「お金がないと何もできない」を、クラウドファンディングでなくしたい
※「死ぬじゅんび」というイベントのレポート記事になります。イベントの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
「死を考えるということは、あらためて生きることを考えるきっかけになる」をテーマに、クラウドファンディング、保険や法律、葬儀のプロなどを講師に招き、みんなで最新の「死」にまつわるあれこれを学びました。
今回はクラウドファンディングサービス「polca」(ポルカ)を運営するキャンプファイヤーの山田和樹さんが語る、お金の話です。
突然の事故、頼ったのは“ネットでつながるみんな”だった。
このイベントの主催者である会社員のでんみちこさんは今年3月、長野でスキーを楽しんでいる最中に怪我をして、そのまま意識不明で病院に運ばれました。
気がついたときにはベッドの上。治療費と入院費がかかる上に、しばらく仕事はできない。ただただ募っていく、不安感。
そんなときに助けを求めたのが、キャンプファイヤーが運営する「polca」というクラウドファンディングサービスでした。クラウドファンディングとはざっくり言うと、「インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達する」ことです(キャンプファイヤーHPより)。
企業や団体が何らかのプロジェクトを開始する際に、まず市場の協力を取り付けることを目的に利用することが多いですが、polcaは個人が気軽にネットに寄付を呼びかけられるのが特徴です。
「入院しました。助けてください!」
でんさんがスキー場での事故のことやくも膜下出血と診断されたこと、不安で心細い気持ち、そして援助を求めていることをpolcaに綴ると、またたく間に約300人から合計100万円以上のお金が集まりました。
「これはいまもpolca史上最高額です」
驚いたように語るのが、キャンプファイヤー執行役員でpolca事業部事業部長の山田和樹さん。あまりの支援の多さとスピードに最初はびっくりしたとのこと。
でんさんは当初、polcaで支援を求めるにあたって、「好きなスキーをやって勝手に事故ったんだから自分でなんとかせいという意見もあって然りなんだけど……」と二の足を踏む気持ちもあったそうです。
でも山田さんは、それこそがpolcaの使い方だと語ります。「polcaはお金とコミュニケーションをなめらかにするサービスなんです」と。
歯を抜くために使うのも大歓迎!?
たとえばpolcaでは「歯医者」に行くために支援を募る人がなぜか多いといいます。現に「黒ずむ前歯を救ってください」「抜歯したい」といった企画がいくつも立ち上がっています。
じつは山田さん自身もpolcaでお金を集めて親知らずを抜いた1人です。
なおクラウドファンディングには必ずリターンが求められます。支援してくれた人たちにお返しをしないといけません。それはpolcaも例外ではないのです。
山田さんが親知らずを抜いたときに支援してくれた人たちに返したリターンは、「美味しいお店を教えます」というものでした。
それだけ?と思うでしょうか。
お金とコミュニケーションをなめらかにするというのは、そういうことなのです。山田さんはこう語ります。
「歯を抜く人、結婚する人、みんな不要不急でお金が必要になってくる。polcaはただお金を集めるだけじゃなく、歯を抜いて良かったよということをみんなに伝えられるサービス。お金と一緒に元気? がんばってね!を贈り合う、こういうやり取りを大事にしたい」
「お金がないと何もできない」というのをなくしていきたい
キャンプファイヤーという会社のミッションは、「お金の流れをカラフルに。」です。
「お金には色がない」と言われます。お金に綺麗も汚いもないという意味ですが、私たちはむしろ、もっとお金に色をつけ、カラフルな世界にしていきたい。スマホの浸透による、決済や送金の電子化。ブロックチェーンや暗号通貨などのテクノロジーの進化。お金は物質としての実態を失っていき、決済や送金のコストは極限までゼロに近づいていく。そんな近い未来、お金はコミュニケーションのツールとなっていくのではないでしょうか。例えば、鳥取の学生にプログラミングの書籍代を300円送る。例えば、古民家を改装してカフェをやろうとする若者に500円を支援する。例えば、好きなミュージシャンのレコーディング費用を3,000円送る。例えば、ある作家のオンラインコミュニティに3,000円で参加する。例えば、カンボジアの農家に農機具代を少額で融資する。そうやってコミュニケーションと共にお金が流れる世界では、きっとカラフルなはず。カラフルな感情がのった、お金のコミュニケーション。私たちはそんな世界を目指していきます。
お金は媒体そのもの。100円を払ったらそのぶんの何かモノやサービスが買えます。でもじつはもっとカラフルで人間味のある存在なのではないか、感情や暖かさがついてまわるような。
山田さんは「お金がないと何もできないというのをなくしていきたい」と言います。
「お金のない学生が300円ずつ応援してもらって大事な本を買う。誰かのお金で勉強できるようになる。そんな社会、いいじゃないですか」
そう考えると、クラウドファンディングの歴史は意外と長いのです。
19世紀、アメリカ。自由の女神像の台座修復のために新聞広告を通して資金を集めたのもクラウドファンディングですし、日本では寺院や仏像などを建立・修復するために個人から寄付を求める「勧進」もひとつのクラウドファンディングです。お祭りなどで飾られる提灯にもよく似ています。
お金だけじゃない、広がるクラウドファンディング
そしていま、クラウドファンディングはさらなる可能性を見せています。集める対象はお金だけではなく、同じ志や課題を持つ仲間、人材にまで広がってきました。
キャンプファイヤーが今年オープンしようとしているのがCAMPFIRE Owners(キャンプファイヤー オーナーズ)という新しいサービス。これは何かプロジェクトを立ち上げようとする人が小口でお金を集められる融資型クラウドファンディングで、資金需要者には「資金調達」と「応援を受け取る」場を、支援者には「利回り」と「応援を届ける場」を提供していくもの。
ほかにも、社会課題を解決する「グッドモーニング」、いろんな特技を持った仲間を募るための「ともしび」、出版社と組んで本をつくれる「エクソダス」など、さまざまな形のクラウドファンディングがすでに動き出しています。
山田さんはお話の最後をこう締めくくりました。
「人材やお金の調達がより簡単になって、お金をいいわけにせず、なんでもできる世の中にしたいです。勇気と気概とやる気があればなんでもできる社会に、お金とコミュニケーションを通じて共感と熱意も増幅される社会に」
<文:narumi 写真:T@ka>
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