見出し画像

【コラム】3月開催オークション-近代化を目指した陶芸作家・波山と憲吉-

こんにちは。

 一日の寒暖差や、花粉に乾燥、何かと体調を崩しやすい時期ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?

さて2月末日に、弊社は事務所を中央区銀座から、東京駅丸の内出口にほど近い郵船ビルディング(東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階2階)へ移転いたしました。それに伴いまして皆様にご不便、ご迷惑をお掛けしており大変申し訳ありませんが、引き続きご愛顧賜りますようお願い申し上げます。

 そして、来週23日土曜日に新規会場にて「近代美術/コンテンポラリーアート/近代美術PartⅡ/近代陶芸/近代陶芸PartⅡオークション」を開催いたします。その中から、近代陶芸オークションに出品されます作品をご紹介したいと思います。

 板谷波山【1872-1963(明治5-昭和38)】と富本憲吉【1886-1963(明治19-昭和38)】は、陶芸界を近代化させた立役者と言って過言ではありません。波山と富本は、14歳の年の差がありましが、奇しくも1963(昭和38)年に二人ともこの世を去っています。同じように陶芸作家としての高みを目指した二人でしたが、波山は1960(昭和35)年に、重要無形文化財保持者に推挙されるも辞退しており、一方、富本は1955(昭和30)年の2月に、「色絵磁器」で第一回重要無形文化財保持者の認定を受けました。二人の最終的に目指した先は、似て非なるものでしたが、近代化していく社会へ見合う陶芸作品を模索し続けました。

LOT.148 富本憲吉《色繪金彩黄蜀葵飾壷》
H27.4×D32.2cm
高台内に描き銘「富」共箱 
1930(昭和5)年作
「富本憲吉展」出品 東京国立近代美術館工芸館/1991(平成3)年
『富本憲吉全集2』掲載 No.227(小学館)
落札予想価格:300万円~500万円

西洋化する室内装飾の一つとして、富本は「飾壷(かざりつぼ)」を多く手掛けました。本作のモティーフである“黄蜀葵”(おうしょっき)とは、“とろろあおい”とも読み、中国原産のアオイ科の植物のことです。黄蜀葵の根は、手すき和紙の繊維を均一にする「ネリ」として使用されており、夏に咲く黄色い大ぶりな花は、古くから画題として扱われてきました。富本憲吉は、模様作りのために描いた写生を『模様選集』として残しており、そのなかには黄蜀葵の図案も見られます。1923(大正12)年8月31日、関東大震災の前日に広島の尾道向島で写生されたもので、元々、富本の父が好んだ花であったことから、自宅の庭に植えられていた馴染み深いものでした。

本作制作の前年1929(昭和4)年に制作された東京国立近代博物館蔵《銀襴手大飾壷》は、本作と同じように胴部に大きく黄蜀葵が配置されていますが、銀でさらっと輪郭が描かれているだけです。一方本作は、しっかりとした金の縁取りに、銀で中を塗り込めており、力強い作品に仕上げられています。この年に金銀泥の同時焼成を試みており、後の色絵金銀彩に繋がる成功例の貴重な作といえるでしょう。


 また、板谷波山も動植物の写生集『器物図集』を著しています。

LOT.145 板谷波山《彩磁水差 草花文》
H18.5×D17.4cm
高台内に印銘「波山」
1941(昭和16)年頃の作
板谷佐久良箱
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
落札予想価格:200万円~300万円

板谷波山の図案で特徴的なのは、アール・ヌーヴォー、アール・デコなど研究をし、意匠の変遷が見られることです。

明治期末から大正期にかけ、大胆で優美な曲線を生かしたアール・ヌーヴォー調の作品が制作されました。そして昭和初期にかけては、花卉や茎がまっすぐに配置されたアール・デコの特徴を持った図案や、更紗文様を取り入れた意匠が手掛けられました。本作は、風に揺らいでいるようなヌーヴォー的な曲線の葉と、デコに通じる直線の茎と一輪の花、そして左右対称の図案はインド更紗を想起させます。波山の次男・佐久良氏の識によると、1941(昭和16)年前後の作であるといいます。この頃は、以前花瓶に使用していた最先端のデザインを、伝統的な茶道具・水指に絵付けすることで、新たな茶陶を生み出そうとしていました。本作もその一連の作品の一つでしょう。

近代陶芸界の道を切り開いた二人の陶芸家は、お互い最新の技術や様式を学び傑作を数々残しました。戦前に手掛けられたそれぞれの優品をぜひご覧になりにいらしてください。

 また、今回のオークションから弊社移転に伴い、下見会・オークション会場も変更しております。こちらからスケジュールと共にご確認ください。

*下見会・オークション会場、スケジュール、そのほかの注目作品はこちら。

オークション前日と当日は、下見会を開催しておりませんので、お気を付けください。

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。お待ちしております。                                        (江口)

〔参考文献〕・富本憲吉展/東京国立近代美術館工芸館(1991年)

・板谷波山の意匠/出光美術館(2003年)

 ・生誕150年板谷波山-時空を超えた新たなる陶芸の世界/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?