっとおかしな話です。

責めるべきは制度です。
政治に対する訴えはしつつ、取引ではお互いに良い関係を継続できるよう、正しく制度を理解して取引価格を検討しましょう。

ここからはインボイス制度と切っては切れない関係のデジタル化のお話です。

ちょうどタイミング的に改正電子帳簿保存法も令和6年1月から施行になります。大きなものとしては電子データの保存ですね。
事務コストとしてはインボイス制度対応と合わせて考え、業務の流れを改善しましょう。

インボイスに対しても猶予措置があり2%値下げならいいや、という方もいるでしょう。

電子帳簿保存についても猶予措置があり、こちらもしばらくの間は対策しなくても問題なさそうです。やったね!

やったね!と言っている間に、苦しみながらデジタル化を進めた企業と差をつけられていきます。

経営者の関心は人手不足による採用や定着でしょうか。事務業務のデジタル化が進んでいない企業は、採用定着のためにも業務のデジタル化を進めましょう。
理念に共感して入社しても業務がアナログなままの企業では優秀な人材が定着するはずもありません。

また、人手不足の前にその事務業務を人にやらせる必要があるのかを考えましょう。

現在のクラウドシステムは、経理機能に限らず請求書を読み込んだ時点で支払先、支払年月日、金額、税区分判定、勘定科目の推測、インボイス登録の確認までできるようになっています。
つまり、そこまでは人がする作業ではなくなっているのが現状です。

本当にあったこわい話ですが、税理士に言われて仕訳にインボイス番号を入力しないといけないと思っている経理さんがいました。無駄です。

こちらも電子帳簿保存対応のため一時期言われた話ですが、大事なのはファイル名ではなく、検索要件の確保です。会計ソフトなど導入して他の方法で検索できればいいのです。無駄な仕事を増やさないために考えましょう。

こちらはメーカーから顧問先にも提案があったものですが、電子帳簿保存法対応のためだけのクラウドシステムでした。
保存した結果、それを経理業務や支払業務の効率化に繋げられるかどうかがポイントです。
法対応のためだけのシステム導入は本末転倒なので、きちんと業務の流れを考えましょう。

システム導入となるとこんな社長ばかりで嫌になりますね。これではいつまで経っても社員のスキルが上がりません。多くの場合DXが必要なのは経営者、リスキリングすべきは経営者なのです。

とはいえ、経営者だけではない曲者揃いの中小企業。変わりたい人や企業には国も私たちのような支援者も一生懸命支援していきます。

ただ法対応するのではなく、同時にデジタル化による生産性の向上を図りましょう。

インボイスも電子帳簿保存法もデジタル社会ありきの制度です。そのデジタル化が一向に進んでこなかったのも大きな問題。

猶予や今まで通りのやり方に固執せず、変化に対応していきましょう!

全体の内容としては、基本的な仕組みを理解した上で、自分の立場に関係のある内容を中心に理解を進めてください。

外部環境が目まぐるしく変わっていく中で、いかに変化にうまく対応していくかが問われます。お役に立てることがあれば手伝いますので、がんばっていきましょう!

みなさまのサポートがとても嬉しいです!いつも読んでいただいてありがとうございます!